農地の売買で許可が得られなかった場合、契約の効力はどうなる?

転用目的で農地の売買契約を締結し、5条許可を受けることなく時間が経過し、当該農地が非農地化した場合はどうなるでしょうか?
当然ですが、このようなケースを農地法は想定していません。需要と供給が一致したから売買契約が成立しているのであって、売買契約をした後に必要な手続きを当事者が放棄するという事態が、通常は観念できないためです。
そのため、法令に規定の無いこの事態への対処については、根気よく関係する判例を読み解くしかありません。
今回は、このような場合に一体どのような判決がされてきたのかについて解説します。

代表的な判例集

売買契約締結後に、当該農地が農地でなくなった場合

現況が農地である土地を目的とする売買契約締結後に、右土地を含む周辺一帯が都市計画区域に指定され、順次宅地として分譲されるなど客観的事情が変化し、かつ、買主がこれに地盛りをして売主の承諾のもとに建物を建築するなどしたために、右土地が完全に宅地に変じた場合には、右売買契約は、知事の許可なしに効力を生ずるものと解すべきである。

最判昭44・10・31 民集23・10・1932

判旨だけを見ると行政が一方的に折れたような内容に感じてしまいますね。先に開発したもの勝ちになってしまうという印象を感じてしまいます。
しかし、実際の背景は「5条許可を条件として農地の売買をしたが、許可が得られないまま買主が宅地化してしまい、売主が一方的に売買契約は無効だから土地を返せと主張してきた」という事例です。
つまり、行政と個人の争いではなく、個人と個人の争いです。
しかも、この事例では売主は売買代金の9割を受領しながら5条許可申請に非協力的であったという背景もあります。そのような状況下で5条許可が得られていないから売買契約が無効というのは一方的すぎる主張として一蹴されたのです。農地法判例というよりは、公序良俗違反に関する判例に近いですね。

売買契約締結後に、買主の責に帰すべからざる事情により農地でなくなった場合

農地を目的とする売買契約締結後に、売主が目的物上に土盛りをし、その上に建物が建築され、そのため農地が恒久的に宅地となつた等買主の責に帰すべからざる事情により農地でなくなつた場合には、右売買契約は、知事の許可なし完全に効力を生ずると解するのが相当である。

最判昭42・10・27 民集21.8.2171

これは先の判例よりは分かりやすい例ですね。
5条許可を条件として農地の売買契約をしていたのに、売主が勝手に農地を宅地に改変してしまった場合です。売った後に手放すのが惜しくなったのでしょう。
これも宅地化した以上は農地法の適用除外なので、売買契約は有効であるとされています。

売買契約に基づき所有権移転の仮登記を経由後、農地が宅地化された場合

農地法5条の許可を条件とする農地の売買契約が締結され、買主甲が所有権移転の仮登記を経由した場合において、右許可前に、売主乙がさらに丙に売り渡し、乙丙間で同条所定の許可を得て丙においてこれを宅地化したため、乙甲間の売買契約が完全にその効力を生じたときは、甲は、右仮登記に基づき、乙に対し本登記手続を請求し、所有権移転登記を経由した丙に対し本登記の承諾を請求することができる。

最判昭52・10・11 金融法務845・23

これも一見難解な判例ですが、時系列を整理すれば簡単です。

  1. 買主甲と売主乙の間で5条許可を条件とする売買契約を締結して仮登記した
  2. 先述の5条許可が降りる前に、乙が第三者の丙に当該農地を売却し、所有権移転登記をした
  3. 丙が当該農地を宅地化した
  4. 宅地化された時点で農地法の適用除外であるとして、甲は乙に対して本登記手続きを要求でき、丙もこれに協力しなければならない

つまり、何ということは無いただの二重譲渡の事例です。
すなわち、先に登記を備えた方が勝ちます。
5条許可を得ていないので本登記ができなかった甲が、当該農地が宅地化され農地法適用除外となったため本登記が可能になったというだけの話ですね。
ここで重要なのは、甲が売買契約をした時点で仮登記をしている点です。もし仮登記が無ければ当該土地は当然に丙のものになっていたでしょう。

所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効期間の経過後に農地が非農地化した場合

農地の売買に基づく県知事に対する所有権移転許可申請協力請求権の消滅時効期間が経過してもその後に右農地が非農地化した場合には、買主に所有権が移転し、非農地化後にされた時効の援用は効力を生じない。

最判昭61・3・17 民集40.2・420

これは、原告が「農地所有者が転々としていたが、最初の売買時に許可を得ていなかったのだから、売買契約は無効で所有権は未だに最初の持ち主側にある。許可申請協力請求権も時効により無効だ」と主張していましたが、農地が転々とする間に非農地化してしまったケースです。
先の例に倣い、これも非農地化した時点で農地法適用除外であり、売買契約は有効であるとして判決されました。また、それに伴って許可申請協力請求権そのものも消滅するため、これを援用することも認められませんでした。

売買契約後に農地が雑種地となった場合

農地売買契約後、当該農地が放置されて約15年後に非農地化(雑種地)した場合、その間、買主が盛土をして資材置場として利用した事実があったとしても、売買契約は効力を生ずるとしました

最判平12・12・19 金融法務1609・53

この場合においても、許可を得ずに転用しても売買契約は有効であると判断されています。

判例から垣間見れる傾向

上記の判例集を見て共通する事例は「農地の売買契約締結後に当該農地が非農地化してしまった場合でも、売買契約は有効であり、所有権は移転する」ということでしょう。
これはおそらく※取引の安全を確保するためのやむを得ない救済処置なのかと思います。
そのため、自己所有の農地を勝手に転用してしまった場合はこのような救済措置は無く、原則として追認許可を取得するか、原状回復を命ぜられることになります。
※取引の安全とは
取引が行われたという事実を保護する法律上の考え方のこと。動的安全とも呼ばれます。

それでは、具体的な事例を想定して考察してみましょう。

事例

Bは、Aから、転用目的でA所有農地を購入する契約を結んだ。その際、Bは、農地法5条許可を条件とする条件付所有権移転の仮登記をした。Bは、Aに対し売買代金全額を支払ったが、転用許可を受けないまま15年が経過し、当該農地は非農地化した。

Q1 所有権の所在

農地売買契約から15年後の時点で、当該土地の所有権は誰にあるでしょうか?

A1 

農地が非農地化した時点で、当然に当該土地の所有権はBに移転します。売買目的農地が農地でなくなったときは、5条許可を受けることなく、売買契約を原因とする土地所有権移転の効力が発生すると解されます。

Q2 登記請求権の有無

Bは、Aに対し本登記請求をすることが認められるでしょうか?

A2 

土地所有権が、AからBに移転することに伴って、土地所有者であるBは、Aに対し条件付き所有権移転仮登記について、本登記請求(ABの所有権移転登記請求)をすることが認められます。

最後に

今回は売買契約後に許可を得ないまま転用した事案について解説しました。
農地法は条文そのものも難解ですが、それだけでは分からないことも多いですね。
自分もまだまだ勉強が必要だなと日々痛感します。
また、違反転用後に非農地化してしまった場合も同様に売買契約は有効と解されています。

農地の違反転用の定義とは?事例と行政の対応

農地の違反転用の定義、具体的な事例、その対処について解説します。農地の違反転用に気づいてしまった場合は速やかに役所に相談しましょう。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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【参考文献:農地法講義三訂版(宮崎直己)頁147】


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