特定行政書士の魅力とは?資格取得の手引き

今回は、行政書士の中でも考査試験を突破したエリート戦士のみが成れる特定行政書士の概要について解説します。
これから特定行政書士資格を取得したいと考えられている方の参考になれば幸いです。

特定行政書士とは?

特定行政書士とは、行政書士が作成した官公署に提出する書類に関連する許認可などに関する行政庁への不服申立ての手続きの代理業務を行える行政書士です。この特定行政書士資格は、行政書士の資格取得後、日本行政書士会連合が実施する「特定行政書士法定研修」を受講し、考査に合格することで得られます。つまり、行政書士としての資格を有していることが特定行政書士の資格取得の前提条件となります。

第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。

一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。

二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。

三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。

四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。

行政書士法

行政書士と特定行政書士の違い

行政書士と特定行政書士の主な違いは、行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可などに関する行政不服申立ての手続きの代理業務が行えるかどうかです。この資格があると、申請から不服申立ての手続きまでを一貫して行うことができます。
ちなみに、「特定」と冠していますが、扱える業務は通常の行政書士より幅広いです。非常にややこしいネーミングですね。

注意点

行政書士が作成した官公署に提出する書類に限定される

特定行政書士は「行政書士が作成した官公署に提出する書類」に係る行政不服申立ての手続きしかできません。すなわち、本人が自ら作成していた等、行政書士が作成に関与していない書類の行政不服申立て手続きは請負うことができません。このような場合は弁護士のみがその代行をすることができます。
なお、行政書士が作成したものであれば誰が作成したかは問われません。自分以外の行政書士が作成した書類であっても行政不服申立て手続きは可能です。

訴訟まではできない

特定行政書士が可能なのは行政手続法、行政不服審査法が根拠となる手続きに限定されます。行政事件訴訟法の手続き、すなわち行政訴訟は実施できません。こちらは明確に弁護士の職域となります。

不服申立ての手続きとは?

審査請求

行政庁の処分や不作為に不服がある場合に、処分庁や最上級行政庁に対して行う請求です。不作為とは、行政庁が申請に対して何らの処分をしないことを指します。審査請求の期限は、処分があったと知った日の翌日から3か月以内、かつ処分があった日の翌日から1年以内です。ただし、正当な理由がある場合にはこの限りではありません。

再調査請求

処分庁以外の行政庁に審査請求ができるケースにおいて、法律で再調査請求ができると定められている場合に限り、処分庁に対して再調査の請求を行うものです。再調査請求の期限も審査請求と同様に、処分があったと知った日の翌日から3か月以内、かつ処分があった日の翌日から1年以内です。

再審査請求

行政庁の処分についての審査請求の結果に不服がある場合に、法律で定められた処分庁に対して処分や原裁決の再審査を請求することです。再審査請求の期限は、原裁決があったと知った日の翌日から1か月以内、かつ原裁決があった日の翌日から1年以内です。

特定行政書士の資格取得までの流れ

法定研修を受講する

特定行政書士になるためには、日本行政書士会連合会が実施する「特定行政書士法定研修」を受講する必要があります。
研修内容は以下の通りです。

  1. 行政法総論:1時間
  2. 行政手続制度概説:1時間
  3. 行政手続法の論点:2時間
  4. 行政不服審査制度概説:2時間
  5. 行政不服審査法の論点:2時間
  6. 行政事件訴訟法の論点:2時間
  7. 要件事実・事実認定論:4時間
  8. 特定行政書士の論理:2時間
  9. 総まとめ:2時間

合計9科目・18時間です。

また、この研修は4日間に分けて実施され、受講料は8万円です。

考査を受ける

研修を修了した後、毎年10月に全国で一斉に行われる考査を受験します。考査はマークシート方式の択一式で、試験時間は2時間、問題数は30問です。考査料は研修料に含まれており、不合格の場合でも翌年に無料で再受験できます。

特定行政書士登録手続きをする

考査に合格した後、特定行政書士の登録手続きを行います。登録手続きは日本行政書士連合会の会員サイト「連con」で確認できます。

特定行政書士試験の合格率と難易度

特定行政書士法定研修考査の合格率は約7割で推移しています。合格率自体はかなり高いと言えるでしょう。
また、正答率が6割程度必要とされています。これは行政書士試験の合格基準点と同様です。
しかし、行政書士試験を突破した猛者でも3割は落ちる試験とも言えます。合格基準を満たすためには、しっかりとした対策が求められます。

特定行政書士が誕生した背景

2014年の法改正により、2015年に特定行政書士が誕生しました。それまで、不服申立てに関する手続きは弁護士しか行えませんでした。そのため、行政書士から弁護士への引き継ぎに時間を要していました。そのため、行政書士が継続して担当するニーズが高まり、特定行政書士が誕生しました。
また、類似する制度は司法書士、社労士にも存在します。いずれも、一定の試験をクリアすることで弁護士業務の一部を実施できる資格と考えて問題ありません。

特定行政書士法定研修を修了できなかった場合

特定行政書士法定研修を修了できなかった場合、初回受講年度を含む3年間は再受講制度を利用できます。受講料の減免措置があり、初年度から4年目以降は新規受講扱いとなります。

特定行政書士は取得するべきなのか?

このように、特定行政書士とは行政不服申立ての代理手続きまで行える行政書士です。この資格を取得すれば、法律のプロとして顧客からの信頼獲得に繋がる可能性があります。

ただし、全国的に見ても特定行政書士が行政不服申立て手続きを実施した事例はほとんどありません。
日本行政書士連合会が公表している令和2年度の全国の行政書士の報酬統計では、行政不服申し立ての業務経験ありとの回答は僅か1件のみでした。また、その報酬額も8万円となっており、決して高単価とは言えない現状です。苦労をして取得したとしても金銭的なリターンを教授することは難しいでしょう。

このような統計結果となった原因の分析

ここからは個人的な分析ですが、おそらく、このような結果となった原因は以下の3点であると考えられます。

そもそも審査請求等が滅多に起きない

これが最大の原因であると考えられます。
通常、行政書士が役所に提出する書類は何度も入念にチェックをしてから提出します。また、作成段階から役所と何度も調整を実施し、疑問を払拭しつつ作成します。このため、実際に窓口に提出する際はほぼ完璧な状態に仕上がっているものです。補正指示があったとしても大抵は誤字脱字や印漏れ、添付資料の不足程度です。
そのため、行政と争いに発展すること自体が極めて稀なのです。

行政書士が作成した書類しか審査請求等の対象にならない

これもまた大きな痛手となりえます。
最初のハードルが常軌を逸して高すぎるのです。あまりにも入口が狭すぎると言っても過言ではないでしょう。
認定司法書士や特定社労士にはこんな制限は無いのに、どうして…と思わずにはいられません。

結論:取りたい人だけ取ればいい

個人的には、欲しい人だけが取得すれば良い資格なのではないかと考えています。
理由としては、業務拡大等の金銭的なリターンがほぼ無く、単に名誉を得られるという効果ばかりが目立つからです。

なお、既に取得している方やこれから取得したいと考えている方を揶揄する意図は全くありません。純粋にその向上心は尊敬できます。

最後に

今回は特定行政書士の業務について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が行政書士の業務について学びたい方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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