詐害行為取消とは?根抵当権設定と税務署の課税処分を巡る判例解説

今回は、銀行が自己の債権回収を目的として債務者の不動産に根抵当権を設定したことが、国税庁による詐害行為取消請求の対象となった事件について解説します。
この判例は、国税庁が債務者に対する追徴課税を行う前に設定された根抵当権が、詐害行為に該当するか否かを巡る重要な争点を含んでいます。

【判例 東京地方裁判所 令和3年9月8日

事件の背景

1. 事案の発端

事件の背景は、C株式会社が2017年(平成29年)に金融機関であるA銀行およびB銀行と根抵当権設定契約を締結したことから始まります。この根抵当権設定契約により、C株式会社が保有する不動産が担保として差し出されました。一方、C株式会社は同時期に税務署との間で消費税還付に関する紛争を抱えており、これが後に問題を複雑化させることになります。

2. C株式会社の経済状況

C株式会社は、家電製品や貴金属などを輸出入・販売する事業を行っており、当時、同社は輸出物品販売場で金製品を免税商品として販売していました。これに伴い、消費税の還付請求を行い、一定の期間において税務署から還付を受けていました。しかし、2017年に税務署がC株式会社に対して消費税還付の保留を行い、税務調査が開始されました。

3. 銀行との契約

C株式会社は2017年6月に、A銀行およびB銀行との間で、金事業に伴う資金調達のため、根抵当権設定契約を締結しました。この契約は、C株式会社が所有する不動産を担保に、銀行から融資を受けるためのものであり、極度額(担保に供される上限額)は、A銀行に対して30億円、B銀行に対して20億円というものでした。

4. 税務署の動きと課税処分

同年7月、税務署がC株式会社に対して課税調査を進め、2017年6月30日に法人税や消費税の更正処分が通知されました。この時点で、税務署はC株式会社が免税対象としていた金製品の販売に関して、その販売先が実際には非居住者ではなく、国内の事業者であったとして、免税適用が不適切であると判断しました。この結果、C株式会社には77億円を超える消費税本税および27億円の重加算税が課されました。

5. 根抵当権設定と差し押さえ

C株式会社と銀行が根抵当権設定契約を結んだ6月30日、同日午前11時に税務署から課税処分の通知がC株式会社に送達されました。その後、C株式会社はその日の午後に銀行との間で根抵当権設定契約を完了させ、午後5時過ぎには登記申請をオンラインで行い、その日のうちに受理されました。

一方で、税務署は2017年9月にC株式会社の不動産に対して租税債権の確保のために差し押さえを実施しました。この差し押さえは、国税徴収法に基づくものであり、C株式会社の不動産やその他の資産に対して行われました。

6. 訴訟に至る経緯

C株式会社はこの課税処分に異議を唱え、税務署を相手取って課税処分の取消訴訟を提起しましたが、東京地方裁判所はこの訴えを棄却し、C株式会社はさらに控訴しました。その間、銀行側が取得した根抵当権が、C株式会社の租税債権に対する不当な優先行為として、詐害行為取消請求が提起されました。

本件の中心的な争点は、銀行が根抵当権を設定した時点でC株式会社が事実上無資力であり、その行為が他の債権者に不利な結果をもたらしたかどうか、また、銀行がこの事実を認識していたかどうかという点です。

争点

本件で最大の争点となったのは、銀行が行った根抵当権の設定が、国税庁に対する詐害行為に該当するかどうかでした。
詐害行為とは、債務者が特定の債権者に対してのみ有利な取引を行い、他の債権者の利益を害する行為を指します。

(詐害行為取消請求)
第424条

  1. 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
  2. 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
  3. 債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
  4. 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない 。

民法

国税庁は、C社の無資力の状態を認識していた銀行が、C社の財産を差し押さえる前に根抵当権を設定したことは他の債権者に対して不利益を与える行為であり、詐害行為に該当すると主張しました。

判決に至るまでの経緯

裁判では、C社と銀行、そして国税庁の間での相互の関係が詳しく審理されました。
まず、C社は平成27年頃から経営悪化が進行し、税金の還付申告を繰り返し行っていたものの、税務調査により巨額の課税が発生したことが明らかになりました。平成29年6月30日、国税庁はC社に対し巨額の課税処分を通知しましたが、それに先立ち、C社と銀行は根抵当権の設定契約を同日に締結していたのです。

根抵当権設定契約の具体的な手続きは、銀行側がC社に対する債権を確保するために急いで行われたものであり、その時点でC社がすでに無資力であったことは、債権者に対する詐害行為と判断されました。また、銀行が国税庁に先んじて根抵当権を設定することで、他の債権者、特に国税庁の取り分を減少させる意図があったことも重要な要素となりました。

判決の核心部分

裁判所は、C社が債務超過に陥っていた状態で、銀行が自己の債権を確保するために急いで根抵当権を設定したことは、明確に他の債権者、特に国税庁に対する詐害行為であると判断しました。銀行が根抵当権を設定した時点で、すでにC社には他の債権者への支払い能力がなく、残余財産がなかったため、この行為は他の債権者を不当に害するものとされました。

裁判所は、民法第424条および国税通則法第42条に基づき、銀行による根抵当権の設定契約を詐害行為として取り消す命令を下しました。また、これに伴い、登記上の根抵当権設定を抹消することも命じました。

まとめ

今回の判例では、銀行が自己の債権を優先的に回収するために行った根抵当権の設定が、国税庁に対する詐害行為として認定され、取り消し命令が下されました。この判決は、債務者が無資力であることを認識していながら特定の債権者に対してのみ有利な取引を行うことが、他の債権者に対して不当に不利益を与える行為として認められた重要な事例です。

最後に

今回は銀行と国税庁との詐害行為取消請求を巡る争いについて解説しました。
それにしても、国税庁は強いですね(笑)

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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