信頼保護の原則とは?行政が守るべき国民の信頼
行政手続きは複雑で専門性が高いため、国民が自らその全てを正確に理解し、適切に対応することは容易ではありません。
その結果、国民は行政担当者の専門知識に依存し、行政が発信する情報や対応を盲目的に信頼せざるを得ない状況に置かれることがあります。しかし、その信頼が裏切られた場合、国民がどのように保護されるべきかについては、法的に重要な議論が行われています。
今回は、この「信頼保護の原則」について、具体例や法令に基づいて詳しく解説します。
目次
信頼保護の原則とは?
信頼保護の原則とは、行政が国民に与えた信頼を保護すべきという法的な考え方です。
この原則は、行政の専門性に依存せざるを得ない国民を不当に不利にしないためのものです。特に、行政が国民に誤解を与える行為を行い、それに基づいて国民が不利益を被った場合には、信頼保護の原則が適用されます。
根拠となる法律は、民法第1条にある信義誠実の原則です。
(基本原則)
第1条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
この原則は行政法にも適用され、信頼保護の考え方を支えるものとなっています。
信頼保護の必要性:具体的な事例から学ぶ
信頼保護の原則を理解するために、次のような事例を挙げます。
非課税通知を巡る事件
ある納税者が非課税通知を受け取ったことで安心していたところ、後になって法律の適用が誤っていたとして課税され、さらに過去分を滞納として差押さえを受けた事件がありました。
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第9回】「行政庁が間違って固定資産税を非課税として処理した過年度分について、遡って課税処分をすることは、「禁反言の法理」により違法とされるか否かが争われた判例」 菅野 真美 – 税務・会計のWeb情報誌『プロフェッションジャーナル(Profession Journal)』|[PROnet|プロネット]
この事件は、原審では納税者は非課税通知を信じて行動しており、その信頼を保護する必要があると判断されました。
しかし、第2審では一転して、非課税通知の送達により納税者が自己に納税義務が無いと誤認した直接的な原因であるとは言えないとして、行政の差押え処分は正当であるとされました。
信頼保護の限界:どのような場合に適用されるのか
信頼保護の原則が適用されるためには、いくつかの条件があります。
具体的な措置が存在する場合
例えば、前述の非課税通知のように、個別具体的な行政行為が行われた場合には信頼保護が認められることが多いです。
一方で、工場建設を誘致するための奨励金を交付する条例が改正され、その結果として奨励金を受け取れなくなった事例では、単なる「期待」は法的に保護されないと判断されました。このように、一般的な措置だけでは信頼保護の適用は難しいと言えます。
信頼が保護される方法
信頼保護の原則が適用されると、以下のような救済措置が取られることがあります。
1. 信頼した通りの措置を実施
最も直接的な方法は、国民が信頼した通りの行政措置を実施することです。例えば、非課税通知が誤りであった場合でも、過去分については非課税のままとする措置が取られることがあります。
2. 損害賠償や損失補償
信頼通りの措置が不可能な場合、行政側が損害賠償や損失補償を行うことがあります。例えば、工場誘致を信じて設備投資を行った場合、その損害を賠償してもらうという形です。
禁反言の法理との関連
信頼保護の原則と関連する考え方として、「禁反言の法理」があります。
これは、前後で矛盾した行為を行うことを禁止するという法的概念です。行政が一度国民に対してある措置を講じた場合、それに反する行為を後から行うことは許されないという点で、信頼保護の原則と深く関わっています。
まとめ
信頼保護の原則は、国民の信頼を守るために行政が負うべき責任を示す重要な考え方です。
特に、行政の専門性に依存する国民にとって、この原則は救済の道を開くものとなります。しかし、信頼保護が適用されるためには具体的な行政行為が必要であり、一般的な期待だけでは保護されないという限界もあります。
最後に
今回は信頼保護の原則について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が行政法について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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