日本国際法務総合事務所事件:非弁行為と詐欺の実態

日本における法的手続きは複雑で、弁護士の助けが不可欠です。しかし、過去には弁護士を装った事件屋という稼業が横行していた時代がありました。
今回は、弁護士でない人物が法律事務を取り扱い、詐欺を行った事案について解説します。
【判例 大阪地方裁判所  第1刑事部 平成18年8月9日

事件の背景

事件の発端

本事件は、被告人が「日本国際法務総合事務所」の名称を用いて、在日中国人向けの新聞に130回にわたり法律事務を行う旨の広告を掲載したことから始まります。被告人は弁護士でもなく、弁護士を雇用したこともありませんでした。

登場人物と相関関係

  • 被告人
    日本国際法務総合事務所の代表者。
  • 被害者E
    交通事故の示談交渉を依頼した人物。
  • 被害者F
    Eの長女で交通事故の被害者。
  • 部下の担当者被告人の指示で被害者Eに嘘をついた。

紛争過程と裁判に至る経緯

  1. 弁護士法違反
    被告人は、2004年1月8日から2006年2月16日までの間、在日中国人向け週刊新聞「B」と「D」に「日本国際法務総合事務所」の名称で広告を掲載し、法律事務を行う旨を宣伝しました。この広告を見た被害者Eが示談交渉を依頼してきました。
  2. 詐欺
    2004年8月下旬、被害者Eが広告を見て長女Fの交通事故に関する示談交渉を依頼しました。被告人の部下が「弁護士がいるので示談できます」と嘘を言い、示談交渉の費用として18万円を詐取しました。
  3. 有印私文書偽造と行使
    被告人は、示談交渉のために弁護士名義の書面を偽造し、被害者Eに送付しました。これにより、Eは被告人が弁護士であると誤信しました。
  4. 弁護士法違反(周旋)
    2005年2月19日、被告人は刑事被告人Mに対し、弁護士Oを弁護人として紹介し、報酬を得ました。
  5. 公正証書原本不実記載と行使
    被告人は、在留資格を得るために偽装結婚を企て、虚偽の婚姻届を提出し、戸籍に不実の記載をさせました。この犯行により、2件の公正証書原本不実記載罪が成立しました。

裁判所の判断と量刑

裁判所は、被告人に対して以下の判決を下しました。

判決内容

  1. 懲役3年及び罰金100万円
    被告人は懲役3年及び罰金100万円の刑に処せられました。
  2. 罰金未納時の労役場留置
    罰金を完納できない場合、1日5000円に換算して労役場に留置されます。
  3. 執行猶予5年
    懲役刑については5年間の執行猶予が付されました。

判決理由

  • 弁護士法違反(広告掲載)
    130回にわたる広告掲載により、多くの在日中国人が被告人を弁護士と誤認し、法律事務を依頼しました。これは重大な結果を招いたとして、裁判所は厳しく非難しました。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

弁護士法

(非弁護士との提携等の罪)
第77条
次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
一 第27条第30条の21において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
二 第28条第30条の21において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
三 第72条の規定に違反した者四 第73条の規定に違反した者

弁護士法第77条 - Wikibooks

  • 詐欺
    被害者Eから18万円を詐取した行為は悪質であり、被害金の返還が遅れたことも問題視されました。
  • 有印私文書偽造
    弁護士名義の書面を偽造し、弁護士と誤認させたことは、文書の信用を損ない、厳しく処罰されるべき行為とされました。
  • 弁護士法違反(周旋)
    刑事被告人に対する弁護人の周旋は、弁護士制度への信頼を損ねるものであり、悪質と判断されました。
  • 公正証書原本不実記載
    偽装結婚により在留資格を不正に得ようとした行為は、戸籍の信用を害し、外国人管理制度を揺るがすものでした。

まとめ

本事件は、弁護士でない者が法律事務を取り扱い、詐欺を行った悪質な事例です。裁判所は、被告人の行為が多くの被害者を惑わせ、法秩序を乱すものであると厳しく判断しました。この判決は、法律事務を行う際には弁護士資格が必要であることを再確認させるものであり、法的手続きにおける信頼性を守るための重要な教訓となります。

最後に

今回は弁護士を装って法律事務を取り扱った事件屋の事例について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が非弁行為の事例について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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