砂川市猟銃持許可取消事件の第1審を解説
銃砲所持許可の取消をめぐる裁判は、日本における銃規制の厳格さを象徴するものです。本件は北海道公安委員会が行ったライフル銃の所持許可取消処分に対して、原告がその取消しを求めた事例で、特に興味深い点がいくつかあります。今回は、事件の背景、裁判の経緯、裁判所の判断を詳細に解説します。
【判例 札幌地方裁判所 令和3年12月17日】
また、今回の記事は裁判の第1審の解説です。控訴審となった高裁判決については以下の続編記事で解説しています。
砂川市猟銃所持許可取消事件の詳細解説(続編)~裁判所の判断と核心的な論点~ - 熊谷行政書士法務事務所 広島市
事件の背景と経緯
事件の概要
本件は、北海道公安委員会が原告に対してライフル銃の所持許可を取り消す処分を行い、原告がこの処分が銃刀法の要件を満たさず、また裁量権を逸脱・濫用したものであるとして、その取消しを求めたものです。
発射行為の詳細
原告の状況
原告は北海道砂川市に住む男性で、鳥獣被害対策実施隊の隊員も務めています。平成30年8月21日、原告は砂川市からヒグマの駆除要請を受けてライフル銃を発射しましたが、この行為が問題視されました。
発射行為の詳細
原告は砂川市の要請に基づき、ヒグマの駆除のためにライフル銃を発射しました。この際、ヒグマの背後には高さ約8メートルの土手があり、原告とヒグマの距離はわずか15~19メートルでした。発射された弾丸はヒグマに命中し、発射行為は地域住民の安全確保のためのものでした。
警察の対応
特筆すべきは、発射行為当日に警察官が現場に立ち会っていたにもかかわらず、発射に対して異議を唱えなかったことです。警察官はヒグマの駆除を前提に行動し、住民への避難誘導を行っていました。しかし、後日この発射行為が問題視され、原告のライフル銃所持許可が取り消されることとなりました。
紛争の経緯
発射行為の後、原告はヒグマ駆除の一連の行為について問題がないと認識していました。しかし、北海道公安委員会は弾丸が到達するおそれのある建物に向かって発射されたことを問題視し、鳥獣保護管理法に違反するとして銃刀法に基づきライフル銃の所持許可を取り消しました。この処分に対して、原告は不服を申し立てました。
- 発射行為直後
現場にいた警察官が発射に異議を唱えず、避難誘導を行っていたことから、原告は問題ないと考えていました。 - 所持許可取消処分
北海道公安委員会は、弾丸が到達するおそれのある建物に向かって発射されたとして、銃刀法に基づき所持許可を取り消しました。 - 審査請求
原告はこの処分に対して審査請求を行いましたが、棄却されました。 - 訴訟提起
審査請求が棄却された後、原告は裁判所に訴訟を提起しました。
関係法令
- 銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)
銃砲の所持には都道府県公安委員会の許可が必要で、違反があった場合にはその許可を取り消すことができる。
(許可)
第四条 次の各号のいずれかに該当する者は、所持しようとする銃砲等又は刀剣類ごとに、その所持について、住所地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならない。
(許可の取消し及び仮領置)
第十一条 都道府県公安委員会は、第四条又は第六条の規定による許可を受けた者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、その許可を取り消すことができる。
銃砲刀剣類所持等取締法
- 鳥獣保護管理法
弾丸が到達するおそれのある建物に向かって銃猟をしてはならないと定める。
(銃猟の制限)
第三十八条
3 弾丸の到達するおそれのある人、飼養若しくは保管されている動物、建物又は電車、自動車、船舶その他の乗物に向かって、銃猟をしてはならない。
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律
裁判の核心部分
訴えの提起と裁判の進行
処分の取消しを原告が求め訴えを提起し、裁判所は以下の点を検討しました。
- 本件発射行為が銃刀法11条1項1号に該当するか
- 本件処分が裁量権を逸脱・濫用したか
原告の主張と証拠
原告の主張
発射行為が適法であり、裁量権の逸脱・濫用があったと原告は主張しました。具体的には、ヒグマの背後には適切なバックストップがあり、弾丸が建物に到達するおそれはなかったこと、ヒグマとの距離が近く発射は適切だったこと、現場にいた警察官が発射を制止しなかったことを挙げました。
証拠の詳細
裁判所は、現場の状況や警察官の行動など、以下の証拠を重視しました。
- 公共の利益
原告の行為は地域住民の不安に応じたものであり、公共の利益に沿ったものでした。 - 警察の対応
現場にいた警察官は発射の可能性を認識しつつも特に制止や警告を行っていませんでした。 - 発射の適切性
原告が発射した弾丸はヒグマに命中し、適切な行為であったことが認められました。
警察の判断と行動
警察の判断
原告の発射行為が鳥獣保護管理法に違反すると警察は判断し、弾丸が建物に到達する可能性があったと主張しました。このため、銃刀法に基づいて原告のライフル銃の所持許可を取り消しました。しかし、警察官は現場に立ち会っていた際に発射に異議を唱えず、むしろ発射を前提とした行動を取っていたため、この点が裁判で争点となりました。
現場での警察の行動
発射行為当日に警察官が現場に立ち会い、ヒグマ駆除のための発射行為を黙認していた事実は重要です。警察官は発射を制止せず、むしろ住民への避難誘導を行っていました。この行動は、発射行為の適法性を裏付ける重要な証拠となりました。
原告の対応
射撃の必要性
原告は当初、ヒグマの駆除が必要ないと判断しました。しかし、砂川市の要請を受けて駆除を決定しました。ヒグマの出没が続き、地域住民の安全確保が優先されたためです。
行為の正当性
原告の行為は公共の利益に基づくものであり、適切な手続きが取られていました。ヒグマとの距離やバックストップの存在からも、発射行為が適法であったことが確認されました。
裁判所の判断
判断のポイント
裁判所は、原告の行為が公共の利益に沿ったものであり、警察の対応や現場の状況から発射行為が適法であると認めました。特に、警察官が発射を黙認していた点が重要な判断材料となりました。
結論
裁判所は、北海道公安委員会の処分が裁量権を逸脱・濫用したものであり、違法であると判断しました。これにより、原告のライフル銃所持許可取消処分は取り消されました。
まとめ
本件は、銃刀法と鳥獣保護管理法に基づく行政処分の適法性を問うものであり、公共の利益や現場の状況を考慮した裁判所の判断が重要です。今後も同様の事例において、本件が参考になることは間違いありません。事件の詳細な経緯や法令の適用について興味のある方にとって、重要なポイントを理解する一助となれば幸いです。
なお、公安は控訴しており今も裁判は継続しています。
最後に
今回はライフル銃所持許可取消事件に係る裁量権の逸脱について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が行政法について学びたい方の参考になれば幸いです。
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