私文書偽造と印影の証明について
私たちが日常生活で使用する「印鑑」は、法律において重要な役割を果たしています。契約書や申請書に印鑑を押すこと意思が確認され、法的効力を持つことができます。
しかし、その印鑑が本当に名義人のものであるかどうかが問題になることもあります。
今回は、印鑑が私文書の作成名義人の意思に基づいて使用されたかどうかをめぐる興味深い裁判例について詳しく解説します。
【判例 最高裁判所第一小法廷 昭和50年6月12日 】
目次
事件の背景
この事件は、親子間で共有で使用されていた三文判による私文書偽造に関するものです。なお、三文判とはいわゆる認印のことです。
上告人は、自らの印鑑が使用された申告書が自身の意思に基づいて作成されたものであると主張しました。しかし、その印鑑は家庭内で親子が共有していたものであり、このことが裁判の焦点となりました。
登場人物等と事件の経緯
- 上告人
本事件の中心人物であり、問題となった印鑑の名義人。 - 上告人の母D
上告人から権限を与えられて申告書を作成した人物。 - 家庭内で共有されていた印鑑
問題となった印鑑で、親子が共用していた三文判。
この印鑑が上告人の意思に基づいて使用されたかどうかが争点となりました。
裁判に至るまでの紛争過程
修正申告書の提出
上告人は税務署に対して修正申告書を提出しました。しかし、その申告書に押されていた印鑑は、親子が共有して使用していた三文判でした。この三文判は、上告人の母Dや他の家族も使用することができるものでした。申告書には上告人の名義が記載されていました。しかし、その印影が本当に上告人の意思に基づいて押されたものかどうかが疑問視されることとなりました。
税務署の指摘
税務署は、この修正申告書に押された印鑑が、上告人の意思に基づいて使用されたものかどうかについて疑念を抱きました。なお、税務署は、この印鑑が家庭内で共有されているものであるという事実を考慮し、申告書の真正性を確認するための調査を開始しました。
上告人の主張
上告人は、申告書の作成に関して母Dに権限を与えていたと主張しました。また、上告人は、母Dが自分の代わりに申告書を作成し、提出する権限を持っていたため、その結果として印鑑が使用されたと説明しました。上告人は、家庭内で共有されている印鑑であっても、その使用は自分の意思に基づいていると強く主張しました。
裁判所の判断
裁判所は、以下の理由から上告人の主張を退けました。
三文判の使用と名義人の意思
「私文書の作成名義人の印影が、名義人と他の者の共有、共用しているいわゆる三文判によって顕出されたものであるときは、右印影は、名義人の意思に基づいて顕出されたものと推定することはできない。」という判断に至った理由は、以下の通りです。
- 印影の信頼性の欠如
家庭内で共有されている三文判は、誰が使用したかを特定するのが困難です。そのため、その印影が名義人の意思に基づいていると推定することができません。 - 名義人の意思の証明
印影が名義人の意思に基づいているかどうかを証明するためには、他の明確な証拠が必要となります。この事件では、そのような証拠が不足していました。
判例の引用
裁判所は、「最高裁判所第三小法廷 昭和39年5月12日」などの過去の判例を引用し、印影が名義人の意思に基づいていると推定するためには、その印影が名義人自身の印章によって顕出されたものであることが必要であるとしました。この場合、印鑑が家庭内で共有されていたため、その要件を満たしていませんでした。
母Dの関与
裁判所は、母Dが申告書を作成する権限を上告人から付与されていたとを認めました。しかし、それでもなお、印鑑が共有されていたという事実が重視されました。このため、申告書の印影が上告人の意思に基づいているとする主張は認められませんでした。
結論
裁判所は、上告人の主張を退け、上告を棄却しました。この判決は、印鑑が共有されている場合、その印影が名義人の意思に基づいていると推定することができないという重要な法的原則を示しています。
まとめ
今回の判例は、私たちの日常生活における印鑑の使用とその法的効力について重要な示唆を与えています。特に、印鑑が共有されている場合、その印影が名義人の意思に基づいていると証明することがいかに難しいかを示しています。印鑑を使用する際には、その印鑑が他の人と共有されていないことを確認することが重要です。また、必要に応じて、印鑑登録を行い、その印鑑が自分のものであることを証明できるようにしておくことが推奨されます。
最後に
今回は私文書偽造と印影の証明について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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