家系図作成業務で職務上請求書を使用できる?行政書士法の解釈
以前、家系図作成業務が行政書士の独占業務から除外された事件について解説記事を投稿しました。
なかなか多くの方から御反響をいただきました。
読者の皆様、いつも御閲読いただきありがとうございます。
もう家系図作成は行政書士の業務ではない?家系図裁判を解説 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
さて、この記事について「家系図作成業務で職務上請求書を使用できるか?」について疑問を持たれた読者の方がいらっしゃいました。
今回は、この問題について解説します。
目次
結論:原則、使用できない
結論から述べると、現在では原則として家系図作成業務では職務上請求書を使用できないというのが政府の見解です。
しかし、これでは納得がいかない方も多いかと思います。職務として受任した以上、行政書士業務の一環として使用できるのではないのか?と感じるのも無理はありません。
正直に言えば、自分もこの記事を執筆するために情報収集をするまでは、この明確な根拠は知りませんでした。
それでは、以下、職務上請求書を使用できないと断言する根拠について解説します。
職務上請求書の使用に関する規則
まず、そもそも職務上請求書の使用はどのような法令で規制されているかについて解説します。
これは、行政書士の職務上請求書の使用について規定した「職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則」において以下のように定められています。
(使用の制限)
第5条 行政書士又は行政書士法人は、職務上請求書を、その職務上必要な請求に限り使用できるものとし、これ以外の請求や、身元調査等、人権侵害のおそれがある使用は、これを行ってはならない。
3 行政書士又は行政書士法人で他士業の兼業者は、他士業の職務を行うにあたっては、本会が作成した職務上請求書を使用してはならない。
4 行政書士法人にあっては、単位会を超えて複数事務所間で、職務上請求書を共用してはならない。
職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則
また、職務上請求書とは何かについては以下のように定められています。
(職務上請求書)
第2条 この規則において「職務上請求書」とは、戸籍、除籍若しくは原戸籍の謄本若しくは抄本等又は住民票、除票若しくは戸籍の附票の写し等(以下「戸籍謄本等」という。)の請求が、行政書士又は行政書士法人として職務上必要な場合に使用する用紙であって、本会が作成したものをいう。
職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則
つまり、法令上の職務上請求書の使用条件は以下のように整理されます。
- 使用者が行政書士である
- 職務上必要な場合である
- 請求できる書類は戸籍、除籍、原戸籍、住民票、除票、戸籍の附票に限られる
- 行政書士と他士業を兼務する場合、行政書士業務をする場合に限り行政書士会の職務上請求書が使用できる
- 単位会ごとに職務上請求書が管理されているため、単位会を跨いで使用はできない
法令上の書き方にしては、比較的分かりやすいですね。整理すれば使用できる状況が明確です。
なお、行政書士補助者は自らの意思で職務上請求書の使用はできません。しかし、雇用主の行政書士の使者として職務上請求書を提出することは可能であると解されています。
しかし、これだけでは当初の疑問には答えられません。
そうです。ここでは「職務上必要な場合」の定義が明記されていないのです。
行政書士は法定の独占業務以外にも広範に関連業務を取り扱うことができます。
例えば、起業支援の際に補助金申請もセットで行う行政書士もいます。この場合、起業支援は行政書士の独占業務である事実証明書類の作成が含まれます。しかし、補助金申請業務は原則として独占業務には該当しません。
行政書士の独占業務について
なお、行政書士の法定の独占業務は以下のように定められています。もう見慣れた方については飛ばして次の章に進んでください。
(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(…)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
行政書士法
では、それを踏まえて次に進みます。
法務省発簡「平成9年6月3日民二第970号回答書」を読み解く
まず、法務省が「家系図作成のため傍系血族の戸籍を収集する目的」での職務上請求書の使用の是非を公表した文書を解読します。(説明文が長い…)
これは、熊本地方法務局長が法務省に当該案件の是非を確認したことに対する法務省の公式見解です。
まずは熊本地方法務局長の質問文は以下の通りです。少し長いので、時間が無い方は太文字にしている部分のみを読んでも意味は伝わるかと思います。
行政書士による除籍謄本の交付請求について(伺い)
今般、行政書士から当局管内熊本市に対し、職務上請求書により、使用目的を「家系図作成」として、傍系血族等の除籍謄本の請求がありました。熊本市は、一般的に「家系図作成のため」との請求理由では、自己の傍系血族の除籍謄本の交付請求は認められない取扱いであることから、本件請求に基づく除籍謄本の交付には疑義があるとして、当職に照会がありました。
(中略)行政書士は、「他人の依頼」を受けて書類の作成等を業とするものである。そこで、「家系図」の作成等に関連して身分関係を証する書面を請求できる範囲につき、その依頼人に法令上の規制がある場合には、行政書士の業務の範囲も、そこで認められた請求の範囲内に限定されるものと考える。
戸籍の取扱いにおいては、正当な利害関係がある場合等でなければ、自己の傍系血族等の除籍謄本の請求は認められておらず、したがって、そのような請求者の依頼を受けた行政書士も、「行政書士」ということのみをもって、当然には当該範囲を超える請求が認められるものではないと解する。
よって、行政書士が「家系図作成」を目的として傍系血族の除籍謄本を請求することは、職務上の請求に該当しないというべきであり、本件請求には応じるべきでないと考える。
平成9年6月3日民二第970号回答より抜粋
これに対する法務省の回答は以下の通りです。
回 答
貴局長から当局長あて照会のあった標記の件については、貴局意見のとおり請求に応ずべきでないものと考えます。
平成9年6月3日民二第970号回答より抜粋
おやおや、もう結論が出てしまいました。
と言いたいところですが、ここで結論を出すのは少し早計です。
この回答書の発簡年月日は平成9年です。
対して、家系図事件の判決が下されたのは平成22年です。
つまり、この回答書は最高裁が家系図作成業務を行政書士の独占業務に該当しないと断定する以前の内容なのです。
そのため、この回答書では「傍系血族の戸籍」を収集するために職務上請求書の使用は認められないとする部分しか述べられていません。逆に言えば直系血族の戸籍であればこの時点までは問題なく職務上請求書の使用はできたのです。
では、次に家系図事件以降の公式文書を見てみましょう。
日本行政書士会:観賞用家系図作成に係る行政書士法違反事件の最高裁判決について(お知らせ)
こちらは平成23年1月に家系図事件の判決を受けて日本行政書士会連合会が発簡した公式声明です。
少し長いので、時間が無い方は太文字にしている部分のみを読んでも意味は伝わるかと思います。
去る平成22年12月20日に最高裁判所にて行政書士法違反事件の判決があり、翌21日には、全国紙全紙の朝刊で報じられました。
このことについて、簡単ではありますが、現時点での考え方をお示ししますので、ご理解の程よろしくお願いいたします。(中略)
3.今回の判決を受けて
(…)観賞用又は記念用として作成・使用されるものについては、上記「…証明するに足りる文書」には当たらず、行政書士の業務とされている事実証明文書には該当しない、と判断したものと理解するのが相当である。(…)(1)観賞用又は記念用とはいえ将来の使途を限定できないことを踏まえ、今後は社会に対して、関係法令知識を有するとともに守秘義務を課され、また、裁判長による補足意見にあるとおり戸籍・除籍の調査に関する専門家である行政書士により作成されることが国民の利便に寄与する旨をしっかりと訴え、広報を強化してゆく。
(2)観賞用又は記念用の家系図作成は、行政書士法第1条の2第1項にいう行政書士業務に該当しないことから、職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求することはできない。
(3)事実証明文書としての親族関係図や相続関係説明図等の作成は、行政書士法第1条の2第1項にいう行政書士業務に該当するので、職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求することができる。職務上請求書の使用に際しては、関係諸法令、行政書士倫理等を順守し、行政書士の信用又は品位を害することのないよう、また人権問題等を生じせしめないよう、行政書士としての使命感を持って取り組まなければならない。
日本行政書士会:観賞用家系図作成に係る行政書士法違反事件の最高裁判決について(お知らせ)より抜粋
はい、これでようやく結論が出ました。
つまり、職務上請求書の使用は行政書士法第1条の2第1項に規定された独占業務以外には適用されません。
つまり、観賞用の家系図作成業務はもとより、補助金申請業務等の非独占業務一般においても職務上請求書の使用は認められません。
ちなみに補足すると、家系図作成業務に関しては「観賞用または記念用」という前提が付いている通り、純然たる事実証明書類としての用途で作成する場合は法1条の2第1項の独占業務に該当すると判断されます。
そのため、場合によっては職務上請求書の使用が認められる余地があります。
まあ、家系図を事実証明書類として使用するような場面はほぼ無いでしょうが…
最後に
今回は家系図作成業務で職務上請求書の使用ができるかについて解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が行政書士の業務について学びたい方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
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