先取特権者の物上代位権と破産宣告の影響について

近年、企業の破産がニュースで取り上げられることが増えています。破産手続きに入ると、債権者がどのように債権を回収できるのかが問題になります。特に、先取特権を持つ債権者が破産手続きの中でどのように権利を行使できるのかは、実務的にも重要な論点です。

今回は、最高裁判決をもとに、先取特権者が破産宣告後に物上代位権を行使できるかどうかについて詳しく解説します。

【判例 最高裁判所第一小法廷 昭和59年2月2日

事件の背景

本件の争点を理解するために、事件の経緯を時系列順に整理します。

  1. 契約の締結と転売
    • 上告人(A社)は昭和51年5月31日、破産会社(E社)に対し、工作機械3台を代金1億3,300万円で売却しました。
    • 破産会社E社は、同年6月10日、第三者であるD社に対し、同じ工作機械を代金1億4,350万円で転売しました。
  2. 破産手続きの開始
    • 東京地方裁判所は、昭和52年10月3日にE社の破産を宣告し、被上告人(破産管財人)が選任されました。
  3. 差押・転付命令の取得
    • 上告人(A社)は、破産会社E社がD社に有する転売代金のうち665万円について、債権差押・転付命令を取得しました。
    • この命令は、昭和54年4月11日に被上告人およびD社に送達されました。
  4. 供託の実施
    • D社は、昭和54年8月8日に、債権者不確知を理由に東京法務局へ665万円を供託しました。

争点と裁判の経過

被上告人(破産管財人)は、破産手続きの開始により本件差押・転付命令は無効であると主張しました。一方、上告人(A社)は、先取特権に基づく物上代位権を行使できると主張しました。

第一審では、被上告人の主張が認められ、上告人の請求は棄却されました。控訴審でも同様の判断が下されましたが、最終的に最高裁判所が原判決を破棄し、上告人の主張を認めました。

最高裁判所の判断

最高裁判所は、民法304条1項但書および破産法92条の解釈に基づき、以下の理由から先取特権者が破産宣告後であっても物上代位権を行使できると判断しました。

  1. 物上代位権の行使要件
    • 民法304条1項但書では、先取特権者が物上代位権を行使するには、目的債権の払渡または引渡前に差押をすることが求められます。
    • 本件では、上告人はD社に対して差押・転付命令を取得しており、この要件を満たしていました。
  2. 破産宣告の影響
    • 破産法92条では、破産手続き開始後、破産財団に属する財産の個別的な権利行使が制限されると規定されています。
    • しかし、最高裁は、破産宣告があったとしても、それにより破産財団の所有権が変動するわけではなく、破産者の管理処分権が破産管財人に移るだけであると解釈しました。
    • そのため、破産宣告後であっても、一般債権者による差押とは異なり、先取特権者の物上代位権の行使は妨げられないと判断しました。
  3. 破産財団の管理と物上代位権の関係
    • 破産管財人は破産者の財産を管理する権限を有しますが、破産財団に属する財産については、物上代位権に基づく差押が認められる場合があるとしました。
    • 本件では、上告人が適法に差押を行っており、その効力は破産手続きにより否定されるべきではないと判断しました。

物上代位

第304条

  1. 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
  2. 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

民法第304条 - Wikibooks

まとめ

今回の判例は、破産手続きが開始された場合でも、先取特権者が適法に差押を行っていれば、物上代位権を行使できることを明確にした重要な判断です。

  • 物上代位権の行使要件として、目的債権の払渡前に差押が必要であることが確認された。
  • 破産宣告が物上代位権の行使を妨げるものではないことが示された。
  • 先取特権者が差押を適法に行っていれば、破産管財人による財産管理の影響を受けずに権利行使が可能であると判断された。

この判決は、破産手続きにおける債権者の権利行使の範囲を理解する上で非常に重要なものであり、今後の実務にも大きな影響を与えると考えられます。

最後に

今回は、先取特権者が破産宣告後に物上代位権を行使できるかどうかについて解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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