賃貸借契約における果樹の収穫物の所有権 – 借りた畑の果実は誰のものか?
目次
借りた畑の果樹の実は誰のもの?
長年、大切に管理してきた畑の果樹。毎年収穫を楽しみにしていたのに、ある日突然、地主が「その果実は自分のものだ」と主張してきたら、どう思いますか?
「果樹を植えたのは地主かもしれないが、管理してきたのは自分だ。果実も自分のものではないのか?」と疑問に思うのは当然です。
今回のテーマは、賃貸借契約における果樹の収穫物の所有権についてです。
法律上、このような場合に果実の所有権が誰に帰属するのか、関連する法令を基に解説します。
賃貸借契約における「果樹」の扱い
賃貸借契約において、土地の上に存在する樹木が誰の所有物になるかは、「付合(ふごう)」の原則に基づいて判断されます。
付合とは、ある物が他の物に密接に結びついて一体化し、独立した所有権を持たなくなることを意味します。
(不動産の付合)
第242条
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
例えば、建物は土地とは別の不動産として扱われますが、一般的な庭木や果樹は原則として土地の一部として考えられます。
今回のケースのポイント
- 土地を借りたときに果樹がすでに植えられていた → 果樹自体は地主の所有物である可能性が高い
- 果樹の管理は借主が行っていた → 収穫物の所有権に影響する
では、この場合、果樹から収穫される果実は地主と借主のどちらのものなのでしょうか?
収穫物の所有権 – 借主が取得できる理由
法律上、果樹の収穫物は「天然果実」と呼ばれ、収穫の権利は収取する権利を有する者に帰属します。
(果実の帰属)
第89条天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。
つまり、今回のケースでは、畑を借りて管理している借主が収穫の権利を持つため、果樹の果実は借主のものと考えられます。
地主が果実の所有権を主張するためには、次のような特別な事情が必要です。
地主が果実の所有権を持つ可能性があるケース
- 果樹が特別に価値を持つ場合(例:盆栽、庭園木など)
- 地主が果樹の管理を行っていた場合(剪定・施肥・収穫をしていた)
- 賃貸借契約で、果実の所有権を地主に帰属させる旨が明記されていた場合
しかし、今回のケースでは、
- 地主が果樹を積極的に管理していたわけではない
- 収穫物について特別な契約もない
このため、果実は借主が取得する権利があると考えられます。
地主とのトラブルを避けるために
トラブルを防ぐためには、契約時に明確な合意を交わすことが重要です。
① 契約書に果樹の取り扱いを明記する
- 果樹の所有権が誰にあるのか(果樹自体は地主のものか、借主のものか)
- 収穫物の取り扱い(果実の所有者を借主とするか、収穫時に地主に分けるのか)
契約書に明記すれば、後々のトラブルを回避できます。
② 地主との話し合い
すでに契約を結んでいる場合でも、地主に法律の解釈を説明し、収穫物が借主に帰属することを理解してもらうことが重要です。
- 「民法89条」に基づき、果樹の果実は土地を使用している耕作者のもの
- 地主が特別な管理をしていない限り、果実の所有権を主張する根拠はない
このように説明すれば、地主も納得しやすくなります。
まとめ
- 賃貸借契約において、土地に付属する果樹は通常、土地の一部とみなされる。
- 収穫物(果実)は天然果実とされ、耕作者が取得する権利がある。
- 地主が果実の所有権を主張するには、特別な契約や管理実態が必要。
- トラブルを防ぐためには、契約時に果樹や収穫物の取り扱いを明記するのが望ましい。
- すでにトラブルが発生している場合は、民法の条文を根拠に地主と交渉する。
今回のケースでは、借主が果樹の管理を行い、収穫をしている以上、果実の所有権は借主にあると考えられます。
トラブルを未然に防ぐために、契約の段階でしっかりと合意を交わすことが大切です。
最後に
今回は賃貸借契約における果樹の収穫物の所有権について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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