「ひとり遺産分割協議」はできない!遺産分割と相続に関する複雑な法律問題を解説
遺産相続は家族や親族間での大きな問題となり得るものです。特に複数の相続が絡む場合、その手続きは一層複雑になります。今回取り上げるのは、東京地方裁判所が平成26年3月13日に下した判決です。この判決では、被相続人の遺産分割に関する申請が却下された事例について、その経緯と判決理由を詳しく解説します。
【判例 東京地方裁判所 平成26年3月13日】
目次
事件の背景
被相続人甲の相続
被相続人甲が死亡した際、相続人として乙(配偶者)と丙(子供)がいました。甲の死亡により第1次相続が開始されましたが、甲の遺産分割は行われないままでした。
乙の死亡と第2次相続の開始
その後、乙が死亡し、乙の遺産分割も未了のまま第2次相続が開始されました。乙の相続人は丙一人だけでした。
相続手続きの問題点
丙は、甲の遺産すべてを直接相続したという内容の遺産分割決定書を添付して、不動産登記を申請しました。しかし、この申請は、登記原因証明情報の不足を理由に却下されました。この判決では、丙が甲の遺産を直接相続することが形式的に審査されるべきではないと判断されました。
ひとり遺産分割協議は認められない
これだけを読むと少し難解なので、噛み砕いて解説します。
本来ならば、甲が死亡した時点で甲の財産は乙と丙に相続されます。この段階では乙と丙の間で遺産分割協議を行えば、甲の全財産を丙に相続させることは容易です。しかし、乙と丙が遺産分割協議を完結しないうちに、さらに乙も死亡してしまいました。この状態を一般的に数次相続といいます。しかも、生存する被相続人は丙1人のみです。
もはやこの段階において、当初の甲の相続における遺産分割をすることは不適とされたのです。
判決の核心部分
第1次相続と第2次相続の関係
判決では、甲の遺産は第1次相続の開始時に乙と丙に共有され、その後、第2次相続の開始時に全てが丙に帰属するべきだとされました。これにより、丙が甲の遺産を直接相続したとする遺産分割決定書は、法的に有効ではないとされました。
登記官の判断の適法性
登記官は、不動産登記法に基づき、登記原因証明情報の提供がないとして申請を却下しました。この判断は適法であると裁判所は結論づけました。
法的根拠
不動産登記法25条9号
不動産登記法は、登記の申請には適切な証明情報が必要であると規定しています。今回のケースでは、登記原因証明情報として提供された遺産分割決定書が不十分であったため、申請が却下されました。
(申請の却下)
不動産登記法
第25条
登記官は、次に掲げる場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。ただし、当該申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人がこれを補正したときは、この限りでない。
9 第22条本文若しくは第61条の規定又はこの法律に基づく命令若しくはその他の法令の規定により申請情報と併せて提供しなければならないものとされている情報が提供されないとき。
民法896条と898条
民法896条は、相続人が相続開始の時から被相続人の財産に属する権利義務を承継することを規定しています。
(相続の一般的効力)
民法
第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
また、898条は相続財産が共同相続人の共有に属することを規定しています。これに基づき、乙と丙が共同で甲の遺産を相続したとされました。
(共同相続の効力)
民法
第898条
判決に至る経緯
原告の主張
原告である丙は、乙が死亡した後に乙の遺産分割を行い、全ての遺産を単独で取得する旨を遺産処分決定として主張しました。しかし、この主張は、民法上認められないものであるとされました。
被告の主張
被告は、丙が単独で遺産分割を行うことはできず、そのための登記原因証明情報が不十分であると主張しました。裁判所もこの主張を支持しました。
まとめ
今回の判決では、数次相続が絡む場合の遺産分割と登記申請の複雑さが浮き彫りになりました。裁判所は、不動産登記法と民法に基づき、適切な証明情報の提供がない申請を却下することの適法性を確認しました。この判決は、相続手続きにおける法的根拠とその適用の重要性を再認識させるものでした。
相続問題においては、法的手続きを適切に進めることが不可欠です。今回のケースは、遺産分割や登記申請に関する法律の理解を深める一助となるでしょう。
最後に
今回はひとり遺産分割が認められない事について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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