行政手続における押印廃止とその影響:デジタル社会の進展に向けた新たなステップ

行政手続における押印の廃止は、近年のデジタル化の流れを象徴する重要な動向の一つです。特に日本では、ハンコ文化が根強く残っていましたが、押印義務の見直しにより、多くの手続が大幅に簡略化されました。
今回は、行政手続における押印廃止の背景や具体的な手続の変化、そして今後の影響について詳しく解説します。

押印廃止の背景:デジタル社会への移行

押印の見直しは、行政手続の電子化を推進するために行われた取り組みの一環です。この動きは、当時の安倍晋三首相が指示した「行政手続における書面主義、押印原則、対面主義の見直し」を契機に、内閣府の規制改革推進会議が中心となって進められました。令和2年5月22日には、各省庁に対して再検討を依頼し、その後、菅義偉政権の下で「脱ハンコ」運動が加速しました。

令和3年通常国会では、押印義務を定める48の法律が一括改正され、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(法律第37号)として公布されました。この改正により、行政手続における押印義務の99%以上が廃止されました。具体的には、1万5,611の手続のうち、1万5,493手続の押印が不要となり、これにより年間1千万件を超える手続でハンコが不要になるとされています。

押印廃止の具体例とその影響

押印が廃止された主な手続には、住民票の転入・転出届や住民票の写しの交付請求、法人事業税等の中間確定申告などが含まれます。これらの手続は、市民にとって日常的に行われるものであり、押印の廃止により大幅に手続の簡略化が進みました。

一方で、印鑑証明の制度や実印が必要な手続は引き続き維持されています。具体的には、不動産登記申請手続や商業登記申請手続、特許出願手続などで実印が求められます。また、相続税申告における遺産分割協議書など、実印や印鑑証明が必要な手続は100以下に絞り込まれることとなりました。

電子契約への移行と課題

押印の廃止が進む一方で、企業間の契約や社内文書における押印の廃止も進んでいます。特に、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、在宅勤務(テレワーク)の導入が進み、契約書や稟議書の電子化が加速しました。大手企業を中心に、電子契約システムが導入され、書類の作成や閲覧がオンラインで完結するようになっています。

しかし、金融機関における預金口座の開設や借入れ手続など、まだ押印が必要なケースも多く残っています。特に地方銀行や信用金庫では、システム関連への投資が遅れており、オンライン化の進展が課題となっています。また、政府の電子調達システムにおいても、電子契約の普及が進んでおらず、書類による契約が依然として主流です。

まとめ:脱ハンコ社会への道のり

押印廃止の動きは、日本のデジタル社会への移行を促進する重要なステップです。行政手続や企業の契約における押印の廃止により、手続の効率化が進み、市民や企業の負担が軽減されることが期待されます。しかし、金融機関や地方自治体など、まだオンライン化が進んでいない分野もあり、完全な脱ハンコ社会の実現には、さらなる取り組みが必要です。

今後、電子契約の普及やシステム投資の促進が進むことで、日本社会全体がデジタル化に対応した効率的な手続を実現できるようになるでしょう。今回の押印廃止は、その第一歩に過ぎず、引き続き制度の見直しと改革が求められています。

押印廃止に関する法令の具体例として、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(法律第37号)が挙げられます。この法律は、行政手続のデジタル化を進めるための基盤を築いたものであり、今後の日本社会におけるデジタル化の推進に寄与するものとされています。

最後に

今回は行政手続における押印廃止について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が印鑑制度について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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