森林の立木を伐採する際の手続き:伐採及び伐採後の造林の届出書
立木を伐採する際は、事前に伐採届が必要な場合があります。
この届出をしないで伐採をしてしまった場合、処罰の対象となる場合があります。
今回は、立木を伐採する際の手続きについて解説します。
目次
手続きの概要
どのような場合に手続きが必要か?
伐採届出手続きはいかなる場合でも必要というわけではありません。
これは、伐採しようとする立木が「※地域森林計画対象民有林(以下、計画林)」に指定されている場合に必要です。
※地域森林計画対象民有林とは
都道府県が5カ年計画で継続的に管理することが義務付けられている森林のこと。ちなみに民有林とは私有地以外にも地方自治体が保有する森林も含まれます。つまり、国以外の者が保有している森林が民有林です。
都道府県知事は、全国森林計画に即して、森林計画区別に、その森林計画区に係る民有林(中略)につき、五年ごとに、その計画をたてる年の翌年四月一日以降十年を一期とする地域森林計画をたてなければならない。
根拠法令:森林法第5条
では、この計画林に指定されているかどうかを調べるためにはどうすればよいのでしょうか?
結論から言うと、所轄の役所の森林課に対象地域の住所を伝えて直接問い合わせるしかありません。
否、厳密に言えば他にもっと効率のいい方法もあるのかもしれません。
しかし、少なくとも自分の経験上、例外なく役所に直接問い合わせるしか方法はありません。
こればかりは令和6年現在でもインターネットで一般公開されている自治体を自分は知りません。
ただし、電話やメールでの問い合わせに応答してくれる良心的な自治体も存在します。
どのような規模の伐採をする際に手続きが必要か?
計画林の樹木を1本でも伐採する場合は手続きが必要です。
これは例え対象地が私有地であろうとも免除されません。
また、伐採面積が1ha(1万㎡)を超える開発目的であれば、林地開発許可という別の許可申請が必要となります。
なお、森林を開発して太陽光発電設備を設置する場合、面積が0.5ha(5千㎡)を超えるものは林地開発許可が必要となります。
誰が手続きを行うのか?
申請の対象者は以下のいずれかの者です。
- 森林所有者
- 実際に伐採を行う者
- 立木を買い受けた者
なお、森林所有者と立木を伐採する者・伐採後の造林を行う者が異なる場合は、共同で申請する必要があります。
伐採後には造林が必要
法律上、計画林の伐採の後には必ず造林をしなければなりません。
そのため、伐採届を提出する際には造林計画も同時に提出する必要があります。
つまり、前提としてこの手続きは一時的な開発行為を行う場合を想定しています。
ただし、それでは永遠的に存続する建物等を建築するような開発行為は望めません。
このため、このようなケースでは伐採後に計画林除外手続きをする必要があります。具体的な方法については後述します。
申請書の概要
記載事項
申請書の記載事項は以下の通りです。
- 申請日
- 申請者の住所、氏名、連絡先
- 伐採する森林の所在地
- 適合通知書の希望の有無
また、以下の書類は別紙として必ず作成する書類です。実質的に申請書の一部と考えた方がいいです。
伐採計画書
伐採計画書の記載事項は以下の通りです。
- 伐採面積
- 伐採方法
- 伐採率
- 伐採目的
- 作業委託先
- 伐採樹種
- 伐採齢
- 伐採の期間
- 集材方法及び集材路の予定幅員・延長
造林計画書
伐採計画書の記載事項は以下の通りです。
- 造林面積
- 造林の方法別の造林の計画
- 伐採後において森林以外の用途に供されることとなる場合の用途
実際のフォーマット
自治体によって細部は変わりますが、実際のフォーマットは以下の通りです。
伐採及び伐採後の造林の届出書
伐採計画書
造林計画書
【画像出典:広島市HP】
作成方法
伐採及び伐採後の造林の届出書
①申請日
ここは空欄のままで提出してください。
②申請者の住所、氏名、連絡先(電話番号)
ここには申請者となる者の情報を省略せずに列挙します。ただし、連絡先(電話番号)の記載は任意です。
なお、森林所有者が伐採を第三者に依頼する場合、森林所有者と伐採者の両方の情報を記載します。
③伐採する森林の所在地
ここには不動産登記簿に記載されている住所を省略せずに転記します。
④適合通知書の希望の有無
適合通知書とは、伐採の許可通知のことです。この通知書が欲しい場合は「有」に〇を付けます。
伐採計画書
①伐採面積
ここには実際に伐採する地域の面積を記載します。
例えば1haの森林のうち、0.5haを伐採する場合は0.5haとなります。
その際、人工林と天然林ごとに面積を分けて記載しましょう。
ただし、人工林と天然林が混在して分からない場合も多いので、この区分はあくまでも基準です。
②伐採方法
伐採方法は、主伐(皆伐か択伐)か、間伐かを選択します。
主伐とは木を収穫し、木材としての利用を目的とした伐採のことを指します。
主伐はそこからさらに皆伐と択伐に分かれます。皆伐とは森林の全ての樹木を切ること、択伐は樹木の種類を選定して切ることです。
間伐とは、樹木の一部を伐採し、森林の本数密度を調整する作業を指します。
つまり主伐と間伐は伐採目的の違い、皆伐と択伐は伐採方法の違いです。
分かりやすく図にすると以下のようになります。
③伐採率
ここには森林全体の面積のうち、伐採する面積を比率で表した数値を記載します。
例えば1haの森林のうち、0.5haを伐採する場合は50%となります。
④伐採目的
ここには伐採の具体的な目的を記載します。
例えば、「宅地開発」や「太陽光発電施設設置」等のような書き方になります。
⑤作業委託先
これは伐採作業を第三者に委託した場合に記載します。森林所有者が自分で伐採作業をする場合は何も記載しません。
⑥伐採樹種
ここには伐採する樹種が明確に分かる場合は樹種を記載します。
錯雑林となっているため樹種が分からない場合は、所轄の役所に相談しましょう。
ただし、天然林の場合は全ての樹種までは判別できないのが普通なので、「広葉樹(スギ等)」と記載しておけば大半は問題なく受理されます。
⑦伐採齢
ここには伐採する樹木の樹齢が明確に分かる場合は樹齢を記載します。
錯雑林となっているため樹齢が分からない場合は、所轄の役所に相談しましょう。
天然林の場合は樹齢など判別できないのが普通なので、役所のほうで適切に処置してくれるのが普通です。
⑧伐採の期間
ここには実際に伐採作業を実施する期間を記載します。
この届出を役所に提出した日から最低でも30日以降、最長でも90日以内の日付を開始日として下さい。
これは、法律上は当該申請は伐採日の30日~90日前に提出することが定められているためです。
ただし、許可の見通しが分からない場合は「許可後速やかに実施」という書き方でも受理される場合があります。
細部は所轄の役所に相談してみてください。
⑨集材方法及び集材路の予定幅員・延長
集材方法は「集材路」「架線」「その他」の中からいずれかを選択します。
集材路とは、立木の伐採、搬出等のために林業機械等が一時的に走行することを目的として作設される仮道路のことです。
集材路を構築する場合は予定幅員・延長も記載します。
架線とは簡易的なロープウェイのことです。傾斜の厳しい山岳地帯で大型重機が進入できない場合などに使用されます。索道とも呼ばれます。
また、集材路も架線も構築するまでもないような開けた場所の伐採では「その他」を選択しましょう。
造林計画書
①造林面積
ここには造林の方法別の造林面積を記載します。
人工造林の場合
植栽か人工播種の別ごとに面積を記載します。
植栽は苗木を植えることで、播種は種を撒くことですね。
天然更新の場合
ここは萌芽更新か天然下種更新の別ごとに面積を記載します。
萌芽更新とは、伐採後に残された切り株から勝手に生えてくる新芽によって樹木を再生させる方法です。そのため、この方法をとる場合は再生可能な程度に根を残さなければなりません。
【画像出典:Wikipedia】
天然下種更新とは、あるがままの自然に任せるという意味です。
②造林の方法別の造林の計画
ここには前述した人工造林、天然更新の別ごとに以下の事項を記載します。なお、内容については読んで字の如くであるため解説は省略します。
- 造林期間
- 造林樹種
- 樹種別の造林面積
- 樹種別の植栽本数
- 作業委託先
- 鳥獣害対策
③伐採後において森林以外の用途に供されることとなる場合の用途
さて、第1章でも軽く触れましたが「永遠的に存続する建物等を建築するような開発行為」をする場合はここに伐採後の用途を記載します。
例えば「宅地」や「道路」や「太陽光発電施設」などです。
計画林の伐採後の造林を免れる唯一の手段が、ここに明確な用途を記載する事です。
また、ここに明確な用途を記載した場合は先述した「造林面積」「造林の方法別の造林の計画」の項目は全て空欄で提出します。
その他に提出が求められるもの
自治体にもよりますが、主に必要な添付資料は以下の通りです。
- 位置図
伐採位置が分かるように記載した地図等、グーグルマップで自分で作成します。 - 不動産の登記簿謄本
森林所有者の特定のため必要です。法務局で取得しましょう。 - 不動産登記簿の公図
土地の境界を示すために必要です。法務局で取得しましょう。 - 委任状
行政書士に提出を依頼する場合に必要です。
注意すべきこと
申請書提出後も手続きは続く
申請書を提出し、適合通知が届いても手続きは終わりではありません。
伐採作業を完了した後に、完了報告書を提出することが求められます。
「永遠的に存続する建物等を建築するような開発行為」をする場合
「永遠的に存続する建物等を建築するような開発行為」をする場合には、造林計画に伐採後の用途を記載する事で造林を免れることは先述しましたが、加えてもう一つ必要な作業があります。
それが、伐採完了後に土地の地目変更登記を実施することです。
土地の地目変更登記をしなければ、地目上は森林のままです。このため、確実に伐採後の地目変更登記をしましょう。
無許可で伐採してしまった場合
無許可による伐採は、100万以下の罰金に処せられる場合があります。十分に注意しましょう。
次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
一 第十条の八第一項の規定に違反し、届出書の提出をしないで立木を伐採した者
根拠法令:森林法第208条
最後に
今回は森林を伐採する際の手続きについて解説しました。
森林を伐採して家を建てたり太陽光発電施設を建築する場合はこのような手続きが必要になります。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が伐採手続きについて学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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