権利能力なき社団の取引債務と構成員の責任
現代社会では、様々な団体が活動していますが、その中には法律上の権利能力を持たない社団も存在します。
これらの社団が取引を行う際、果たしてその債務は誰に帰属するのでしょうか?今回は、判例を基にこの問題について詳しく解説します。
【判例 最高裁判所第三小法廷 昭和48年10月9日】
目次
事件の背景
登場人物と相関関係
- D栄養食品協会
権利能力なき社団。栄養食品の販売・供給を行う団体。 - E
協会の代表者。取引の主体として協会名義で行動。 - 上告人
協会と取引を行った者。債権の支払いを求める。 - 被上告人
協会の構成員。上告人から個別に責任を追及された。
事件の概要
本件は、権利能力なき社団である「D栄養食品協会」(以下、協会)が関与した取引に関する債務が争点となった事件です。協会の代表者Eが協会の名において上告人と取引を行い、その取引上の債務について、協会の構成員である被上告人らに責任があるかどうかが問われました。
紛争の経緯
協会が上告人と取引を行った後、債務の履行が問題となりました。上告人は、協会の構成員である被上告人らに対して、個別に債務の支払いを求めましたが、被上告人らはこれを拒否しました。上告人は訴訟を提起し、事件は最高裁判所まで持ち込まれました。
裁判所の判断
権利能力なき社団の取引上の債務の帰属
最高裁判所は、本件について次のように判断しました。権利能力なき社団の代表者が社団の名において行った取引上の債務は、その社団の構成員全員に一個の義務として総有的に帰属するとしています。この判断は、以下の点を意味します。
総有的帰属
総有とは、権利が特定の者に個別に帰属するのではなく、社団の構成員全体に対して一体として帰属することを指します。つまり、権利能力なき社団が負った債務は、社団の全構成員が共同で負う義務と見なされますが、個別の構成員が個別に負う義務とはされません。
個別の責任の否定
社団の構成員は、取引相手に対して個別に責任を負わないという点が重要です。これは、取引債務が社団全体に対してのみ存在し、構成員各自が個人的な債務を負うことはないという意味です。このため、取引相手は社団全体に対してのみ請求を行うことができ、個々の構成員に対して直接請求することはできません。
(分割債権及び分割債務)
民法
第427条
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。
責任財産の範囲
次に、責任財産についての裁判所の判断です。最高裁判所は、社団の代表者が行った取引上の債務について、その責任財産は社団の総有財産に限られるとしています。
社団の総有財産
社団の総有財産とは、社団全体として所有する財産を指します。この財産が、取引上の債務の履行に充てられることになります。具体的には、社団の名義で所有している資産や、社団としての活動により得られた収益などがこれに該当します。
構成員個別の財産の保護
構成員個々の個人的な財産は、社団の債務の履行には充てられません。これは、社団の構成員が個人的に債務を負わないという判断と一致しています。したがって、構成員は、社団の取引に関与することで個人的な財産が取引債務の対象となるリスクを負わないことになります。
まとめ
本件判例は、権利能力なき社団が取引を行う際の債務の帰属について重要な判断を示しています。具体的には、社団の代表者が行った取引上の債務は社団の総有財産に帰属し、構成員個々人はその債務について責任を負わないというものです。この判決は、権利能力なき社団の法的地位や取引における責任範囲についての理解を深めるための重要な指針となるでしょう。
最後に
今回は権利能力なき社団の取引債務と構成員の責任について解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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