競売で購入した農地に産業廃棄物が埋まっていたら?
農地を購入した後に「まさかこんなことが…」と驚愕するような事態に直面する方もいらっしゃいます。特に、農地の地下に産業廃棄物が埋められていたケースでは、健康被害や農業被害だけでなく、精神的にも大きなダメージを受けることになります。
今回は、「競売で購入した農地に産業廃棄物が埋まっていた」という事例をもとに、損害賠償請求の可否、法的な責任の所在、そして裁判所の責任まで、法的視点から詳しく解説します。
目次
相談事例:10年前に購入した農地に産業廃棄物が…
競売で取得した農地を耕作していたところ、作物の生育が悪いことに気付き、原因を探るために土地を掘削した結果、地下数メートルの深さ及びに産業廃棄物が埋められていることが判明した。表土は数十センチメートルしかなく、作物の栽培は非常に困難な状況である。
このような場合、元の所有者や産業廃棄物を埋めた業者の責任を追及することは可能なのか?
また、どのように対処すればよいのか?
元所有者に対する責任追及は?
まず考えられるのは、元の所有者に対する損害賠償請求です。しかし、この元所有者はすでに破産しており、交渉の余地がありません。
民法では、売買契約において売主には「※契約不適合責任」が課されます。しかし、競売での取得は通常の売買とは異なり、売主の責任を追及する余地がほとんどないのが現実です。
※「約束と違う商品が届いた場合、売り主が責任をとる」という定め(意訳)。かつては「瑕疵担保責任」と呼ばれていた。
(買主の追完請求権)
第562条
- 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
- 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
しかも、競売の場合、売主は裁判所です。そのため、民間の仲介業者のように事前調査や説明義務を負うものではないとされています。
産業廃棄物を埋めた業者への責任追及
産業廃棄物の不法投棄は、明らかに廃棄物処理法違反です。廃棄物の処理及び清掃に関する法律(いわゆる「廃棄物処理法」)では、以下の条文が根拠となります。
(廃棄物の不法投棄の禁止)
廃棄物処理法第16条
何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。
したがって、埋めた業者や廃棄物を排出した事業者が特定できれば、損害賠償を請求することも可能です。ところが今回のように、埋めた業者が誰かもわからず記録も残っていない場合には、相手を特定することができず法的措置も取りようがありません。
裁判所(競売手続き)に責任はあるのか?
競売の過程では、裁判所が選任した執行官が現地調査を行い、不動産の状況を調査します。そして、鑑定人が価格を評価したうえで、最低競売価格が定められます。
では、執行官や鑑定人が調査を怠ったとして、裁判所に責任を問うことはできるのでしょうか?
結論から言えば、現行の裁判例では非常に厳しい判断がなされています。
たとえば、裁判所は以下のような立場を取っています。
- 競売不動産は「瑕疵(かし)があるかもしれない」ことを前提にしている
- だからこそ通常より安い価格での売却が許容されている
- よほど明白な過失(例えば異臭、地表に異物が露出しているなど)がない限り、裁判所の責任は問えない
つまり、執行官や鑑定人に「明らかに調査を怠った」と言えるような特別な事情がない限り、競売における調査不足による責任は問えないというのが判例の流れです。
過去の判例と実際の訴訟例
実際に、競売で購入した土地に重大な欠陥(産業廃棄物や地中障害物)が見つかり、購入者が裁判所に損害賠償請求をした例もあります。しかし、その多くは「競売の性質上、一定のリスクを伴う」という理由で棄却されています。
判決理由として以下のようなものが挙げられます。
- 競落者は自己の責任と判断で競売に参加している
- 競売物件の性質や状態に関して、裁判所に調査義務を広く認めると、競売制度の運用に支障が出る
「調査は尽くされた」県有地から出た産業廃棄物めぐる訴訟 原告の請求を棄却 富山地裁
今後の対応策と現実的な選択肢
損害賠償請求が困難だとしても、現状を放置することはできません。特に地下水汚染の可能性がある場合や、近隣住民への影響がある場合は、早急な対応が求められます。
考えられる対応策としては以下のとおりです。
- 地元の自治体への相談(環境課など)
- 弁護士への相談(可能性が極めて低くとも、法的手段を確認)
- 周辺住民と連携して行政に働きかける
- 農地利用を中止し、転用の検討(農地法の許可が必要)
特に、農地を非農地に変更して利用する場合には、農地法の許可が必要になります。以下はその条文の一部です。
(農地の転用の制限)
農地法第4条
(農地の転用の制限)
第4条農地を農地以外のものにする者は、政令で定めるところにより、都道府県知事の許可(略)を受けなければならない。
まとめ
今回は、「競売で取得した農地に産業廃棄物が埋まっていた」という実例をもとに、損害賠償請求の可否とその法的な限界について解説しました。
- 元所有者が破産している場合、損害賠償請求は現実的に困難
- 産業廃棄物を埋めた業者が特定できなければ、責任追及はできない
- 競売手続きを主導した裁判所に対しても、現行の判例上、責任を問うのは非常に難しい
- 対応としては、行政への相談や転用の検討が現実的な選択肢となる
競売には「安く買える」というメリットがある一方で、「中身が見えにくい」という大きなリスクも潜んでいます。購入後に思わぬトラブルに巻き込まれないよう、専門家の助言を得ながら慎重な判断が必要です。
最後に
今回は、競売で取得した農地に産業廃棄物が埋められていた場合の法的対応と損害賠償請求の可否について解説しました。競売という特殊な取得形態において、購入者がどのようなリスクを負うのか、そして現実的にどのような手段が取り得るのかを、具体的な事例を通じてお伝えしました。
今回は以上となります。
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