男女差別による定年規則の無効性

「定年」という言葉を聞くと、多くの人々は退職や新たな人生のスタートを思い浮かべるでしょう。しかし、男女で異なる定年年齢が設定されていたとしたらどうでしょうか?
この問題に対し、最高裁判所がどのような判断を下したのか、詳細に解説していきます。
【判例 最高裁判所第三小法廷 昭和56年3月24日


事件の背景

会社の就業規則

本件は、ある企業が就業規則で男性の定年を60歳、女性の定年を55歳と定めていたことに端を発します。原告はこの規則が性別による不合理な差別であり、無効であると主張しました。

紛争の発端

この企業では、男女が共に働いていましたが、女性のみが55歳で定年を迎えることとなっていました。これに対し、ある女性従業員が55歳での定年は不当であるとして、裁判を提起しました。


最高裁判所の判断

原判決の確認

原審では、企業の就業規則が男性60歳、女性55歳と定められていることに合理性があるか否かが問われました。原審は、以下の点を指摘しました:

  1. 職務の範囲
    女子従業員の職務は広範囲にわたるものであり、貢献度を上げる余地がある。
  2. 賃金の不均衡
    女子従業員の労働の質量が向上しないまま実質賃金が上昇するという不均衡はない。
  3. 職務遂行能力
    男女ともに60歳前後までは通常の職務において職務遂行能力に欠けることはない。
  4. 企業経営上の理由
    女子を差別する合理的な理由は認められない。

最高裁の判断

最高裁判所は原審の判断を支持し、以下の理由から企業の就業規則を無効としました。

  • 民法第90条
    性別のみによる不合理な差別は、民法第90条に基づき無効である。

    (公序良俗)
    第90条
    公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

    民法
    • 憲法第14条
      憲法第14条1項が保障する平等の原則に反する。

    第十四条

    1. すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
    日本国憲法第

    詳細な解説

    最高裁判所は、企業が男女別の定年年齢を設定することが企業経営上必要であるという主張を退けました。特に、以下の点が重視されました。

    • 個々の評価の欠如
      女子従業員全体を一律に貢献度が低いとみなす根拠はない。
    • 労働能力の均等
      60歳前後まで男女ともに職務遂行能力に問題はない。
    • 合理的理由の欠如
      女子を差別しなければならない合理的な理由は認められない。

    まとめ

    この判例は、男女間の不合理な差別が法的に許されないことを明確に示しています。企業は性別による定年の差を設けることが不合理であると判断される場合、就業規則の見直しを迫られるでしょう。この判決は、男女平等の重要性を再確認するものであり、今後の企業の就業規則に大きな影響を与えることが期待されます。

    最後に

    今回は男女差別による定年規則の無効性について解説しました。

    今回は以上で終わります。
    最後までご覧いただき、ありがとうございます。

    この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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