口約束で借りた畑を突然返してくれと言われた場合の対処法
長年耕してきた畑を、突然「返してほしい」と言われたらどうすればよいのでしょうか?
とくに契約書も作成せず、口約束での賃貸借契約だった場合でも、簡単に立ち退く必要があるのでしょうか?
今回は、農地の賃借権に関する法律をもとに、どのように対応すべきかを詳しく解説します。
目次
口約束でも農地の賃借権は成立するのか?
農地法の適用
農地法では、農地を借りる場合には、原則として農業委員会または県知事の許可が必要です。つまり、許可を得ずに当事者間で合意して賃貸借契約を結んだ場合、その契約は農地法の保護を受けられない可能性があります。
長期間の使用と地代の支払い
ただし、長年にわたって耕作し、毎年地代を支払ってきた場合、裁判例を踏まえると賃借権の時効取得が認められる可能性があります。
例えば、高松高等裁判所の判決(1977年5月16日)では、「農地法第3条の許可は任意取引に基づく賃借権の移動を規制する趣旨であり、時効による権利の取得を禁止するものではない」と判断されています。
そのため、20年以上にわたって平穏に耕作し、地代を支払ってきた場合、賃借権を時効取得したとみなされる可能性が高いといえます。
突然の返還要求に応じる必要はない
賃貸借契約の解約には知事の許可が必要
農地の賃貸借契約の解約については、貸主の一方的な意思だけではできません。農地法第18条では、賃貸借契約を解約するには県知事の許可が必要と規定されています。
また、農地法第16条第2項に基づき、知事が解約を許可するには以下のような条件を満たす必要があります。
- 借地人(耕作者)が賃料を支払わないなど、重大な契約違反がある場合
- 地主が自ら耕作するなど、特別な事情がある場合
単に「売却したい」という理由では、許可が下りる可能性は低いでしょう。
収穫の機会を奪うことは違法の可能性も
例えば、耕作者がすでに作物を植えているにもかかわらず、地主が突然「畑を返せ」と要求した場合、耕作者が損害を被る可能性があります。特に、播種直後の大根などが収穫できない状況では、損害賠償を求めることも検討できます。
耕作者に優先的な買い取り権はあるのか?
農地法上、借主(耕作者)が優先的に農地を買い取る権利はありません。しかし、賃貸借契約が解除されない限り、地主は第三者に自由に売却できるわけではありません。そのため、実際には耕作者が地主と交渉し、農地を買い取ることが有利になるケースも多いでしょう。
地主との話し合いの中で、価格交渉や分割払いの提案を行うことも一つの手段です。
具体的な対応策
まずは地主と冷静に交渉
地主側が売却を考えている場合、まずは冷静に話し合いましょう。
- 時効取得の可能性を伝え、法律的に返却する義務がないことを説明する。
- 土地の購入を希望する意向を伝える。
- 知事の許可が必要であり、簡単には解約できないことを指摘する。
法的手続きを視野に入れる
もし交渉がうまくいかない場合は、専門家に相談し、必要に応じて法的手続きを進めることを検討しましょう。
- 農地賃借権の時効取得に基づく権利主張
- 地主が不当な要求を続ける場合の損害賠償請求
農地の賃借権に関する問題は慎重に対応する必要があります。
まとめ
今回のケースでは、20年以上耕作し、地代を支払い続けているため、農地の賃借権を時効取得している可能性が高いです。そのため、地主の一方的な要求による返還に応じる必要はありません。
また、農地の賃貸借契約の解約には県知事の許可が必要であり、地主の都合だけで解約することは認められません。
もし土地の購入を希望する場合は、地主と交渉し、法的知識を持って話を進めることが重要です。トラブルを避けるためにも、専門家に相談することをおすすめします。
最後に
今回は口約束で借りた畑を突然返してくれと言われた場合について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地に関する法律問題について学びたい方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせ方法からいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)