不当利得返還請求権と競売手続における仮登記の権利者の立場について

不動産を購入する際、登記の優先順位は非常に重要です。
今回は、仮登記と抵当権登記が絡む複雑な競売手続と不当利得についての重要な判例を解説します。
本件では、所有権仮登記の権利者が抵当権者に対して不当利得返還を請求できるか否かが争われました。

【判例 最高裁判所第一小法廷 昭和63年12月1日

事件の背景と時系列

本件では、Dが所有していた建物を複数の会社に譲渡したことから、二重譲渡が発生しています。時系列に沿って詳細を見ていきます。

  • Dは、本件建物の最初の所有者でしたが、1972年12月14日、E社のために、債権額3000万円、損害金を日歩三銭とする抵当権を設定し、1973年1月11日にその登記が完了しました。
  • Dは、1973年3月20日にF社に建物を譲渡しました。F社はその後、1974年7月24日、上告人に購入者としての地位を譲渡しました。
  • ところが、DはF社に譲渡した後、1977年1月13日に再び同じ建物をG社に譲渡し、G社はさらにH社に譲渡しました。この部分がいわゆる二重譲渡に該当します。

この結果、H社が1977年1月13日に建物の所有権移転登記を経由し、同日にH社は被上告人のために、極度額2億5000万円の根抵当権を設定しました。

  • その後、1977年6月16日、E社の競売申立により、本件建物について競売開始決定がされ、1978年12月7日、被上告人がこれを1億2000万円で競落しました。翌年1月18日に代金が納付され、2月15日には競売手続が完了しました。

この過程において、所有権仮登記の権利者であった上告人は、競売手続の結果、所有権を主張できなくなり、所有権仮登記は抹消されました。した。

争点と裁判所の判断

本件の争点は、所有権仮登記の権利者が、仮登記の後に抵当権登記を経由した抵当権者に対して、不当利得を理由に競売代金の返還を請求できるかどうかでした。上告人は、競売により所有権仮登記が抹消されたため、抵当権者に対して代価の返還を請求しましたが、裁判所はこれを認めませんでした。

裁判所は、所有権仮登記は本登記の順位を保全する効力を有するにすぎず、仮登記の権利者は第三者に対抗できないと解釈しました。また、不動産登記法105条1項および146条1項に基づき、所有権仮登記は本登記に至るまでの一時的な保全措置であるため、仮登記のままで抵当権者に対抗することはできないと判断されました。

また、所有権仮登記の権利者が仮登記の後に登記を経由した抵当権者に対して優先して代価の交付を受ける権利を主張することも認められないため、上告人の予備的請求は棄却されました。

まとめ

今回の判例からわかるように、所有権仮登記は本登記に至るまでの一時的な手段であり、仮登記のままでは抵当権者や他の第三者に対抗することができません。したがって、不動産取引においては、仮登記に依存することなく、速やかに本登記を完了させることが重要です。この判例を参考に、今後の取引では適切な手続を心がけましょう。

最後に

今回は不当利得返還請求権と競売手続における仮登記の権利者の立場について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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