九官鳥は誰のもの?占有の訴えとは
法律の勉強をしていると、判例を目にすることが多々あります。
勉強の本質からは若干逸れてしまいますが、読んでいると内容が面白くて時間を忘れて読み込んでしまうものがあります。
今回は、民法の占有の訴えに関するとある判例を解説したいと思います。
この判例は現代でも占有権についての考え方の基本となっています。
また、純粋に読み物としても面白い内容です。
法律の勉強に疲れた方の息抜きとして読んでいただければ幸いです。
目次
事件の概要
時は昭和初期、まだ日中戦争が起きる前の出来事です。
Aは、九官鳥を飼育していました。
ある日、Aの九官鳥が逃げてしまいました。その3年後、九官鳥はBにより捕獲され飼育されていることが判明しました。
Aは、これを捕獲しているBの家に行き、暴力をもって奪還しました。(世紀末世界並みの倫理観)
Bは、当該九官鳥は自分が民法195条によって所有権を取得したモノだから返還せよと請求しました。
それでは、民法195条を見てみましょう。
(動物の占有による権利の取得)
参考法令 民法195条
家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から1箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。
確かに、家畜以外の動物ならばBの主張は通ります。
なお、この「行使する権利を取得」とは所有権を取得するものと解されています。
さらに、ある証言により事件は急展開を迎えます。
その訴訟中の証人の証言によって「当該九官鳥はAの逃がしたものではなく、誰か別の人が飼育した鳥」だということが判明したのです。
これはBにとって大きな追い風となるはずです。
しかし、それにもかかわらずBは敗訴しました。
Bの訴えは「自分の所有物だから返せ」という請求です。しかし、九官鳥はわが国では家畜とみるべきだから民法195条の適用はない、すなわち「そもそもBの所有物ではないから所有権に関する訴えは認めない」という理由で、Bの所有物返還請求の訴えは認められませんでした。(Bが不憫すぎる…)
事件の結末
ちなみに、この事件では、Bがその後、占有回収の訴えを起こして勝訴し九官鳥はBに返還されました。
これにより、ようやく事件は平穏に幕を閉じたかに見えました。
しかし、その後、先の証人の証言が偽証であったことが判明し、今度はAが所有権に基づいて所有物返還の訴えを起こしました。
そして最終的にAが逆転勝訴したという何とも後味の悪い結末を迎えました。
当時、九官鳥がどれほど貴重なものだったかは分かりませんが、凄まじい執念を感じずにはいられない事件ですね。
【参考判例:大審院昭和7・2・16】
この事件から言えること
自力救済禁止の原則
さて、まず最初に触れておかなければならないことは、自力救済禁止の原則です。
自力救済禁止の原則とは、権利者が、法律上の手続を経ずに、実力を行使して権利の内容を実現してはならないというルールです。
これが公然と認められてしまっては、それこそ世紀末世界となってしまいます。
この事件では、Aが暴力的手段で九官鳥を奪還しています。明らかに自力救済禁止の原則に反しています。
もし、本当にAの所有物であったとしても、Aは自己の所有権を理由として所有物返還請求訴訟をすべきでした。
たとえ自己に帰属すべき物でも、緊急やむを得ない特別な事情がある場合を除いて、自分の私力をもってその権利を実現することは許されません。
【参考判例:最判昭和40・12・7】
自力救済を禁じている以上、あえて自力救済をした者がいるときは、その者から目的物を取り戻させたりすることで社会の現にある状態を一応保護する必要があります。
その必要に応えようとするところに占有の訴えの本質が存在します。
占有権に関する争いと所有権に関する争いは別
これに関連して、占有の交互侵奪ないし相互侵奪という問題に触れておきましょう。
Aの所有する物をBが盗んだので、Aが実力を行使してこれを取り戻したとき、Bは占有回収の訴えにより占有を回復することができます。
占有の訴えは、それが正当な権利に基づくものであるかどうかを問題とせず、現実的支配の事実に基づき、関係を維持しようとする訴えです。つまり、占有者の善意・悪意を問わずに提起できます。
そのため、実際の権利に基づいてあるべき支配状態を実現しようとする訴えとは何の関係もありません。
今回の事件においてBは、同一の目的について二重に訴えたことにはなりません。
また、所有物返還の訴えで敗訴した後に占有回収の訴えを提起しても、いわゆる※一事不再理の原則に反することにはなりません。
※一事不再理の原則とは
一度判決が確定している場合、その事件を再度審理することができないという原則です。
また、Bが占有回収の訴えを起したときに、Aがこれに対して、その訴訟の中で、それは元来自分の所有物だと抗争してもBの訴えを否認する理由とはなりません。
ただし、Aは所有権に基づく反訴を提起することができます。
占有の訴えの内容
最後に、占有の訴えについて少し解説しましょう。
占有の訴えの内容は占有状態の回復と損害賠償を請求することです。損害賠償は原則として金銭賠償となります。
また、占有の訴えを提起しうる者となりうる者は占有者です。他人のために占有する者(占有代理人)もまた占有者です。そのため、自己の名において、独立に占有の訴えを提起することが認められます。
占有を奪われたとき
占有離脱物の返還と損害の賠償を請求することができます。これを占有回収の訴えといいます。
これは他者に占有を奪われたことが要件です。そのため、詐欺等によって自ら占有物を譲渡した場合は提起できません。
この場合、対象物が賃借していた物であれば、直接譲渡した賃借人はもちろん、賃貸人であっても占有回収の訴えは提起できなくなります。
【参考法令:民法200条】
訴訟期間
占有が奪われてから1年以内に提起しなければなりません。
占有は奪われないが、占有が妨害されないとき
これは、たとえば甲の借地の上に隣家の松の木が倒れてきた場合が該当します。
この場合は妨害の停止と損害の賠償の両方を請求できます。これを占有保持の訴えといいます。
【参考法令:民法198条】
訴訟期間
妨害が継続している間はいつでも提起できます。また、妨害が消滅した後は1年以内に損害賠償の提起しなければなりません。
占有を妨害されるおそれがあるとき
これは、たとえば隣家の松の木が自分の家に倒れそうな場合が該当します。
この場合は妨害予防の手段を講ずること、または損害を受けたときの賠償のために担保を供することを請求することができます。これを占有保全の訴えといいます。
【関係法令:民法199条】
訴訟期間
妨害が継続している間は提起することができます。
最後に
今回は農地の占有の訴えに関する判例ついて解説しました。
このように、判例を読み解いていると色々なドラマが垣間見えて大変面白いですね。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が法律の勉強をされている方の息抜きになれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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