商標権侵害とその裁判過程:知的財産高等裁判所の判例から学ぶ企業のリスク管理
商標権侵害は多くの企業にとって重大な影響を及ぼすことをご存知でしょうか?
今回は、知的財産高等裁判所で争われた注目の判例について詳しく解説します。このケースは、単なる商標権侵害の問題を超え、企業のブランド戦略や法的リスク管理に関する重要な教訓を示しています。
【判例 知的財産高等裁判所 平成31年1月29日】
目次
事件の背景
この事件は、A社(以下、控訴人)が、B社(以下、被控訴人会社)およびその代表者Y氏(以下、被控訴人Y)に対して商標権侵害を理由に訴訟を提起したことから始まります。控訴人は、自社が所有する商標が被控訴人によって無断で使用されていると主張し、損害賠償および販売差止めを求めました。
この事件の発端は、控訴人が所有する商標「KCP」が、被控訴人会社が販売するコンクリートポンプ車や関連商品に無断で使用されていたというものでした。控訴人は、これにより多大な損害を被ったとして、商標法および民法に基づく損害賠償を求めました。
(差止請求権)
第三十六条 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
商標法
(不法行為による損害賠償)
民法
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
事件の経緯と詳細
控訴人の主張と原審の判決
控訴人は、被控訴人が無断で「KCP」商標を使用しているとして、商標権侵害に基づく損害賠償を請求しました。原審では、控訴人の請求は棄却されました。控訴人はこれに不服を唱え、控訴しました。
知的財産高等裁判所での審理
知的財産高等裁判所では、原審の判決を再検討し、被控訴人の行為が商標法第36条に基づく商標権侵害に該当するかどうかを判断しました。裁判所は、被控訴人が「KCP」という商標を製品の型番や販売促進に使用していたことを確認しました。
控訴人は、商標登録無効審判も併せて申し立て、特許庁は控訴人の商標登録を無効とする決定をしました。この点についても裁判所は検討しましたが、被控訴人の行為が商標権侵害に当たるかどうかの判断には直接的な影響を与えないとしました。
法的根拠
本件での法的根拠としては、商標法第36条および民法第709条(不法行為に基づく損害賠償請求)が挙げられます。商標法第36条では、商標権者はその商標が不正に使用された場合、侵害行為の差止めや損害賠償を請求する権利を有しています。
裁判所の判断
裁判所は、以下の点に基づいて判決を下しました。
- 被控訴人が「KCP」商標を使用していたことは事実である。しかし、その使用が商標権侵害に該当するかどうかについては、商標の周知性や使用の態様が重要な判断基準となる。
- 被控訴人が使用していた「KCP」商標は、控訴人の商標と混同を生じさせるほどの類似性はないと判断した。
- 控訴人が主張する損害額については、具体的な証拠が不足している。損害賠償請求は認められない。
以上の理由から、裁判所は控訴人の請求を棄却しました。
まとめ
本件判例は、商標権侵害の判断において、単なる商標の類似性だけでなく、その使用の態様や商標の周知性が重要な要素となることを示しています。また、損害賠償請求には、具体的な損害の証明が必要な事が明らかになりました。
この判例を通じて、企業は自社の商標権を守るためにどのような対策が必要か、また他社の商標を使用する際にはどのようなリスクが伴うかを理解することができます。商標権の侵害が疑われる場合には、早期に専門家に相談し、適切な法的措置を講じることが重要です。
最後に
今回は商標権侵害に関する判例について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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