改正民法:越境した枝等の伐採規定の解説!

令和3年に民法改正がされ、越境した枝等の伐採についての規定が具体化されました。
それまでの規定は、いくら読んでも「?」としかならない曖昧な規定だったからです。
今回は、改正民法の越境した枝等の伐採の規定について、旧法の問題点と照らし合わせて解説します。

越境した竹木の理論

背景と目的

旧民法233条は、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」と規定していました。この規定によって、隣地の竹木が越境した場合の所有権や管理に関する問題が明確化されていました。しかし、この規定の適用範囲や実務上の課題が指摘されており、より円滑な隣地管理を目指して新たな規律の創設が提案されました。

問題点と提案

  1. 枝と根の規律の違い: 旧民法233条では、枝と根に対する規律が異なっていました。枝は隣地から伐採することが可能であり、価値が高いとされる一方で、根は自己の土地に立ち入らせる必要がある上、価値が低いと見なされていました。この差異により、枝と根の管理に関する実務上の課題が生じていました。
  2. 規定の位置づけの不明確性: 旧民法233条1項の規定の位置づけについて、明確な指摘がなされていました。越境された土地の所有者が、土地所有権に基づいて枝の切除を請求することが可能であるため、規定の適用範囲に関する不明確性が指摘されました。
  3. 新たな規律の提案: これらの問題を解決するために、越境された土地の所有者が自ら切り取ることを認める新たな規律の創設が提案されました。これにより、隣地管理の円滑化が図られることが期待されます。

枝の切除

竹木の所有権

竹木や庭木などは、個人の所有地に生えている場合、その土地の所有者が所有権を有します(民法87条1項)。つまり、竹木や庭木は土地の従物と見なされ、土地の所有者の所有物となります。賃貸借契約において賃借人が植栽した場合には、竹木の所有権は植栽者に留保されることがあります(民法242条但書)。

庭付き一戸建て物件の賃貸借契約においては、庭や植栽なども建物と一体として賃貸借の対象となります。そのため、賃貸人は庭木や植栽についても信義則上の善管注意義務を負います。賃貸人は庭木の状態変化に注意し、必要に応じて賃貸人に通知して対応する機会を与える義務があります(東京簡易裁判所 平成21年5月8日判決)。

考察

竹木や庭木の所有権は土地の所有者に帰属しますが、賃貸借契約の場合には一定の留保があります。賃貸人は庭木や植栽についても注意を払い、状態変化に対処する義務があります。これにより、土地の所有者と賃貸人の間での信頼関係が築かれ、竹木や庭木の管理が円滑に行われることが期待されます。

土地所有者自らが越境した竹木を切り取る場合

旧民法233条では、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」と規定されていました。旧民法の下では、竹木の所有者が切除に応じない場合、土地の所有者は訴訟を提起し、枝の切除を命じる判決を得て、竹木所有者に費用負担で第三者に竹木を切除させる方法をとっていました(民法414条2項本文、民執法171条1項1号・4項)。しかし、この手続きは時間と労力がかかる上に、竹木の枝が再び伸びるため、竹木の枝が越境するたびに訴訟を起こす必要がありました。また、隣地所有者が行方不明である場合、竹木の枝を切除することが困難でした。

そこで、令和3年に行われた民法改正により、次のような場合に土地所有者が自ら竹木の枝を切り取ることができるようになりました。

  1. 竹木の所有者に対して枝を切除するよう催告したにもかかわらず、相当の期間内に切除が行われない場合。
  2. 竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない場合。
  3. 急迫の事情がある場合。

これにより、土地所有者はより迅速に竹木の枝を切り取ることができるようになり、管理上の問題を解決することができます。

土地所有者が自ら枝を伐採できる要件

催告後相当の期間内に切除しないこと

「相当の期間」とは、枝を切除するために必要な時間的猶予を与える趣旨であり、通常は2週間程度と考えられます。

竹木の所有者不明・所在不明

竹木の所有者が不明である場合、隣地自体の所有者が不明である可能性も考えられるため、所有者不明土地の問題に対応する規定と見なされます。枝の切除権が認められる場合、隣地使用権と組み合わせることで切除権を行使しやすくし、実用性を高めることができます。

急迫の事情

「急迫の事情」とは、通常の裁判手続きに必要な時間がないような状況を指します。具体的な例としては、「地震により破損した建物の修繕工事のために、隣地から越境した枝を切り取る必要がある場合」が挙げられます。急迫の事情がある場合、事前の通知や事後の通知は条文上必要とされていません。

竹木が共有の場合の処理

旧民法の解釈では、竹木が共有されている場合、土地所有者は竹木共有者を探索し、枝の切除請求訴訟を提起し、請求認容判決を得てから強制執行を申し立てなければなりませんでした。しかし、この手続きは時間と労力を費やすものであり、土地の利用を阻害する要因となっていました。法改正により、竹木が数人の共有に属する場合、各共有者は自らその枝を切り取ることができるようになりました(民法233条2項)。

民法233条3項の法的効果

民法233条3項の効果は、竹木の所有者に対して枝の切除を命ずる判決を取得しなくても、越境した枝により土地の利用が妨げられている土地所有者が自ら枝を切除できることです。この規定により、竹木の枝の切除が従来よりもはるかに円滑に実現できるようになります。竹木の所有者が枝の切除に応じない場合や、竹木の枝が再び伸びる可能性がある場合でも、土地所有者は自ら切除できるため、手続きが簡略化されます。

土地所有者が枝を切り取ることのできる範囲

土地所有者が枝を切り取る範囲については、基本的には必要最低限度に留めるべきであり、枝の越境があった場合でも損害が発生したとき、または損害が発生する可能性が高い時に切除を認めるべきだとされています。

切除費用の負担者

切除費用の負担者については明文の規定はないものの、慣習に従う事や不法行為に基づく損害賠償請求などが考えられます。

切り取った枝・ 落下した果実の処分

切除した枝についての所有権は、竹木の所有者の所有物であると考えられます。そのため、切除後の枝について竹木の所有者以外の者は処分することはできません。ただし、切除者が処分を行う場合、害虫などが発生し他人の権利または法益を侵害するおそれがある場合、または侵害が発生した場合は、竹木の所有者に対して損害賠償を求めることができます。また、処分に要した費用については、竹木の所有者に対して費用の償還請求権を行使することができます。

所有者不明の竹木については、切除者に処分権限を与えることが検討されますが、事後の通知が必要であると考えられます。

落下した果実や落ち葉についても、同様の処理が適用されると思われます。所有者不明の竹木やその果実に対しては、土地所有者に処分権限を付与することが考えられます。

根の切除 (民法233条4項)

隣地の竹木の根が越境した場合は、土地所有者が自ら切り取ることができます。
切除後の根は土地所有者に帰属し、処分することが可能です。このため、隣地から生えてきたタケノコは土地所有者が摂って食べても問題ありません。

最後に

今回は越境した枝等の伐採の規定について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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