行政書士の果たさなければならない義務│法的義務解説 その1

行政書士には、果たさなければならない職務上の法的義務が存在します。
これらの義務を果たさなかった場合、懲戒を受ける可能性もあります。
今回は、行政書士の義務について解説します。
なお、法的義務は非常に広範な内容となります。そのため、今回を第1回とし、全2~3回に分けて解説していきます。今回は第1弾です。

事務所を設置する義務│行政書士事務所の法的意義

事務所の設置に関しては、法令上、以下のように定められています。

(事務所)

第八条 行政書士(行政書士の使用人である行政書士又は行政書士法人の社員若しくは使用人である行政書士(…)は、その業務を行うための事務所を設けなければならない。

2 行政書士は、前項の事務所を二以上設けてはならない。

3 使用人である行政書士等は、その業務を行うための事務所を設けてはならない。

行政書士法

平成16年8月に行政書士法が改正され、行政書士法人の制度が始まりました。これにより、行政書士事務所の法的枠組みが大きく変わりました。今回は、その法的意義について解説します。

行政書士事務所の種類

改正法では、行政書士事務所は大きく「独立個人行政書士」と「行政書士法人」の2つに分けられます。個人行政書士は自宅を事務所とすることも可能ですが、行政書士法人は法的には独立した法人として設立されます。行政書士法人に個人行政書士が所属するためには、自身の名義の事務所を廃止しなければなりません。

個人行政書士事務所の法的枠組み

個人行政書士の事務所には以下のような法的枠組みがあります。

  1. 事務所の名称や所在地の変更は、所属する行政書士会を通じて日本行政書士連合会に登録する必要があります。
  2. 事務所には「行政書士(氏名)事務所」という表札を掲示しなければなりません。
  3. 事務所の見やすい場所に、業務に関する報酬の額を掲示しなければなりません。
  4. 所定の業務帳簿などを備え付け、2年間保存する必要があります。これは都道府県の立入検査受忍規定で規定されています。

また、出張所の設置が禁止され、業務停止処分を受けた期間中は表札を撤去しなければなりません。さらに、事務所外で業務を行う場合でも、職印や領収書の常時保管は通常、事務所で行われます。また、事務所における使用人・従業者の住所や氏名は所属する行政書士会に届け出る必要があります。

以上が行政書士事務所の法的意義とその法的枠組みについての概要です。行政書士業務を遂行する上で、これらの法的要件を遵守することが重要です。

帳簿の備付け義務

帳簿の備付けに関しては、法令上、以下のように定められています。

(帳簿の備付及び保存)

第九条 行政書士は、その業務に関する帳簿を備え、これに事件の名称、年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所氏名その他都道府県知事の定める事項を記載しなければならない。

2 行政書士は、前項の帳簿をその関係書類とともに、帳簿閉鎖の時から二年間保存しなければならない。行政書士でなくなつたときも、また同様とする。

行政書士法

行政書士業務において、法律上の責任は非常に重要です。行政書士法には、「誠実に業務を行ない」「信用」を旨とする責務が明記されています。この責務を果たすために、行政書士は事務所において業務の帳簿を備え付ける義務が課せられています。この帳簿は、行政書士の書類作成能力を証明する基本条件となります。

法定の帳簿記帳事項は、受任事件の名称・年月日・報酬収受額・依頼者住所氏名などが含まれます。これらの記録は、都道府県規則である「行政書士法施行細則」に基づき、帳簿様式や記録内容が定められています。また、平成17年の省令改正により、帳簿と関係書類の保存は電磁的記録で行うことが許可されました。

帳簿に含まれる「関係書類」には、依頼者宛の領収書の副本も含まれます。この領収書の副本は、5年間保存される必要があります。また、行政書士が廃業した場合でも、帳簿の保存義務は2年間継続されます。

かつては、行政書士は事務所以外での業務に従事してはならないという規定が存在しました。しかし、実際には事務所外での業務が増加しているため、この規定は廃止されました。この改正は、行政書士業務の柔軟性を高め、現代の業務環境に適応するための重要な措置となりました。
とはいえ、前述の通り、帳簿等の保管は事務所で行わなければなりません。

品位を守る義務

品位を守る義務に関しては、法令上、以下のように定められています。

(行政書士の責務)

第十条 行政書士は、誠実にその業務を行なうとともに、行政書士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。

行政書士法

ちなみに、この品位を守る義務が法的義務の中でも極めて重要な義務であると自分は感じています。
仕事というのは信頼関係で成り立っています。信頼を裏切るような行為は、業界全体を失墜させてしまいます。
否、これは行政書士業界に限った話ではなく、人間の生き方そのものにも共通して言えることだと感じています。

まあ、こんな下らない記事ばかり書いているお前が言うなと言われそうですが…

行政書士が全うすべき職業倫理

専門士業には、その業務規律を定める法制度が存在します。これは、業務独占だけでなく、国民の権利や便益を保護するために必要なものです。一般的に、専門士業の業務規律は、各士業団体が自主的に規制することが期待されています。それぞれの職業倫理を責務として全うすることが求められます。

行政書士業界も例外ではありません。行政書士の責務は、努力義務として明記されています。しかし、職業倫理は単なる道徳規範だけでなく、法制度によって規定されている部分も存在します。行政書士の業務や行動における誠実さ、信用、品位の保持に関する責務は、以下の法制度によって担保されています。

1. 日本行政書士連合会による登録審査基準
2. 日本行政書士連合会の会則
3. 各行政書士会の規定や会員指導、注意勧告
4. 登録申請時の意見提出
5. 都道府県知事の行政書士に対する懲戒処分権
6. 一般国民からの行政書士に対する懲戒請求

行政書士の職業倫理的責務は、法令によって詳細に規定されています。

業務上の誠実・信用確保の責務

これは具体的に業務を遂行する際の注意事項です。

  1. 事務所での報酬額掲示義務(本法10条の2、施行規則3条の2)
  2. 依頼に応ずる義務(法11条、施規8条)
  3. 秘密を守る義務(法12条)
  4. 依頼順迅速処理(施規7条)
  5. 依頼に沿う枚数の書類作成(施規9条1.2項)
  6. 帳簿記帳義務(法9条)
  7. 業務他人任せの禁止(施規4条)

このうち、依頼に応ずる義務については以前の記事で解説しています。よろしければ御参照ください。

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行動面での品位保持責務

行政書士業界において、品位を保ちながら業務を遂行するための責務があります。この責務は、以下のような項目で構成されています。

  1. 不正不当な業務依頼誘致の禁止(施規6条2項)
  2. 親切かつ丁寧な応接(同条1項)
  3. 「品位保持」を定めた日本行政書士連合会・行政書士会の会則の遵守

また、行政書士に課せられる罰則付きの義務は、依頼応諾義務、守秘義務、帳簿記帳義務のみです。

日本行政書士連合会は、昭和54年以来「行政書士倫理綱領」を定めてきましたが、平成18年には新しい内規「行政書士倫理」が制定されました。これは、行政書士業務の信頼性向上が求められる中で、職務上請求書の不正使用問題がクローズアップされたことからの対応です。この新しい内規は、法令遵守態度がコンプライアンスとして社会的に重視されるなか、依頼者との関係における法令順守や金銭トラブル防止を強調しています。

行政書士の職業倫理は、書類作成処理と口頭法律事務とで異なる要素が含まれています。書類業務では、職務上請求書の適正取扱いや預り金・書類の適正管理が重視されます。一方、口頭業務では、相談説明や助言、処理報告が重要な役割を果たします。

最後に、他の士業法の独占規定に違反しないようにする注意義務も、行政書士にとって重要です。

最後に

今回は行政書士の法的義務について解説しました。
まだ法的義務は存在しますが、全てを解説すると軽く1万文字以上になりそうだったため、今回はこのくらいにしたいと思います。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が行政書士の業務について学びたい方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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