不正受給の顛末と判例:生活保護法78条の解釈と適用
生活保護は、社会のセーフティーネットとして、多くの人々の最低限度の生活を保障する重要な制度です。しかし、その悪用や不正受給は、制度の信頼を揺るがす重大な問題です。今回取り上げる判例では、長男の収入を適切に届け出ず、不正に生活保護を受けた事案に対する裁判所の判断が示されています。この判決は、不正受給の問題に対してどのように費用の徴収が行われるべきかを示す重要な指針となっています。
【判例 最高裁判所第三小法廷 平成30年12月18日】
事件の背景
事件は、被上告人が長男とともに生活していた世帯で発生しました。平成17年10月26日、市福祉事務所長は生活保護法に基づき、被上告人の世帯に対する保護の開始を決定しました。
(申請保護の原則)
第七条 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。
生活保護法
長男は平成21年6月から就労し、平成22年8月までに合計233万9835円の勤労収入を得ました。しかし、被上告人はこの事実を知りながら、福祉事務所に適切な届け出をしませんでした。そのため、福祉事務所が調査で収入の事実を発見するまで、生活扶助、住宅扶助、一時扶助などが適切な減額なしに支給され続け、総額242万1640円もの保護費が支給されていたのです。
平成24年2月7日、門真市福祉事務所長は、この事実を踏まえて、被上告人に対して生活保護法78条に基づく費用徴収額決定を行い、徴収額を235万9765円としました。この金額には、勤労収入の全額が含まれていました。
第七十八条 不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
生活保護法
裁判所の判断
この事件の争点は、勤労収入に対応する基礎控除額38万4080円を控除しないことが違法かどうかでした。基礎控除は、昭和36年の厚生事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について」の第8-3-(4)に基づき、生活保護受給者の収入から勤労による収入を得る者の数や居住地などに応じて一定の額を控除する取り扱いが規定されています。
原審では、勤労収入が適正に届け出られていなかった場合でも基礎控除額を控除するべきであると判断され、徴収額決定の一部が取り消されました。
しかし、最高裁判所は、勤労収入の一部を控除する運用上の取り扱いである基礎控除は、適正な届出があって初めて適用されるものであり、不正に保護を受けた場合には適用されないと判断しました。したがって、被上告人の長男の収入について正しい届け出がなく不正受給があった以上、基礎控除額を控除しないことは違法でないと結論づけました。
結論
この判決は、不正受給の問題に対する生活保護法78条の解釈と適用について重要な示唆を与えています。最低限度の生活を維持するための収入は正確に届け出るべきであり、その義務を怠った場合、制度の趣旨に照らして相応のペナルティが科されることが示されています。
最後に
今回は不正受給に対する基礎控除の扱いについて解説しました。
今回は以上で終わります。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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