証券取引法の改正前後における損失補填の是非を巡る裁判
あなたは、投資を始めようとする際に証券会社との関係で不安を感じたことはありませんか?
特に大きな金額を投資する場合、その不安は一層大きくなることでしょう。そんな不安を解消するために証券会社が行っていた「損失補填」について、法律上の争いが生じたケースがあります。
【判例 最高裁判所第二小法廷 平成15年4月18日】
目次
事件の背景
事件発生の経緯
- 登場人物と相関関係
本件の当事者は、準大手の証券会社(以下「上告人」)と、東京証券取引所及び大阪証券取引所に上場している鉄鋼専門商社(以下「被上告人」)です。被上告人は、昭和60年3月にユーロ市場で社債を発行し約100億円の資金を調達する計画を立て、そのための共同主幹事証券会社として上告人を選びました。 - 契約の締結
被上告人は、同年6月14日にD信託銀行と30億円の特定金銭信託契約(以下「本件特金契約」)を締結しました。その運用指図をE経済研究所に委託し、その後F投資顧問株式会社が運用指図を継承しました。同時に上告人は被上告人に対し、信託元本の運用益が年8%に満たない場合、その差額を支払うことを約束しました(以下「本件保証契約」)。 - 保証契約の延長と追加
平成2年3月20日、特金契約の信託期間延長に伴い、保証契約の保証利回りを年8%から年8.5%に引き上げる追加保証契約(以下「本件追加保証契約」)が締結されました。
紛争の発生
- 損失補填に関する問題
平成元年11月、証券会社による損失補填が社会問題化し、大蔵省証券局長通達により損失補填の厳禁が求められました。これにより損失補填が社会的に非難される行為となりました。
- 訴訟の提起
被上告人は、平成5年3月11日に本件保証契約及び本件追加保証契約に基づく23億1603万円余りの支払を求めて上告人を提訴しました。これに対し、上告人はこれが公序良俗に反するとして争いました。
(公序良俗)
民法
第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
判決の概要と核心部分の解説
最高裁判所の判断
最高裁は以下の2つのポイントを判断しました。
- 法律行為の公序判断基準
法律行為が公序に反するか否かは、その行為が行われた時点の公序に照らして判断すべきであるとしました。これにより、本件保証契約締結時には損失補填が公序に反するとは認識されていなかったため、無効とは言えないとしました。 - 証券取引法の改正と憲法29条
平成3年の証券取引法改正により、損失補填行為は禁止されました。また、その後の罰則規定も強化されました。最高裁は、この改正法が憲法29条に違反しないと判断しました。この規定は公共の福祉に適合し、市場の信頼性を保つための正当なものであると認められました。
第二十九条
日本国憲法
詳細な解説
法律行為と公序良俗
法律行為の公序に反するかどうかの判断は、その行為が行われた時点の社会的規範に基づくものであることを最高裁は明確にしました。本件では、昭和60年当時の保証契約は社会的に許容されるものであったため、その有効性が認められました。
証券取引法の改正とその影響
平成3年の証券取引法改正は、損失補填行為の禁止を明確にし、罰則を設けました。この改正の背景には、証券市場の公正性を守り、投資家の信頼を維持するための必要性がありました。最高裁は、この規定が憲法29条に違反しないとし、改正前に締結された契約も含めて損失補填行為が禁止されることを確認しました。
まとめ
本件は、昭和60年に締結された保証契約が、その後の証券取引法の改正によりどのように影響を受けるかを巡る重要な判例です。最高裁は、法律行為の有効性は行為時点の社会的規範に基づき判断されるべきであるとし、また、改正法が憲法に違反しないと判断しました。この判例は、証券取引における公正性と信頼性を維持するための法的枠組みを理解する上で重要な示唆を与えています。
最後に
今回は証券取引における損失補償特約の有効性について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームからいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)