農地転用許可申請が不許可になったら?代金返還請求はできる?
転用目的で農地等の売買契約等を締結する場合、当事者双方が農地法5条の許可を受ける必要があります。
その際、買主が売主に対して当該許可申請に協力を求める権利を一般的に転用許可申請協力請求権と呼称します。
転用許可申請協力請求権は、契約成立から5年以内に行使しないと権利が消滅します。
【根拠法令:民法166条1項1号】
なお、転用目的で農地の売買をした後、5条許可申請をする前に当該農地が市街化区域に指定された場合、転用許可申請協力請求権は、届出協力請求権に変化します。
そして、これも売買契約時から5年を経過することによって時効消滅すると解されます。
以下、具体的な事例で解説しましょう。
事例
買主Bは、売主Aから、転用目的でA所有農地の売買契約を結んだ。その際、Bは、5条許可を条件とする条件付所有権移転の仮登記をした。Bは、売買契約に基づ、Aに対し売買代金1000万円のうち300万円を支払った。ところが、契約時点から5年以上の期間が経過した。
Q1 仮登記の抹消請求について
Aは、Bに対し仮登記の抹消を求めることは可能でしょうか?
A1 手続きを踏めば可能
条件付所有権移転の仮登記とは、所有権移転請求権を保全するための仮登記です。
仮登記はそれ自体に権利を変動させる効果はありません。しかし、仮登記には、本登記の順位を保全する力が認められています。
そのため、もし第三者が後出しで所有権移転登記をしてしまっても、先に仮登記をした者が本登記をすれば第三者に対抗することができます。
【根拠法令:不動産登記法105条2号、106号】
このケースでは、BのAに対する転用許可申請協力請求権について5年の消滅時効が完成しました。この場合、Aが消滅時効の完成を援用することによって、Bの所有権移転本登記手続請求権は消滅します。すると、仮登記は存在意義を失い、AはBに対し、条件付所有権移転仮登記の抹消を求めることができると考えられます。
(横浜地裁小田原支部昭和4.3.25)
Q2 代金返還請求について
仮に消滅時効が完成する前に、A・Bが5条許可申請を行ったが対象農地が農用地区域内にあるという理由で不許可処分を受けた。
この場合、Bは残代金の支払いを拒絶することはできるでしょうか?また、BはAに対し、既に支払った300万円の返還を請求できるでしょうか?
A2 手続きを踏めば可能
この問題は、民法上の危険負担の問題となります。
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
民法536条1項
これは、債務者が履行不能の危険を負担するという意味です。これを債務者主義といいます。
設例では、Aが債務者であり、Bが債権者に当たります。
そのため、Bは残代金の支払いを拒否することができます。これを履行拒絶権といいます。
また、対象農地が農用地区域内にあるという理由で不許可処分を受けた場合は、どう足掻いても履行は不可能です。農地法上、農用地区域の農地は原則として転用不可です。そのため、不許可が決した以上は争う意味はほぼありません。
ただし、Bは既に300万円を支払ってしまっています。これをAから取り戻すためには、覆行不能を理由として契約を解除する必要があると解されます。
(催告によらない解除)
次に掲げる場合には、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
民法542条1項
- 債務の全部の履行が不能であるとき。
- 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
- 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
- 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達成することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
- 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
最後に
今回は転用許可申請協力請求、不許可になった場合の売買代金返還請求について解説しました。
このように、農地転用を学ぶ上では民法の知識が必要であることが分かりますね。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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【参考文献:農地法講義三訂版(宮崎直己)頁145】