表現の自由と最新重要判例の解説~助成金交付問題をめぐる法的視点~
今回は、表現の自由に関連する最新の重要判例について解説します。
この判例は、芸術活動への助成金交付が公益性の観点から拒否された事例で、最高裁判所で違法と判断されました。
現代社会において、表現の自由がいかに保護されるべきかを示す重要な一歩として注目されています。
【判例 令和5年11月17日 最高裁判所第二小法廷】
目次
背景:事件の概要と経緯
本件は、独立行政法人日本芸術文化振興会(以下「振興会」)が助成金の交付をめぐり裁量権を濫用したか否かが争われた事件です。
1.登場人物と背景
1.申請者:映画会社S
劇映画「宮本から君へ」の制作を担当。
2.出演者P
本件映画に出演し、その後麻薬及び向精神薬取締法違反で有罪判決を受けた俳優。
3.振興会理事長
文化芸術振興費助成金の交付要綱に基づき、助成金の交付を決定する権限を有する。
2.経緯
1.平成30年11月
映画会社Sが助成金交付を申請。
2.平成31年3月
振興会理事長が助成金交付を内定。
3.令和元年6月
出演者Pが麻薬犯罪で有罪判決を受けたことを受け、交付拒否の判断が下される。
4.令和元年7月
理事長が「公益性の観点から適当ではない」として助成金不交付を決定。
3.第1審:映画会社Sによる不交付決定の取消請求
映画会社Sは、振興会理事長による助成金不交付決定が「裁量権の濫用」に該当するとして、裁判所に取消請求を提起しました。
- 主張
映画会社Sは、助成金交付の不交付決定が芸術的観点に基づく判断を無視し、表現の自由を不当に制限するものであると指摘しました。 - 第1審判決
裁判所は映画会社Sの主張を認め、不交付決定が「裁量権の範囲を逸脱し、濫用したものである」として、助成金不交付決定を違法と認定し取消を命じました。
4.第2審:振興会側の控訴
第1審判決に不服を申し立てた振興会は、高等裁判所に控訴しました。
- 振興会側の主張
「薬物犯罪を犯した出演者Pが関与する映画への助成金交付は、公益性に反するものであり、助成金交付の拒否は合理的な判断である」としました。 - 第2審判決
高等裁判所は、振興会理事長の判断を支持し、「公益性の観点から助成金不交付は適法である」と判断。第1審判決を覆し、映画会社Sの請求を棄却しました。
5.最高裁への上告:表現の自由をめぐる争点
第2審判決を不服とした映画会社Sは、最高裁判所に上告しました。
- 争点
1.公益性の判断基準と、芸術活動への助成金交付における裁量の範囲。
2.表現の自由(憲法21条)の観点から、助成金不交付が創造活動に与える萎縮的影響。
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
最高裁判所は、これらの争点を精査し、以下のように結論を下しました。
判例の核心部分
最高裁は以下の論点を検討しました。
1. 助成金交付の基準
振興会法および助成金等適正化法に基づき、振興会は芸術活動の助成を目的としており、助成金交付においては公益性と公平性を考慮する必要があります。しかし、法令上明確な交付基準がないため、理事長の裁量権が重視されます。
2. 表現の自由への影響
映画制作が表現行為であることから、憲法21条が保障する表現の自由に関連します。助成金不交付が広く行われる場合、芸術家の創造活動を萎縮させる可能性があると指摘されました。
3. 公益性の判断
理事長は「薬物犯罪に寛容であるとの誤解を招きかねない」として公益性を理由に助成金不交付を決定しました。しかし、最高裁は以下の点を問題視しました。
- 助成金は出演者Pではなく映画会社Sに対して支払われるものである。そのため、出演者Pが助成金により直接利益を得る立場にない。
- 助成金交付が直ちに薬物乱用を助長する具体的危険性がない。
- 「薬物犯罪防止」という公益性が助成金交付拒否の正当な理由にはならない。
4. 結論
これらの理由から、最高裁は理事長の裁量権が濫用され、不交付決定は違法であると判断しました。
まとめ
今回の判例は、表現の自由が現代社会でいかに保護されるべきかを考える重要な指針を提供しました。
助成金交付をめぐる判断において、公益性の名の下に表現活動が不当に制約されることのないよう、法令や憲法の趣旨に立ち返る必要があります。この判例を契機に、表現の自由を尊重した助成制度の構築が求められます。
最後に
今回は憲法の表現の自由について争われた重要判例について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が憲法判例について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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