美術の境界線:公園遊具に潜む著作権問題

公園に設置された遊具が、予想外の法的紛争になった事件があります。
著作権法の適用範囲が、美術作品と実用品の境界線をどのように描くかについて、最近の判例が新たな議論を呼んでいます。
今日は、著作権侵害の疑いで裁判になった公園遊具を巡る事件について解説します。
【判例 知的財産高等裁判所 令和3年12月8日

事件の背景

訴訟の発端

訴訟は、M商事が製作し、その後M社が著作権を取得した特定の滑り台デザインが、他社によって無断で模倣されたという問題から発生しました。M社は、自社の製品デザインが独自の創造的表現を含んでおり、法的に保護されるべきだと主張しています。それに対し、A社は同様のデザインで滑り台を製造していることが問題とされています。

事件の当事者

  • M社
    M商事から著作権を譲り受けた後、自社製品のデザインが保護されるべきだと主張しています。M社は、元々M商事が製作した遊具のデザインやアイディアを利用しており、特に「タコの形を模した滑り台」の著作権を主張しています。
  • A社
    M社が著作権を主張する滑り台と類似のデザインを製造・販売しているとされ、その行為が著作権侵害にあたるとして訴えられました。A社は、類似の滑り台を東京都内の公園に設置しています。

製品の特徴

  • 本件原告(M社)滑り台
    この滑り台はタコの形を模しており、子供たちに親しまれています。滑り台は全体的にタコの頭部と足を模してデザインされており、足の部分が滑り面となっています。
  • 本件各被告(A社)滑り台
    これらの滑り台もタコの形を模しており、前田環境美術株式会社が主張するオリジナルのデザインと類似しているため、著作権侵害の訴えが起こされました。

この訴訟は、公共の場に設置される遊具のデザインがどのように知的財産として保護されるべきか、という点で重要な意味を持っています。また、著作権の適用範囲とその限界についても法的な議論の場となっています。

法的議論の焦点

本件の争点は、滑り台が「美術の著作物」に該当するかどうかでした。著作権法第2条1項1号によれば、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています。そして、応用美術として、実用品であっても美術の範疇に属すると判断されれば、著作権の保護を受けることができます。

(定義)
第2条

  1. この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
    1. 著作物思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
著作権

しかし、原審では、本件原告滑り台が「美術工芸品」に該当せず、美的鑑賞の対象となり得る創作的表現を備えている部分が実用目的のために必要な構成と分離して把握できるものとは認められなかったため、著作権侵害とは見なされませんでした。

裁判所の判断

「美術工芸品」の評価

まず、「美術工芸品」とは、美術的価値と実用性を兼ね備えた作品を指します。著作権法では、これらの作品も美術の著作物として保護することが可能です。しかし、裁判所は本件の滑り台がこのカテゴリーに該当するかを検討しましたが、「美術工芸品」には該当しないと判断しました。理由は、滑り台が持つ美術的要素がその機能的要素と不可分であり、それ自体が独立した美術的価値として把握されるには不十分だったからです。

応用美術の範囲とその適用の困難性

応用美術としての保護を受けるためには、作品が実用的機能を持つ一方で、それとは独立した美的特性や創作的表現を持つ必要があります。裁判所は、本件滑り台のデザインが具体的にどの部分が実用的機能を超えた創造的な表現を含んでいるのかを明確にすることができなかったと指摘しました。つまり、滑り台全体のデザインと機能が密接に結びついており、その中から美的鑑賞の対象となる部分を独立させることが困難だと判断されたのです。

裁判所の結論

これらの点を踏まえ、知的財産高等裁判所は原審の判断を支持し、控訴人(前田環境美術株式会社)の主位的請求および予備的請求を棄却しました。控訴人が提起した著作権侵害の主張が認められるためには、滑り台のデザインが具体的にどのようにして美術の著作物として独立した価値を有するかを証明する必要がありましたが、それが不明確であると結論付けられたため、著作権侵害とは認められなかったのです。

この裁判所の判断は、今後の類似の著作権訴訟における判断基準や、実用品と美術作品の間の法的な境界を設定する上での参考になると考えられます。

結論

この判例は、美術の著作物の範囲をどのように考えるべきか、特に実用品が関わる場合の解釈に新たな洞察を提供しています。美術作品としての保護が認められるためには、その創作性や独自性が明確でなければならず、単に目新しいデザインだけでは不十分ということを改めて確認する結果となりました。この裁判例は、デザインと著作権の交差点における法的な議論に一石を投じるものであり、今後の類似事件において重要な参考となるでしょう。

最後に

今回は公園の遊具に関する著作権侵害問題について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が著作権について学びたい方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームからいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

併せて読みたい記事

音楽教室での著作権侵害問題:最高裁判決が示す著作物の利用主体と指導者の役割

日本の音楽業界を揺るがす大きな判決が、令和4年10月24日に下されました。これは音楽教室での著作物使用に関するものです。この判例は、音楽教室が運営するレッスンで使用…

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です