最弱にして最強の物権:留置権の3要件とは?

以前執筆した記事「最強の物権は所有権ではない?物権界のダークホース:留置権」が意外にも大好評だったため、今回はその続編です。
今回は留置権の発動要件にフォーカスして解説します。

なお、前回の記事とは完全に独立した内容なので、どちらから先に読んでも問題ありません。

留置権発生の3要件とは

留置権とは、相手方の所有物を占有し続ける権利です。これは法定物権であるため、特に契約に明記が無くとも条件を満たせば当然に行使することができます。

留置権が発生する大前提として、以下の3つの要件があります。

  1. 占有
  2. 対象物に関する債権との牽連性
  3. 弁済期の到来

これだけを見ても意味が分からないと思いますので、以下に詳細に解説していきます。

占有

占有とは、留置権を行使しようとする者が現に対象物を支配している状態にあることを指します。
もちろん、所有権を確保する必要はありません。ただ単に保有していればいいのです。
たとえば、時計の修理業者が客から修理を依頼された時計を留置する場合、単純に修理業者の手元に対象物の時計が保管されていれば問題ありません。
逆に言えば、修理業者が自らの意思で一時的であっても客に時計を返した瞬間に占有は消滅します。この場合には留置権は発動されません。また、仮に既に留置権を発動することに成功していたとしても、占有を手放した時点で留置権は消滅します。
すなわち、占有の継続は留置権の発動条件であると同時に継続要件です。

対象物に関する債権との牽連性

いきなり「牽連性(けんれんせい)」という難解な単語が出てきてしまいました。
しかし、これは全く難しい意味ではありません。
これは意味合いとしては「関連性」とほぼ同じ意味です。法律用語特有の難しい言い回しに過ぎないと思っていただいて構いません。
先の事例で言えば、時計の修理代金債権と時計自体に明確に牽連性があります。時計の修理をした⇒時計を留置するという方程式が成り立ちます。
もし、これが「時計の修理代金債権に基づいて客の車や宝石を留置する」ということであれば、それは一切関係が無いことであることが明確でしょう。

弁済期の到来

これは債権の弁済期が既に到来していることを示しています。
つまり、先の事例であれば、時計の修理代金がX日である場合、X日に弁済を受けていなければそれ以降は留置権を発動できます。X-1日までは発動不可です。
これは、留置権の目的が本来の債務の弁済を強要するためのものであるため当然の帰結でしょう。
このため、抵当権のように将来債権をカタにして留置権を発動することはできません。

3要件の難所:牽連性について

占有と弁済期の到来については比較的イメージが付きやすいかと思います。これ以上の解説は特に不要でしょう。
しかし、牽連性については判断が難しい部分がありますので、更に深堀りします。

事例1:二重譲渡の場合

たとえば、AがBに建物を売却し引き渡したとします。しかし、Aは同時にCとも売却契約を結び、Cに登記を設定しました。いずれも代金支払い期日を経過しているものとします。
非常にオーソドックスな二重譲渡のケースです。
残念ながら、法律上、不動産の対抗要件である登記を先に備えたCに所有権は移転します。完全にBの負けです。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

民法

おそらく、この記事の読者であれば親の顔よりも見慣れた条文でしょう。

この場合、BはAに対して契約違反を理由とする損害賠償請求債権を保有することになります。
さて、Bはこの損害賠償債権を理由としてCに建物の留置をすることはできるのでしょうか?

そうですね。できません。
なぜなら、ABの売買契約はACの売買契約と何ら関係が無いからです。
よって、AB間で付けなければならないケジメをCに強要することはできません。

哀れなことにBはCに建物を明け渡すしかありません。
このように、留置権は損害賠償債権に基づく理由では要件不備により認められません。

なお、完全に余談となりますが、非常に酷似したケースである「譲渡担保の清算金支払債権と目的物の引渡し」には牽連性が認められています。混合しないようにしましょう。

不動産の二重売買において、第二の買主のため所有権移転登記がされた場合、第一の買主は、第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し、売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて、留置権を主張することは許されない。

大阪高裁 昭和43年11月21日

事例2:買主が更に第三者に転売した場合

では、次の事例を考察してみましょう

AはBに建物を売却したが引き渡しはしていない。また、BはAに支払期日を経過しても売買代金を支払っていない。
この状態で、BはCに当該建物を売却した。

整理すると、A⇒B⇒Cの順番で建物が売却されたことになります。
この状態で、CがAに対して自己に建物の引き渡しを請求した場合、Aは留置権をもって対抗することはできるでしょうか?

そうですね。これはできます。
なぜなら、A⇒B⇒Cと債権が一直線に並んでいるので、全ての債権に牽連性があります。

このため、AはBから売買代金を受領するまでは建物を留置することができます。

甲所有の物を買受けた乙が、売買代金を支払わないままこれを丙に譲渡した場合には、甲は、丙からの物の引渡請求に対して、未払代金債権を被担保債権とする留置権の抗弁権を主張することができる。

仙台高裁  昭和47年11月16日

まとめ

このように、留置権は条文知識だけではなく判例も併せて確認しなければ真に理解はできません。
とはいえ、留置権に関する判例はそこまで多くはありません。根気よく1件ずつ学習していけば、必ず理解できます。
今回は、損害賠償債権で留置権は発動できないとだけ覚えて頂ければ幸いです。

最後に

今回は留置権の3要件について解説しました。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が民法について学びたい方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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