詐害行為取消による支払債務がいつ遅滞に陥るのか?

詐害行為取消は、債権問題を考える上で重要なトピックです。
今回は、最高裁判決に基づき、詐害行為による受益者の取消債権者に対する受領金支払債務がいつ遅滞に陥るのかについて解説します。
【判例  最高裁判所第二小法廷 平成30年12月14日

事件の背景と相関関係

被上告人はAに対して約37億6,000万円の損害賠償債権を持っていました。Aはこの債権に対する支払い義務がありながらも、自己の財産を処分する形で上告人Y1およびY2との契約を締結していました。

具体的には、AはY1と1億6,250万円で株式を購入する契約を締結しました。これは、AがY1から株式を購入し、代金を支払うというものです。被上告人はこの契約が、Aが自らの財産を減少させることで債権者からの回収を困難にする行為であるとし、詐害行為に該当すると主張しました。

また、Aは上告人Y2に対して1億2,000万円の贈与をする契約を締結していました。これは、AがY2に対して金銭を無償で渡すものです。この行為も、被上告人は詐害行為に該当するものと見なし、Y2に対しても訴訟を提起しました。

被上告人はこれらの契約が、Aが債権者である被上告人からの回収を妨害するために行われた詐害行為であるとして、民法上の詐害行為取消権に基づき、両契約の取消しと、それに伴うY1とY2が受領した金額相当の返還を求めました。具体的には、Y1に対しては株式購入契約の取消しおよび1億6,250万円の返還、Y2に対しては贈与契約の取消しおよび1億2,000万円の返還を求めたのです。

争点と裁判所の判断

本件における主要な争点は、「詐害行為取消判決が確定する前に、受益者が債権者に対して支払うべき金額について履行遅滞が生じるかどうか」という点でした。

詐害行為取消の効果について、最高裁はまず、「詐害行為取消判決が確定することにより効果が生じるが、その効果は過去に遡って生じる」と解釈しました。これは詐害行為取消の制度趣旨に基づくものであり、この制度の目的は、詐害行為によって逸出した財産を取り戻し、債務者の一般財産を保全することにあります。この趣旨から、詐害行為によって受益者が取得した金額の返還義務は、その金額を受け取った時点まで遡って生じると解釈されました。

詐害行為取消の権利発動と履行遅滞発生にはタイムラグがある

したがって、詐害行為取消による受益者の支払債務は、詐害行為取消判決の確定により、その確定前の受領時に遡って生じるものの、詐害行為取消判決が確定する前に履行遅滞に陥ることはありません。履行遅滞とは、債務者が債務を履行しなければならない状況でありながら、正当な理由なく履行しないことを意味します。この事案では、詐害行為取消判決が確定していない状態では、受益者はまだ支払債務を履行する義務が確定していないため、履行遅滞とはなりません。

本件においては、被上告人が上告人らに対し訴状で詐害行為の取消しと支払を請求しているため、受領金支払債務の遅延損害金の起算日は、訴状送達の日の翌日と判断されました。これは、訴状を受け取ったことで、上告人が支払うべき金額が明確に通知され、履行の請求が正式に行われたとみなされるからです。

まとめ

詐害行為取消判決の確定により、受益者はその時点で過去に遡って支払義務が発生するものの、その判決が確定する前には義務が法的に確定していないため、履行遅滞とはなりません。
しかし、訴状が送達されることで受益者は返還請求が正式に行われたことを認識し、その請求に基づいて支払うべき金額が明確になり、履行を求められたとみなされます。そのため、履行遅滞は訴状送達の翌日から始まるとされます。

最後に

今回は詐害行為取消による支払債務がいつ遅滞に陥るのかについて解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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