農地の売主が所有権移転登記手続きに協力しない場合は?

農地の売買契約をし、許可を取得したにも関わらず売主が所有権移転登記に協力しない事態が発生したら、どう思いますか?
今回は、判例に基づきこの問題について解説します。
【判例 最高裁判所第三小法廷 昭和39年9月8日 】

判例の背景

事件の経緯と登場人物

本件では、被告A(上告人)と原告B(被上告人)の間で、宅地と畑の売買契約が結ばれました。以下に時系列順で事件の経緯をまとめます。

  1. 契約締結
    AとBは、宅地および畑について売買契約を締結。
  2. 代金の支払い
    Bは契約所定の代金の一部を支払いました。しかし、残代金の支払いが完了していませんでした。
  3. 農地法第5条による許可申請
    Aは福井県知事に対し、農地法第5条に基づく許可申請を行い、許可がなされました。
  4. 訴訟の提起
    Bは、宅地の所有権移転登記手続きと、畑の所有権移転登記手続きを求めて訴訟を提起。

紛争のポイント

  • Bは、残代金の支払いが完了していない状況で、農地の所有権移転登記手続きを求めました。
  • Aは、残代金と引換えでなければ登記手続きを行わないと主張。
  • 福井県知事の許可があったことを条件に、農地の所有権移転登記手続きを行うべきかが争点となりました。

裁判所の判断

所有権移転登記手続きの義務

裁判所は、Bの請求を以下の理由で認めました。

同時履行の抗弁の不主張

Aは、原審において残代金と引換えでなければ登記手続きを行わない旨の主張(同時履行の抗弁)を行いませんでした。同時履行の抗弁とは、当事者が互いに義務を同時に履行することを求める主張です。具体的には、売主Aが「買主Bが残代金を支払わなければ、私は所有権移転登記手続きを行わない」という主張です。しかし、Aは原審でこの抗弁を主張しなかったため、裁判所はこの点を考慮に入れず、Bの請求を認めました。

農地法第5条の許可

農地法第5条は、農地の所有権移転に際して都道府県知事の許可を必要とする規定です。この許可がなければ、農地の所有権移転は効力を持ちません。本件では、Aが知事に対して許可申請を行い、許可が得られていました。このため、裁判所は、許可が得られた時点で所有権移転の効力が生じると判断しました。

具体的には、以下のように裁判所は判断しました。

  1. 停止条件付き契約の不存在
    本件売買契約は、その内容から許可を条件とする停止条件付き契約ではないと判断されました。つまり、知事の許可が得られた時点で直ちに所有権移転の効力が生じる契約であるとされました。
  2. 知事の許可の効力
    知事の許可が得られたことにより、BはAに対して所有権移転登記手続きを請求する権利を有することが確認されました。これにより、Bは将来的な許可取得を条件に所有権移転登記手続きを請求することが許されるとされました。

このように、裁判所は農地法第5条に基づく許可の取得と同時履行の抗弁の不主張を理由に、Bの請求を認める判断を下しました。

まとめ

農地の売買契約は、農地法第5条に基づく都道府県知事の許可が不可欠です。これがなければ所有権移転の効力は生じません。本件判例は、同時履行の抗弁の主張がない場合の法的影響や、停止条件付き契約でない場合の許可の効力について詳細に示しています。農地の売買に関与する際には、適切な手続きを踏むことが重要です。

本件判例では、買主が残代金を速やかに支払わなかったことに紛争の原因があります。しかし、その問題と登記手続きの協力義務は別の問題です。
売買契約の中に代金の支払いと登記移転が同時に行われる特約を含めなかったこと、原審において同時履行の抗弁権を主張しなかった点が売主に不利になってしまいました。

農地法第5条は、農地売買の法的枠組みを提供する重要な規定です。実務においてもその理解と遵守が求められます。本記事を通じて、農地の売買におけるポイントについて理解を深めていただければ幸いです。

最後に

今回は農地の売主が所有権移転登記手続きに協力しない場合について解説しました。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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