行政書士は依頼を断れない?応諾義務とは
行政書士は依頼者からの依頼に原則として応ずる義務があります。
これは倫理規定でも何でもなく、実際に法令上の義務です。
(依頼に応ずる義務)
第11条 行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない。
行政書士法
更に、この規定に違反した場合は罰則も定められています。
罰則が付されているのは、士業の業務独占が国民の権利実現など社会公共的理由に基づくことを理由としています。
第23条第1項 第11条の規定に違反した者は、100万円以下の罰金に処する。
行政書士法
また、例外的に依頼を断わる場合の手続として、正当な事由を説明しなければなりません。そして、「依頼人から請求があるときは、その事由を記載した文書を交付しなければならない」と規定されています。
(依頼の拒否)
行政書士法施行規則
第8条 行政書士は、正当な事由がある場合において依頼を拒むときは、その事由を説明しなければならない。この場合において依頼人から請求があるときは、その事由を記載した文書を交付しなければならない。
このように、行政書士は原則として依頼を断ることは許されません。
この義務を一般的に応諾義務と呼称します。
しかし、条文上は「正当な理由がある場合」は依頼を断ることができるとも記載されています。
この正当な理由とは、どのような場合を指しているのでしょうか?
今回は、行政書士が依頼を断る際の想定しうる理由と、その正当性を判定しました。
今後の業務の御参考にしていただければ参考です。
※なお、今回のランキングは完全に自分の独断と偏見によって作成されています。そのため、正確性は100%です。
目次
- 1 行政書士が依頼を断る際の理由
- 2 依頼を断る際の理由の正当性の考察
- 2.1 病気・事故等でやむを得ず対応ができない
- 2.2 身内に不幸があり、対応できない
- 2.3 現在抱えている業務が忙しすぎて対応できない
- 2.4 依頼人の目的が犯罪目的であることが明確である
- 2.5 依頼内容が他士業の独占業務である
- 2.6 自分の専門とする分野以外の依頼のため対応できない
- 2.7 自分の信念に反する屈辱的な依頼のため対応できない
- 2.8 業務の難易度が高すぎて対応できない
- 2.9 報酬の値切り交渉をされ、相手が提示した報酬額に納得できない
- 2.10 依頼人が反社会的勢力に属する者であるため対応できない
- 2.11 どう考えても期限にまでに間に合わない業務量の依頼をされた
- 2.12 ポケモンの最新作をやるのに忙しいため対応できない
- 3 まとめ
- 4 最後に
行政書士が依頼を断る際の理由
おそらく、一般的に依頼を断る際の理由は以下のようなものが多いでしょう。
- 病気・事故等でやむを得ず対応ができない。
- 身内に不幸があり、対応できない。
- 現在抱えている業務が忙しすぎて対応できない。
- 依頼人の目的が犯罪目的であることが明確である。
- 依頼内容が他士業の独占業務である。
- 自分の専門とする分野以外の依頼のため対応できない。
- 自分の信念に反する屈辱的な依頼のため対応できない。
- 業務の難易度が高すぎて対応できない。
- 報酬の値切り交渉をされ、相手が提示した報酬額に納得できない。
- 依頼人が反社会的勢力に属する者であるため対応できない。
- どう考えても期限にまでに間に合わない業務量の依頼をされた。
- ポケモンの最新作をやるのに忙しいため対応できない。
それでは、以上の理由について正当性を5段階評価で判定していきます。
依頼を断る際の理由の正当性の考察
病気・事故等でやむを得ず対応ができない
これは正当な理由です。
誰しも病気や怪我に遭遇することはあります。そんな状態では満足に依頼に対応することは不可能です。
そのため、この理由はSティアです。
身内に不幸があり、対応できない
これは正当な理由です。
薄給激務の公務員ですら身内に不幸があった場合は休めます。このような状態では満足に依頼に対応することは不可能です。
そのため、この理由はSティアです。
現在抱えている業務が忙しすぎて対応できない
これは正当な理由です。
どんなに優秀な人材でもキャパオーバーになることはあります。このような状態で更に仕事を増やしてしまうと、業務全体を達成できなくなる虞があります。
ただし、この場合は「現在は対応できませんが、〇月以降ならば対応できます。如何でしょうか?」といったように、誠意をもって対応する意思があることを提示してから断った方が相手に好感を持っていただきやすいです。
そのため、この理由はAティアです。
依頼人の目的が犯罪目的であることが明確である
これは正当な理由です。
残念ですが、依頼人の中には士業の有する職務上請求書を目当てにして依頼をする方も存在します。こういった場合、大抵は他人の戸籍を欲しがっているのです。決して相手にしてはいけません。
そのため、この理由はSティアです。
依頼内容が他士業の独占業務である
これは正当な理由です。
行政書士に限らず、士業は他士業の領域に立ち入ってはいけません。それができるのは全ての法律事務を制覇する弁護士だけです。
しかし、ここで無下に断るようでは残念な書士であると言わざるを得ません。
なぜなら、依頼人の最終的な目的は「困っていることの解決」なので、依頼人のニーズを聴取して行政書士にもできる業務があれば提案することができます。また、提携する他士業に業務を引き継ぐことで信頼感を向上させることも可能です。
例えば、依頼人が法人登記のことでお困りであれば「法人登記は司法書士の独占業務となりますので当事務所では対応できかねます。しかし、提携する司法書士がいるため、そちらに御取次ぎをさせていただきます。また、定款作成や就業規則の作成でお困りであれば当事務所でサポートが可能ですが、いかがでしょうか?」といったように次のビジネスチャンスにも繋げることができるかもしれません。
そのため、この理由はBティアです。
自分の専門とする分野以外の依頼のため対応できない
これは正当な理由です。
行政書士は広範な業務を所轄することができるため、専門外の業務が発生することはよくあることです。そのような業務をいきなり受任するのは危険が伴います。もし失敗した場合は多額の賠償金を請求されることもあり得ます。むしろ、この場合は安易に受任すべきではありません。
しかし、ここで無下に断るようでは残念な書士であると言わざるを得ません。
なぜなら、行政書士は少なからず横の繋がりがあるため、依頼人のニーズに沿った適任の行政書士を紹介することができるからです。この際にただ単に取次ぎをするのではなく、ニーズを細部に聴き取って調書を作成した上で取次ぎをしましょう。そうすることによって、調書の作成という業務が発生するため「紹介手数料」として報酬が発生する場合も考えられます。
そのため、この理由はCティアです。
自分の信念に反する屈辱的な依頼のため対応できない
これはいけません。正当な理由とは言えないでしょう。
なぜなら、依頼人にしてみれば書士の信念など知ったことではないからです。不当な理由で断られたと不信感を与えることになりかねません。
とはいえ、確かに仕事に信念を持つことは素晴らしいことです。そうすることで仕事に対する責任感も生まれ、仕事のクオリティは向上します。
そのため、素直に「そんな汚ねぇ仕事…俺は受けねえ!帰ってくれ!」と伝えるのではなく、業務多忙や専門分野外などの理由を付加した上で拒否するべきです。
しかし、人生で一回くらいは言ってみたいカッコいいセリフなので、これはAティアです。
業務の難易度が高すぎて対応できない
これは限りなく不正当に近い正当な理由です。
自分の能力不足でできない仕事は、どう足掻いてもできません。潔く諦めましょう。「今から頑張って勉強します、任せてください」と言って任せてくれる依頼人もいません。
この部分の内容は以下の記事で詳細に解説しています。よろしければ御参照ください。
しかし、単に断るだけでは三流書士との誹りを受けてもやむを得ないでしょう。
可能な限り専門とする書士に引き継ぎ、少しでも依頼人の信頼を獲得する努力をすべきです。
また、断るには自己の無能力を曝け出す勇気が必要です。最悪の場合、依頼人から無能書士の烙印を押されることを覚悟しましょう。
そのため、これはDティアです。
報酬の値切り交渉をされ、相手が提示した報酬額に納得できない
これは正当な理由です。
行政書士は慈善事業でもボランティアでもありません。もし建設業の許可の新規取得を1,000円でやってくれと言われても誰も引き受けられないでしょう。これは自己の生存権を死守するための最低限の防御措置であるため正当な理由になります。
また、このような依頼人は他の行政書士を紹介する必要もありません。紹介先に迷惑を掛けるだけです。
とはいえ、元々こちらが提示した報酬額があまりにも相場から乖離して高すぎる場合もあり得るため、どちらが悪いのかは一概には言えません。
そのため、これはAティアです。
依頼人が反社会的勢力に属する者であるため対応できない
これは正当な理由です。
行政書士はクリーンな仕事を心がけなければなりません。たとえ報酬額が高額で魅力を感じても、反社会的勢力とは関係を持つべきではありません。
とはいえ、相手が威圧的な態度や取ってきた場合や危害を加えられそうになった場合はその場を凌ぐために受任してしまうこともあるかもしれません。そのような場合は迷わず警察に相談して今後の対応を取るべきです。
そのため、自分一人で判断するべきではないという理由を含めて、これはSとAの中間です。
どう考えても期限にまでに間に合わない業務量の依頼をされた
これは正当な理由です。
物理的に不可能なものは不可能です。報酬目当てでこのような依頼を受任すると、失敗して賠償問題に発展する場合があります。
ただし、複数の行政書士と共同して業務をすることが可能であり、期限までに間に合う見込みがある場合は受任しても問題ありません。
開業して日が浅いうちは業務にかかる処理時間の基準が分からないため、よく先輩諸氏と相談した方がいいでしょう。
これは時と場合によるところが大きいため、Bティアです。
ポケモンの最新作をやるのに忙しいため対応できない
これは論外です。
もし、貴方が職務を放棄してジムリーダーとの対戦に熱中するようなゴミカストレーナーであることを、手塩にかけて育ててきたポケモン達が知ったらどう感じると思いますか?
そうですね。
これはいけません。信頼を裏切る行為です。二度と貴方のポケモンは命令に従わなくなるでしょう。
しかし、「貴様のせいで弊社の株価が下がった」と任天堂法務部に訴えられたら厄介なので、これは忖度してSティアです。
まとめ
これまでの結果をまとめると以下の通りです。
- 病気・事故等でやむを得ず対応ができない。 S
- 身内に不幸があり、対応できない。 S
- 現在抱えている業務が忙しすぎて対応できない。 A
- 依頼人の目的が犯罪目的であることが明確である。 S
- 依頼内容が他士業の独占業務である。 B
- 自分の専門とする分野以外の依頼のため対応できない。 C
- 自分の信念に反する屈辱的な依頼のため対応できない。 A
- 業務の難易度が高すぎて対応できない。 D
- 報酬の値切り交渉をされ、相手が提示した報酬額に納得できない。 A
- 依頼人が反社会的勢力に属する者であるため対応できない。 S~A
- どう考えても期限にまでに間に合わない業務量の依頼をされた。 B
- ポケモンの最新作をやるのに忙しいため対応できない。 S
このように、行政書士は応諾義務に違反しないように細心の注意を払って依頼を断る必要があります。
また、応諾義務があるからと言って何でも受任するべきではありません。上記の正当な理由に照らし合わせて、時として断る勇気を持つことが最適解であると思います。
最後に
今回は行政書士の応諾義務と依頼を断ることができる正当な理由について解説しました。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が行政書士の業務について学びたい方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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