相続放棄された農地を管理・購入するには?

荒れた農地が近隣にあると、虫や獣の被害、景観の悪化、地域全体の耕作意欲の低下など、想像以上に大きな影響を与えるものです。特に、相続人が放棄した農地は放置されるケースも多く、「このままではどうにもならない」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、相続放棄された農地をなんとか管理・活用したいと考えている方に向けて、相談事例をもとに、具体的な対応方法を丁寧に解説していきます。


相談事例

Aさんのご近所で、農地を所有していた方が急逝された。亡くなられた方には多額の負債があり、生前に自己破産していた。そのため、その田畑の一部は競売にかけられた。畑地は買い手が見つかったものの、水田や雑地などは売れずに残されたままとなっていた。

相続人である娘さんは、すでに相続放棄の手続きを済ませており、実質的にその土地を管理できる人はいない状態であった。行政も特段の対応をしておらず、水田や雑地は荒れ放題となり、病害虫の温床や獣の棲み家となっていた。その影響で、Aさんを含めた近隣農家に大きな迷惑を及ぼしていた。

Aさんは、このまま放置することに限界を感じ、何らかの形でこの土地を管理するか、他者に購入・耕作してもらう必要があると考えるに至った。希望者がいなければ、自身が無償で借り受けて管理できないかと検討していた。
Aさんの要望は実現可能だろうか?


相続人不在時に取るべき対応とは?

相続放棄をした場合、その時点でその人は初めから相続人でなかったとみなされます。その結果、他に相続人がいない場合、その相続財産は宙に浮いた状態となります。

相続の放棄の効力)
第939条
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

民法第939条 - Wikibooks

しかし、戸籍上「誰も相続人がいない」と完全に確定するまでには相応の調査が必要です。現実には「相続人がいるかどうか明らかでない」という状態になります。このような場合に活用できる制度が「相続財産管理人の選任制度」です。


相続財産管理人の制度と法的根拠

相続財産管理人の選任に関しては、以下の民法の条文が根拠となります。

相続財産法人の成立)
第951条
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

民法第951条 - Wikibooks

(相続財産の清算人の選任)
第952条

  1. 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。

民法第952条 - Wikibooks

つまり、相続人の存否が不明な場合、家庭裁判所に申し立てることによって、「相続財産管理人」を選任してもらうことが可能になります。


Aさんは「利害関係人」になれるのか?

相続財産管理人の選任を請求できるのは「利害関係人」または「検察官」とされています。

Aさんは相続人ではありません。しかし、荒地となった水田や雑地によって病害虫の被害を受けています。その影響で農業経営に支障をきたしているという実害を受けています。これは損害賠償請求権の可能性があることから利害関係人として認められる余地があります。

そのため、Aさんは家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任を請求することができる立場にあると考えられます。


管理人が選任された後の流れ

家庭裁判所が申し立てを認め、相続財産管理人が選任されれば、残された水田や雑地の処分方法はその管理人と協議することが可能になります。

希望者がいれば、売却や賃貸といった形で農地を利用することができるようになります。また、Aさんが自ら耕作したいという希望についても、管理人と交渉することで無償貸与など柔軟な対応が可能になる場合があります。


売却・貸与は可能?

選任された相続財産管理人には、家庭裁判所の許可を得ることで、財産の売却や貸与を行う権限があります。したがって、希望者が現れた場合、その人に農地を売却することも法的には可能です。

ただし、農地の所有権移転には農地法による制限があります。原則として都道府県知事の許可等が必要となるため、その点は別途手続きが必要です。


管理人の選任に必要な費用や注意点

相続財産管理人の選任を申し立てるには、以下の費用がかかります。

  • 家庭裁判所への申立費用
  • 相続財産管理人の報酬のための予納金

また、管理人の候補者としては通常、弁護士などが選ばれます。あらかじめ相談して引き受けてくれる人を見つけておくと手続きがスムーズです。

この点については、近隣住民と協力し費用を折半するなどの話し合いも現実的な対応策となるでしょう。


まとめ

相続放棄された農地が荒れ放題になっている状況は、個人だけでなく地域全体に悪影響を及ぼします。しかし、相続財産管理人の選任という法的手続きを通じて、その土地を再活用することが可能です。

Aさんのように、利害関係人として申し立てを行えば、管理人を通じて土地の売却や賃貸について話し合う道が開けます。多少の費用はかかるものの、長期的には地域の環境改善にもつながる有意義な手段と言えるでしょう。

農地の所有や管理には農地法をはじめとする法律の制約がありますが、適切な手続きを踏めば、相続放棄された土地でも有効に活用する道は開けます。今回の記事が、同じような状況で悩んでいる方々の一助となれば幸いです。

最後に

今回は、相続放棄された農地を管理・購入する方法について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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