放置された竹やぶを開墾して畑にしたのに返還?無償で借りた農地は返さなければならないのか

長年、竹やぶだった土地を一人で苦労して畑に変え、家庭菜園を楽しんできた。ようやくふかふかの土になり、野菜も立派に育っているのに、突然「畑を返してほしい」と言われた――。
このような経験に、共感される方も少なくないのではないでしょうか。

今回は、こうした状況における法律的な考え方をわかりやすく解説していきます。特に、「契約書がない状態で土地を無償で借りた場合」の取り扱い、「竹やぶを開墾した労力は対価になるのか」という点を中心に、農地に関するトラブルの予防策についてもご紹介します。

竹やぶの開墾は、使用の対価にはならない

今回のケースでは以下のような場合を想定します。

想定事案

AはBから10年前に契約書を交わすことなく無償で農地を借りた。そこが長年放置された竹やぶだったため、Aは重機を入れて開墾し、畑として活用してきた。また、収穫した野菜はBにおすそ分けなどをしており、ABの関係は良好であった。しかし、突然Bが「今植えている作物の収穫が終わる時期には農地を返せ」と請求してきた。AはBに農地を返還しなければならないのだろうか?

当然ですが、借主としては多大な開墾に労力掛けてきたため突然の返還請求は納得はできないでしょう。しかし、残念ながら法律的には「土地を整備した労力=対価」とは見なされません。たとえどれほど苦労して畑にしたとしても、それが「土地使用の対価」や「賃料の支払い」にはならないのです。

「収穫した野菜をおすそ分けしていた」という事実もありますが、これも一般的な贈与の範囲と見なされ、「有償の契約」には該当しないとされます。

このような状況では、法律上の契約関係は「使用貸借契約」となります。

使用貸借契約とは?法律上の位置づけ

使用貸借契約とは、「無償で物(ここでは土地)を借りる契約」を指します。民法において次のように定義されています。

使用貸借

第593条
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

民法第593条 - Wikibooks

つまり、貸主(地主)があくまで「無償で使っていいよ」と言って貸している以上、その土地を借主が自分の所有物のように扱うことはできません。

また、借主が「土地を整備した」「維持管理していた」と主張しても、それは「無償で使用させてもらっている以上当然に必要な作業」であり、使用貸借の枠内にとどまるのです。

賃貸借契約との違い~無償か有償かで大きな差

ここで、似たような概念である「賃貸借契約」との違いにも触れておきましょう。

賃貸借契約は、土地の使用に対して対価(=賃料)を支払うことで成立する契約です。賃料を支払っている場合は、貸主の都合で一方的に契約を解除されることは基本的にありません。

賃貸借

第601条
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

民法第601条 - Wikibooks

これに対し、使用貸借契約では、貸主が必要に応じて返還を求めることができます。これは「無償で貸しているのだから、返してほしいと言えば返すのが当然」という考え方が根底にあるためです。

(使用貸借の解除)

第598条

  1. 貸主は、前条第2項に規定する場合において、同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、契約の解除をすることができる。
  2. 当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。
  3. 借主は、いつでも契約の解除をすることができる。

民法第598条 - Wikibooks

今回のケースではどうなるか?

地主は「今植えている作物の収穫が終わる時期には返してほしい」と言っています。これは、貸主としても借主の気持ちを配慮し、「すぐに返せ」と言っていない点で、一定の合理性がある主張と考えられます。

民法上、期間を定めていない使用貸借契約では、借主が目的物を「使用収益するのに足りる期間」が経過すれば、貸主はいつでも返還を求めることができます。収穫期を区切りとして返還を求める今回の要求は、その「使用収益に足る期間」の終了と見なされる可能性が高いのです。

借主にできること~話し合いと誠意ある対応

とはいえ、いきなり「返せ」と言われて納得し難いのは当然です。

そこで大切なのは、地主との関係を悪化させず、冷静かつ丁寧に話し合うことです。以下のような対応が考えられます。

  • 今後も使用させてもらえないか、改めて有償契約(賃貸借契約)に切り替える提案をする
  • 作物の収穫終了後、一定期間だけ延長してもらえないかお願いしてみる
  • 畑の整備にかかった実費や労力について、感謝の気持ちだけでも伝えてもらえないか相談する

契約書がなくても、日々の信頼関係が交渉の余地を生むこともあります。法律上は返還義務があるとしても、実際の場面では「人と人とのつながり」が大切になるのです。

まとめ~契約がない無償使用地は、原則返還しなければならない

ポイントを整理すると、以下のとおりです。

  • 契約書がなく無償で借りた土地は「使用貸借契約」として扱われる
  • 使用貸借契約では、使用目的が終了したり期間が定められていない場合、貸主の返還請求に応じる義務がある
  • 畑を開墾した労力は「使用の対価」にはならない
  • 地主とトラブルにならないよう、冷静な話し合いを心がけることが大切

農地を借りて耕作をする際には、どれだけ親しい間柄であっても「契約書を作成しておく」ことが最も重要です。感謝と誠意を持って交渉し、円満な解決を目指しましょう。

最後に

今回は、竹やぶを開墾して畑にしたものの、地主から返還を求められたケースについて解説しました。
もともと無償で借りていたのだから、返せと言われたら返さなければならないのは仕方がないのかもしれませんね。また、別の解決方法として農地を地主から買い取ることを検討してみるのも良いかもしれません。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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