防火のための建物の構造に関する徹底解説

建物の安全性を確保するためには、防火対策が欠かせません。建築基準法では、火災の発生や延焼を防ぐための厳しい規制が設けられています。
今回は、建築基準法に基づく防火対策の基本を詳しく解説します。

建築基準法による防火規制

建築基準法では、火災が発生しにくい材料で建物を造ること、近隣からの延焼で燃えやすい箇所を防火性能の高いものにすること、避難が容易になるように道路に接する形で建物を建てることなどが定められています【建築基準法第21条】。具体的には以下のような規制があります。

耐火建築物と耐火構造

耐火建築物とは、主要構造部が耐火構造であり、屋内外で発生した火災の熱に耐える性能を持つ建物を指します。また、耐火構造は、火災が収まるまで建物が倒壊・延焼しない性能(耐火性能)を持つ構造のことをいいます。
耐火性能は以下の三つの要素で評価されます。

非損傷性

非損傷性とは、柱や壁が火災による熱を加えられても、指定された時間内に変形や損傷が生じない性能のことです。準耐火構造の場合、この時間は45分です。この性能は建物の主要構造部が火災時にどれだけ耐えられるかを示す重要な指標です。例えば、壁や柱は1時間から3時間、屋根や階段は30分の加熱時間が基準となります。これにより、火災発生時に建物が早期に崩壊することを防ぎ、避難や消防活動の時間を確保する役割を果たします。

遮熱性

遮熱性とは、壁や床が火災による熱を一定時間加えられた際に、加熱面以外の面が可燃物が燃焼するおそれのある温度以上に上昇しない性能です。具体的には、壁や床の加熱面が高温になっても、その反対側の温度が一定範囲内に抑えられることで、火災が広がるのを防ぎます。基準となる加熱時間は1時間です。遮熱性は、火災による熱が建物内部に伝わりにくくすることで、火災の影響範囲を限定し、建物全体の防火性能を高めます。

遮炎性

遮炎性とは、外壁や屋根が火災による熱を一定時間加えられた際に、屋外に火炎を出す亀裂を生じない性能です。これにより、火災が建物の外部に広がるのを防ぎます。基準となる加熱時間は1時間です。遮炎性は、建物内部で発生した火災が外部に漏れ出るのを防ぎ、隣接する建物や地域への延焼リスクを低減します。この性能により、建物自体だけでなく、周囲の安全性も確保されます。

耐火建築物と耐火構造のこれらの性能要件は、建築基準法に基づき厳格に定められており、火災時の安全性を最大限に高めるための重要な基準となっています。これにより、火災発生時の被害を最小限に抑え、建物の利用者の命と財産を守ることが可能となります。

準耐火建築物と準耐火構造

準耐火建築物とは、主要構造部が準耐火構造であり、主要構造部に防火上の措置がなされた建物を指します。耐火建築物ほど厳しい基準は適用されません。しかし、一定の準耐火性能を持つ必要があります。
準耐火性能は以下の三つの要素で評価されます。

非損傷性

非損傷性とは、柱や壁が火災による熱を45分間加えられても変形や損傷が生じない性能です。これは、火災発生時に建物が即座に崩壊するのを防ぎ、避難や消防活動の時間を確保するために重要です。屋根や階段についても同様に火災発生時の安全性を確保するために、30分間の耐熱性能が求められます。これにより、建物内部の安全が確保され、火災からの逃避時間が確保されます。

遮熱性

遮熱性とは、壁や床が火災による熱を45分間加えられた際に、加熱面以外の面が可燃物が燃焼する温度に上昇しない性能です。これにより、火災の熱が建物内部に広がるのを防ぎます。具体的には、火災によって壁や床が高温になっても、反対側の面の温度が一定範囲内に抑えられることで、火災が広がるのを防ぎます。この性能は、建物内の他の部分や隣接する建物への延焼を防ぐために非常に重要です。

遮炎性

遮炎性とは、屋根や外壁が火災による熱を受けた際に、一定時間内に屋外に火炎を漏らす亀裂が生じない性能のことです。準耐火構造の場合、この時間は45分です。これにより、建物内部で発生した火災が外部に広がるのを防ぎ、隣接する建物や地域への延焼リスクを低減します。遮炎性の性能により、建物全体の防火性能が高まり、火災時の被害を最小限に抑えることができます。

準耐火建築物と準耐火構造のこれらの性能要件は、火災時に建物の安全性を確保し、被害を最小限に抑えるための重要な基準です。これにより、火災発生時の避難や消防活動が円滑に行われ、建物の利用者の命と財産が守られます。

防火設備と特定防火設備

防火設備とは、扉や窓のような建具で炎を遮る性能を持つ設備を指します。これに対して特定防火設備は、より優れた遮炎性能を持つ設備で、火災時に1時間以上炎を遮ることが求められます。具体例として、厚さ1.5mm以上の鉄製扉や鉄製シャッターが挙げられます。

防火区画

防火区画は、火災発生時に炎や煙の拡大を防ぐために建築物内部に設置される区画です。これにより、火災の被害を局所的に抑え、建物全体の安全性を高める役割を果たします。防火区画には以下の4種類があります。

面積区画

面積区画とは、一定の面積の空間で火災が一挙に燃え広がるのを防ぐために設けられる区画です。この区画は、耐火構造の床や壁、特定防火設備を用いて区切られます。具体的には、耐火性能を持つ壁や床で部屋やフロアを区分けすることで、火災が他の区画に広がるのを防ぎます。このような区画があることで、火災の影響を局所的に抑えることができ、被害を最小限に抑えます。

高層区画

高層区画とは、高層階での火災発生時に適用される厳しい防火規定を持つ区画です。高層階では消火活動が困難になるため、面積区画よりも厳しい規定が適用されます。例えば、11階以上の建物では、原則として100平方メートル以内ごとに区画を設ける必要があります。この区画により、高層階での火災発生時でも被害を局所的に抑えることができ、避難や消火活動を円滑に行うことが可能となります。

竪穴区画

竪穴区画とは、火災や煙が階段やエレベーターシャフトなどの上下階を縦に貫通する部分(竪穴)を防ぐために設けられる区画です。この区画は、火災が上下階に広がるのを防ぎ、建物全体の安全性を高める役割を果たします。具体的には、階段やエレベーターシャフト周りに耐火構造を持つ壁を設置することで、火災が上下に広がるのを防ぎます。

異種用途区画

異種用途区画とは、複数の用途で使用される建物において、それぞれの用途を区画するために設けられる区画です。例えば、商業施設と住宅が一つの建物に混在する場合、それぞれの部分を防火区画で区切ることが求められます。これにより、火災発生時に異なる用途の部分に火災が広がるのを防ぎ、避難や消火活動を容易にします。

防火区画は建築基準法に基づき設置され、火災発生時の被害を最小限に抑えるための重要な役割を果たします。これらの区画を適切に設けることで、建物の安全性を高め、火災による被害を局所的に抑えることが可能となります。

排煙設備

火災時には発生した煙や有毒ガスを適切に屋外に排出する排煙設備が必要です。建築基準法では、階数が3以上で延べ面積が500㎡を超える建築物に排煙設備の設置が義務付けられています【建築基準法第35条】。

非常用設備

火災時には停電が発生する可能性が高いため、非常用照明装置や非常用進入口、非常用昇降機の設置が建築基準法に基づき求められています。これらの設備は、火災時の避難や消防活動を円滑に行うために欠かせない重要な要素です。

非常用照明装置

非常用照明装置は、停電時でも一定の照度を確保できる装置で、建築物の居室や通路に設置が義務付けられています。この装置は直接照明として設置され、火災時においても床面の照度が1ルクス以上を確保します。また、火災による高温下でも光度が極端に低下しない性能が求められます。さらに、停電時に機能するための予備電源も必要です。これにより、避難経路が確保され、避難者が安全に脱出できるようになります。

非常用進入口

非常用進入口は、高さ31m以下の建物の3階以上に設置される設備です。この進入口は、幅75cm以上、高さ1.2m以上、下端の床面からの高さが80cm以下でなければなりません。また、赤色灯の標識を掲示し、非常用進入口であることを赤色で表示する必要があります。非常用進入口は道路や、道路に通じる幅4m以上の通路・空地などに面している各階の外壁面に、40m以下の間隔で設置しなければなりません。これにより、消防隊が建物内部に迅速に進入し、救助活動を行うことができます。

非常用昇降機

非常用昇降機は、高さ31mを超える建築物に設置されるエレベーターです。この設備は、非常時においても安全に動作し、避難者の迅速な避難と消防隊の迅速な移動を支援するために設置されます。設置台数は、建物の高さ31mを超える部分の床面積に応じて決まります。具体的には、1500平方メートル以下の場合は1台、1500平方メートルを超えると3000平方メートルごとに1台ずつ追加されます。これにより、高層建物でも安全に避難が行えるようになります。

非常用設備は、火災時における避難の円滑化と消防活動の支援を目的としており、建築基準法に基づいて厳格に設置が義務付けられています。これらの設備を適切に設置することで、火災時の被害を最小限に抑え、命を守ることが可能となります。

まとめ

防火対策は、建物の安全性を確保するために欠かせない要素です。建築基準法に基づく規制を遵守することで、火災のリスクを最小限に抑え、住民の命と財産を守ることができます。この記事を通じて、防火対策の基本を理解し、実際の建築計画に活かしていただければ幸いです。

最後に

今回は防火のための建物の構造について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が消防法について学びたい方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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