人格権と検閲の禁止:北方ジャーナル事件
公的な批判と個人の名誉権のバランスは、現代社会における重要な法的課題です。
公務員や公職選挙の候補者に対する批判がどこまで許されるのか、そしてその批判が人格権や名誉を侵害する場合、どのように調整されるべきかについては多くの議論がなされています。今回は、憲法判例としても有名な北方ジャーナル事件について解説します。
【判例 最高裁判所大法廷 昭和61年6月11日】
目次
事件の背景
時系列順の説明
被上告人Bの背景
被上告人Bは昭和38年5月から昭和49年9月まで旭川市長の地位にありました。その後、昭和50年4月の北海道知事選挙に立候補しました。昭和54年4月に予定されていた同選挙にも立候補する予定でした。
上告人の行動
上告人は、昭和54年2月発売予定の月刊雑誌に「ある権力主義者の誘惑」と題する記事を掲載しようとしました。この記事は、Bが北海道知事として不適格であることを論じ、その中で非常に下品で侮辱的な表現を用いてBの人格を攻撃しました。
裁判所への申請
仮処分申請
被上告人Bの代理人は、昭和54年2月16日に裁判所に対して、月刊雑誌の印刷、製本および販売の差し止めを求める仮処分申請を行いました。
裁判所の決定
裁判所は同日、この仮処分申請を認め、印刷、製本、販売の差し止めを命じました。
判決の詳細と背景
判決の核心部分
検閲の禁止に該当するか
憲法21条2項前段は、行政権が主体となって行う網羅的かつ一般的な表現物の発表前の内容審査を「検閲」と定義し、これを絶対的に禁止しています。本件のような個別的な私人間の紛争について司法裁判所が行う差し止めは「検閲」に当たらないと判断されました。
【集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密】
第21条日本国憲法
- 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
- 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
名誉権と表現の自由の調整
名誉権は人格権の一部として保護され、現行の侵害行為を排除し、または将来の侵害を予防するために差し止めを求めることができるとされています。ただし、公共の利害に関する事項についての表現行為に対する差し止めは、その表現内容が真実でないか、公益を図る目的でないことが明白であり、かつ重大な損害を被る虞がある場合に限り、例外的に認められるとされました。
具体的判断
本件記事は、Bに対する下品で侮辱的な言辞による人身攻撃を含むものであり、その内容が真実性に欠けるものであることが明白であったため、差し止めが適切とされました。
判決の意義
今回の判決は、公的な批判と個人の名誉権のバランスを取るための重要な判断を示しています。具体的には、以下の点が強調されました。
- 検閲と司法差し止めの区別
司法裁判所が行う個別的な差し止めは検閲に当たらないこと。 - 公共の利害に関する表現の保護
公共の利害に関する表現行為は、原則として差し止めが許されないこと。 - 例外的な差し止めの要件
表現内容が明白に真実でなく、公益を図る目的でない場合に限り、差し止めが許されること。
まとめ
本件は、公的な批判と名誉権のバランスを取る上で、非常に重要な基準を示しました。特に、公共の利害に関する表現行為の保護の重要性が強調される一方で、明白に真実でない情報や公益目的でない表現に対する例外的な差し止めの必要性も認められました。この判決を通じて、公的な批判と名誉権の調整についての理解が深まり、今後の法的判断に大きな影響を与えることが期待されます。
最後に
今回は人格権と検閲の禁止ついて解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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