民法234条を排除しうる慣習はありうるか?

境界からの建物の最低限の距離は法律で定められています。
では、この距離制限内に建物を建築する事が地域の慣習として認められている場合はどうなるのでしょうか?
今回は民法234条を排除しうる慣習の有無について解説します。

事例

Aは自己の土地に建物を建築したいと考えている。
しかし、建物の設計及び土地の形状上、建物の一部が隣地であるBの土地との境界から50㎝以内に侵入してしまうことが判明した。
なお、当該地域一体は建物が密集している地域であり、境界からの距離が50㎝以内に建築されている建物が周囲に多く存在する。
Aは、この事実を基に、当該地域では境界からの建物の距離が50㎝以内になることが慣習として認められていると主張し、当初の予定通りに建物の建築を実施したいと考えている。
Aの主張は認めれるだろうか?

なお、A及びBの土地は防火地域又は準防火地域内ではない。

回答:認められる余地はある

今回は非常にデリケートな問題なので、認められるとは断言はできません。しかし、認められる可能性もまた否定できません。

まず、法律上の境界からの建物の距離制限は以下の通りです。

(境界線付近の建築の制限)
第234条

  1. 建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。
民法

このため、Aが境界から50㎝以内に建物を建築することは民法234条1項に違反します。
また、建設基準法では以下のような規定があります。

(隣地境界線に接する外壁)

第六十三条 防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。

建築基準法

しかし、今回の事例ではA及びBの土地は防火地域又は準防火地域外であるため、この条文の適用を受けることはできません。
このため、純粋に民法234条1項の規定によるべき案件となります。

民法234条を排除しうる「異なる慣習」の有無

通常であれば、法令に違反する状態は許されるものではありません。
しかし、裁判上は法令とは別に「異なる慣習」の有無が一つの判断材料となることがあります。
「慣習」とは、社会の中で長い間にわたって行われてきた習慣や風習のことを指します。特定の地域だけで通用する文化のようなものですね。
これは法律ではありませんが、時として法律に準ずる扱いがされることがあります。

(境界線付近の建築に関する慣習)
第236条
前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

民法


実際に、過去に民法234条違反の建物を巡り、異なる慣習の有無が論点となった判例があります。

被控訴人は,本件地域においては,隣接する建物の間隔が必ずしも50センチメートルの距離を置かずに建築しても良いという慣習が存在すると主張し,乙5号証の1,2及び当審証人Aの証言によれば,本件地域の近隣には50センチメートルの間隔を置かずに接近して建てられた建物が多数存在することが認められるが,同証拠のみでは同地域に民法234条の適用を排斥するだけの慣習が存在しているとまでは未だ認めることはできない。

平成14年1月29日  福岡高等裁判所 裁判所の判断より抜粋

このように、Aが一方的に「当該地域では古来からこのやり方でやっているのだ」と主張したところで、明確な証拠が無ければ認められません。しかし、同証拠のみでは(…)慣習が存在しているとまでは未だ認めることはできないという一文がある通り、明確な証拠を準備することができれば当該主張が認められる余地も残されています。

ただし、慣習というものは通常は明文化されていないものです。また、どのような資料が明確な証拠となりうるのかについては未だに明らかになっていません。
結論として、異なる慣習の存在によって争うことなく、現行法に従って行動することがベターでしょう。

まとめ

法的には、境界から50㎝以内に建物を建築することは民法234条1項に違反します。ただし、過去の判例から異なる慣習の有無が判断材料となることもあります。しかし、慣習は明確に証明される必要があります。通常、民法234条を排除しうる慣習の立証は困難です。現行法に従って行動することがベターであると言えます。

最後に

今回は民法234条を排除しうる慣習の是非について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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