貸し農園のために農地を返せと言われたらどうする?一方的な解約は可能なのか?
近年、都市近郊で貸し農園の人気が高まり、家庭菜園を楽しむ人が増えています。
しかし、その一方で、既存の農家が地主から農地の返却を求められるケースが発生しています。特に、貸し農園として利用する場合の地代は通常の農地賃貸よりも格段に高いため、地主にとっては魅力的なビジネスとなることが背景にあります。
例えば、ある地域では通常の農地の地代が1反(約1000㎡)当たり年間2万円であるのに対し、貸し農園では坪当たり年間1万円もの収益が得られるケースもあります。地主がより高い収益を求め、既存の農家に対して農地を返すよう求めるのは容易に想像できます。しかし、果たしてそのような一方的な要求は法的に認められるのでしょうか?
今回は、農地を借りて農業を営む人が、地主からの一方的な解約要求にどう対処すべきかを詳しく解説していきます。
目次
農地の賃貸借契約は一方的に解除できるのか?
結論から言うと、農地の賃貸借契約は地主の一存で一方的に解約することはできません。
これは農地法の趣旨に基づいており、農業の安定的な継続を保護するために厳格なルールが設けられています。
1. 農地法による保護
農地法では、農地の賃貸借契約の解除には、都道府県知事の許可が必要であると規定されています。
(農地又は採草放牧地の賃貸借の解約等の制限)
第18条
農地又は採草放牧地の賃貸借の当事者は、政令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければ、賃貸借の解除をし、解約の申入れをし、合意による解約をし、又は賃貸借の更新をしない旨の通知をしてはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
つまり、地主が単なる経済的な理由で「貸し農園にするために農地を返してほしい」と要求しても、法律上はそのまま認められるものではありません。契約に違反していない限り、農家としては継続して農地を借りる権利があります。
2. 正当な解約理由とは?
農地法では、貸主側が契約を解除するためには「正当な理由」が必要とされています。例えば、以下のようなケースでは解約が認められる可能性があります。
- 借主が長期間耕作せず、事実上農地が放置されている
- 借主が契約違反(地代の不払いなど)を繰り返している
- 貸主が自身で農業を行う意思を持ち、適正に耕作する計画がある
一方、単に「貸し農園にしたほうが儲かるから解約したい」という理由は、正当な理由には該当しません。
「特定農地貸付制度」とは?貸し農園の合法性
貸し農園を合法的に設置するためには、「特定農地貸付に関する農地法等の特例に関する法律」に基づいた手続きが必要です。この法律は、非農家でも営利目的でない範囲で農地を借りて耕作できるようにするために設けられた特例措置です。
この制度のポイントは以下の通りです。
- 貸し農園の設置は自由ではなく、要件を満たす必要がある
- 農業経営の存続を脅かすような形での利用は認められない
- 農地の効率的利用を確保するために、適切な位置と規模が求められる(法第3条3項1号)
- 農地の貸付には、市町村と農業委員会の承認が必要(法第3条1項)
つまり、貸し農園を設置するには、農地法の趣旨に適合したものであることが条件となります。
地主の要求にどう対応すべきか?
地主からの一方的な農地返還要求に直面した場合、冷静に対応し、適切な手続きを踏むことが重要です。
1. 契約内容を確認する
まずは、自身が締結している賃貸借契約の内容を確認しましょう。契約期間や更新条件、解約の規定について正確に把握することが重要です。
2. 地主に対して適正な主張を行う
地主から返却を求められた場合、以下のように冷静に伝えましょう。
「農地法上、地主の一方的な解約は認められていません。また、正当な解約理由も存在しないため、契約に基づいて農業を続けさせていただきます。」
法律の条文を示しながら交渉を進めると、相手も簡単に解約を主張しづらくなるでしょう。
3. 市町村や農業委員会へ相談する
もし地主が強硬に解約を迫ってきた場合、自治体の農業委員会に相談することも重要です。農業委員会は、地域の農地利用を監督する立場にあり、違法な貸し農園の設置がないかをチェックする役割を持っています。
4. 他の農家と連携する
同じような問題に直面している農家がいれば、情報を共有し、共同で対策を講じるのも有効です。複数の農家が連名で市町村に陳情を行えば、より強い影響力を持つことができます。
5. 弁護士に相談する
万が一、地主が不当な圧力をかけてくる場合は、農地法に詳しい弁護士に相談することを検討しましょう。法的措置を講じることで、強引な解約要求を阻止できる可能性が高まります。
まとめ
貸し農園の増加に伴い、地主からの一方的な農地返却要求が増えていますが、農地法では地主が自由に契約を解除することは認められていません。
また、貸し農園の設置には法律上の要件があり、既存の農業経営の存続を脅かすようなものは許されません。
もしこのような問題に直面した場合は、契約内容を確認し、冷静に対応しながら、必要に応じて農業委員会や弁護士に相談することが重要です。
日本の農業を守るためにも、法律の知識を活用し、不当な解約要求に対抗していきましょう。
最後に
今回は貸し農園のために農地を返せと言われた場合について解説しました。
農地に関わらず、不動産業界ではこのような強引な申出をしてくる貸主も少なくはありません。困ったときはすぐに専門家に相談しましょう。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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