禁治産者の無権代理行為と信義則|後見人の追認拒絶が許されるのはどんな場合か?
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はじめに
意思能力のない人の名義で契約が結ばれてしまったら、その契約はどうなるのでしょうか?
そして、その人の財産を守るはずの後見人が、あえてその契約を「無効」として追認を拒否した場合、それは法的に許されるのでしょうか?
今回は、禁治産者(現在の「被後見人」)の名義でなされた無権代理行為に関して、後見人が追認を拒絶することが「信義則」に反するかどうかが争点となった最高裁判例(平成6年9月13日)を解説します。
この判決は、成年後見制度や契約実務に関わる方にとって非常に重要な指針を示しています。
【判例 最高裁判所第三小法廷 平成6年9月13日】
事件の概要
本件は、知的障害により知能年齢が6歳程度であった禁治産者(上告人)の名義で、無権代理人である家族(長女)が賃貸借契約を締結したことに端を発します。
その後、後見人に選任された別の家族(次女)はこの契約の「追認」を拒絶。これに対して契約の相手方は、信義則に反するとして損害賠償を求めました。
争点は、後見人が無権代理行為を追認しないという判断が社会通念上の公平・信頼関係に反しているかどうか(=信義則違反)という点でした。
最高裁は、「ただ追認を拒絶すれば済む話ではなく、事情によっては拒絶自体が信義則に反することもある」として、具体的に検討すべき要素を示しました。
信義則に反するとはどういうことか?
信義則とは、法的義務がなくても、社会的に見て相手の信頼や期待を裏切ってはいけないという法理です。民法1条にその根拠があります。
(基本原則)
第1条2.権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
つまり、契約を守る・社会常識に従うといった行為規範を法律に取り入れたものです。
無権代理行為の場合、通常は本人または後見人の追認がなければ契約は無効です。、後見人による追認拒絶が形式的すぎたり、不誠実であったりすれば、信義則違反とみなされる可能性が出てきます。
無権代理行為の有効性を判断する5つの要素(最高裁の基準)
最高裁は、信義則違反の有無を判断するにあたり以下の要素を重視するべきとしました。
- 交渉経緯と契約内容の性質
無権代理人と相手方がどのような交渉をし、契約内容がどのようなものであったか。 - 追認による本人の不利益と、拒絶による相手方の不利益の比較
追認によって被後見人に不利益が生じる一方、拒絶によって相手方に深刻な損害がある場合は信義則違反となり得る。 - 契約履行に関する経緯
契約後、どのような履行交渉がなされ、相手方にどの程度の期待と行動があったか。 - 無権代理人と後見人との関係・後見人の事前関与の有無
家族関係などの人的関係や、後見人が契約に関与していたかどうか。 - 本人の意思能力に対する相手方の認識
相手方が意思能力の欠如を知っていた、または知るべき状況であったか。
これらを総合的に判断し、例外的に信義則違反と認定すべき場合に該当するかどうかを見極めるべきとされました。
判決が示した実務上のポイント
本判例から、実務上次のような教訓が導かれます。
後見人の判断にも信義則の制約がある
追認拒絶は一見正当な行為に見えても、相手方の信頼を著しく損ねる場合は違法と評価される可能性があります。
後見人就任前の行為にも一定の責任が及ぶことがある
契約成立時点では後見人でなくても、経緯を知りながら追認を拒絶した場合には、信義則上の義務を問われることがある点に注意が必要です。
契約内容と損害額の合理性も問われる
たとえば本件では、違約金4,000万円の契約条項がありました。しかし、被後見人側がその不動産を2,000万円で担保提供していた事実との比較により、金額の妥当性自体が問題視されました。
まとめ:後見人の対応と信義則のバランス
形式的には追認を拒絶できる立場であっても、その行為が社会的信頼を裏切るものであれば、「信義則違反」とされる可能性があります。
本件は、無権代理行為が後見人により追認されなかったとしても、相手方の信頼や取引の安全に配慮すべきであるという柔軟な判断枠組みを確立した重要な判例です。
成年後見制度の運用や、意思能力に疑義のある方との取引に関わるすべての実務家にとって、本件判例は非常に示唆に富むものといえるでしょう。
最後に
今回は禁治産者の無権代理行為と信義則の適用ついて解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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