株式会社設立における「変態設立事項」とは何か?

株式会社の設立は、多くの期待と可能性を秘めています。その一方で、適切な手続きを踏まないと大きなリスクを伴うことがあります。特に「変態設立事項」と呼ばれる特定の手続きについては、細心の注意が必要です。今回は、変態設立事項の具体例とついて詳しく解説します。

変態設立事項とは何か?

定義と必要性

変態設立事項とは、会社法に基づき、会社設立時に定款に記載しなければならない特別な事項を指します。これらは会社の財産を危うくする可能性があるため、厳格な手続きが要求されます。具体的には、以下の4つが挙げられます。

1. 現物出資

現物出資とは、現金ではなく、土地や建物、機械設備などの物を資本金として提供することを指します。また、物理的な物だけではなく債権等の無形資産も現物出資の対象とすることができます。この場合、提供された物の評価が適切に行われることが重要です。

もしその評価が過大になると、例えば実際には1000万円の価値しかない土地を2000万円として評価すると、会社の資本金が実際よりも多く見積もられることになります。これにより、会社の資産が実態よりも過大に表示され、債権者や投資家に誤解を与える可能性があります。そのため、現物出資については、裁判所が選任する検査役による厳格な調査が必要です。

検査役は、出資物の評価が適正であることを確認し、不正が行われないようにします。ただし、出資額が500万円を超えない場合や、出資物が市場で簡単に評価できるものである場合には、検査役の調査が不要となる場合もあります。これにより、会社設立の手続きを迅速に進めることができる一方で、会社の財務の健全性を確保する仕組みが整えられています。

2. 財産引受

財産引受とは、会社設立後に発起人が特定の財産を会社に譲り渡す契約を指します。これにより、発起人は会社設立後にその財産を会社に提供することになります。しかし、このプロセスには注意が必要です。

現物出資と同様に、財産の評価が過大になるリスクがあります。例えば、実際の価値が100万円の機械を300万円として評価し譲り渡すと、会社の財産が過大に計上され、会社の財務状態が実態と乖離してしまう可能性があります。これにより、他の株主や債権者に不公平が生じることがあります。

したがって、財産引受についても、現物出資と同様に厳格な手続きと慎重な評価が求められます。具体的には、裁判所が選任する検査役による評価が必要とされ、不正な評価を防止するためのチェックが行われます。

3. 特別の利益・報酬

特別の利益・報酬とは、発起人が会社設立に際して提供した労務やサービスに対して受け取る報酬や特別な利益を指します。発起人は会社設立の企画や準備に多大な労力を費やしますが、その労務に対する対価として報酬が支払われることがあります。

この報酬や利益が過大である場合、会社の財産が不当に減少し、他の株主や債権者に不公平な状況を生む可能性があります。たとえば、実際の貢献度に見合わない高額な報酬や特別ボーナスが支払われると、会社の資本が減少し、会社の健全な運営に支障をきたす恐れがあります。

そのため、特別の利益や報酬についても、定款に明確に記載し、透明性を確保することが求められます。さらに、裁判所が選任する検査役によるチェックが行われ、過大な報酬や利益が支払われないようにするための仕組みが設けられています。

4. 設立費用

設立費用とは、発起人が会社設立のために支出した様々な経費を指します。これには、登記手続きにかかる費用、法律事務所や公証人への手数料、さらには通信費や交通費など、多岐にわたる費用が含まれます。設立費用が不当に高額になると、会社の財産を圧迫し、発起人以外の株主に対して不公平な状況を招く可能性があります。

そのため、設立費用の全額とその内訳を定款に明記することが義務付けられています。これにより、会社設立に関する全ての費用が透明化され、他の株主や利害関係者に対して公正な情報開示が行われます。定款に記載することで、設立費用の適正性が担保され、不相当な負担が会社に生じないようにする仕組みが確立されます。このように、設立費用の明確な記載は、会社の健全なスタートに欠かせない重要な手続きの一つです。

変態設立事項に対する規制

定款記載と検査役の調査

変態設立事項は、その性質上、会社の財産を危うくする可能性があるため、定款に明確に記載しなければその効力を認められません。定款に記載することで、会社設立時に関与する全ての関係者に対して透明性が確保されます。さらに、これらの事項については、裁判所が選任する検査役による厳格なチェックが必要です。検査役は、定款に記載された変態設立事項が適正かつ公正であることを確認し、不当と認めた場合は修正を命じることができます。このようにして、会社財産が不当に損なわれることを防ぐ仕組みが整えられています。

事後設立による規制逃れの防止

会社設立後に高額な財産を取得する「事後設立」という方法が用いられることがあります。事後設立とは、設立前から存在する財産を会社が成立後に購入する契約を指します。この方法を利用することで、変態設立事項の規制を回避しようとするケースが見受けられます。

しかし、これに対しても厳格な規制が設けられています。具体的には、事後設立を行うためには、株主総会において特別決議を行う必要があります。特別決議とは、株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を得ることを指します。ただし、取得する財産の価格が会社の純資産額の5分の1以下である場合には、特別決議を省略することが認められています。このような規制により、会社財産が不当に危うくされることを防ぎ、公正な会社運営を維持することが可能となります。

まとめ

変態設立事項は、会社の財産を守るために設けられた重要な規定です。これらの事項については、厳格な手続きを踏むことで、会社の財産が危うくなるリスクを最小限に抑えることができます。会社設立に関わるすべての関係者が、これらの規定を理解し、適切に対応することが求められます。

最後に

今回は変態設立事項について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が法人設立について学びたい方の参考になれば幸いです。
【参考:法務省:株式会社の設立手続(発起設立)について (moj.go.jp)

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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