空家対策特別措置法の解説:空き家問題解消の手法と所有者の責務

近年、都市部から地方まで、日本全体で空き家問題が増加しています。
これに対処すべく導入されたのが、空家対策特別措置法です。
都市の景観損失や地域社会の安全への影響を防ぐため、この法律は所有者に対し一定の責務を課しています。
今回はこの法の目的や概要、市町村の権限、そして所有者が果たすべき役割について解説します。

空家対策特別措置法の目的

空家対策特別措置法の目的は2つあります。
1つは、問題のある空き家等の除却その他の対策を講じることを可能にすることです。
もう1つは活用が可能な空き家等の有効活用を行うことです。。

空家対策特別措置法の概要

この法律は、国が空き家等に関する施策の基本方針を策定し、特別区を含む市町村は「空家等対策計画」を策定し、実行することが求められています。
この法律により、市町村は、以下の行動が可能になりました。
1.空き家等への立入調査
2.所有者不明の空き家等の所有者調査のための固定資産税情報の内部利用
3.空き家等のデータベースの整理
4.適切な管理等が行われていない空き家等の所有者等に対する助言または指導
5.空き家を「特定空家等」として指定し、これについて除却その他の措置の勧告
6.特定空家等の所有者に対する措置命令の発令等
また、特定空家等の所有者がこれに従わない場合は、行政代執行によって特定空家等の除却等が可能になりました。

市町村の立入調査権

市町村長は、区域内にある空き家等の所在および空き家等の所有者等を調査することができるとされています。
具体的には以下の行動をすることができます。

  1. 敷地外からの外観調査
  2. 近隣住民への聞き取り調査
  3. 不動産登記簿等の調査
  4. ガス、電気、水道等の利用状況調査
  5. 住民票や戸籍謄本の調査等の任意調査
  6. 必要に応じて内部に立ち入り、柱や梁等の状況を確認する等の調査

【根拠法令:空家対策特別措置法9条

また、立入調査を実施する際は、職員等は身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示することが義務付けられています。

助言または指導

市町村は、空き家等の所有者等に対し、適宜の通水、換気、清掃、除草等の助言を行うことができます。
また、空き家等を管理することが難しい所有者等については、管理を代行する専門業者に関する情報を提供することもできます。
【根拠法令:空家対策特別措置法12条

勧告

市町村長は、上記の助言または指導を行っても当該特定空家等の状態が改善されないと認めるときは、相当の猶予期限を設けて必要な措置をとることを勧告することができます。
この勧告がなされると、当該特定空家等に係る土地は住宅用地に係る固定資産税および都市計画税の課税標準の特例措置(居住用家屋の敷地において固定資産税等の課税標準額を最大で6分の1にする特例措置)の対象外とされ、固定資産税が増額されることになります。
【根拠法令:空家対策特別措置法13条2項

措置命令

市町村長は、勧告を受けた者が正当な理由がなくその勧告に係る措置をとらなかった場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置をとることを命ずることができます。
なお、勧告にかかる措置を行うための資金不足は「正当な理由」にはなり得ないと考えられています。
措置命令をした場合は、特定空家等に標識の設置等を行うことができ、その旨が公示されることになります。
【根拠法令:空家対策特別措置法14条3項

代執行

市町村長は、措置を命じられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、履行しても期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法の定めに従って、代執行が可能になりました(法14条9項)。
従来の行政代執行法では、所有者を確知できない場合には代執行が困難でした。
しかし、空家対策特別措置法では、所有者が不明な場合であっても代執行が可能です。
これにより、適切な管理が行われておらず、周辺の生活環境等に悪影響を及ぼすことが懸念される特定空家等に対して適切な対応がなされ、周辺の生活環境の維持を図ることが可能となります。
【根拠法令:空家対策特別措置法22条9項

空き家の所有者がすべきことは?

空家対策特別措置法は、空き家等の所有者の責務として、「空家等の所有者又は管理者は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する空家等に関する施策に協力するよう努めなければならない」と定めています。
【根拠法令:空家対策特別措置法5条

本来、民法上の所有権者は所有物をどのように扱っても許されます。売却しても放置してもいいのです。
しかし、家屋の場合はそうはいきません。
家屋を放置すると、倒壊等による死傷者の発生や、建物よって緊急避難路をふさいでしまうなどの防災上の問題、ゴミの不当利用による衛生問題、放置した樹木等から虫が発生する等の衛生上の問題、樹木等が伸び放題となったり、落書き等による見栄えの悪化等の景観などの社会環境上の悪影響を及ぼします。
そのため、空家対策特別措置法では、市町村の権限を強化して対策を講じることとしています。

所有者に課せられる義務はあくまで努力義務

しかし、基本的には空き家等の所有者が対策を講じるのが原則と考えられています。
この法律が空き家等の所有者等に求めているのは、「周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努める」ということで、これは空き家等の所有者に対して※努力義務を課したものです。
※努力義務とは
ある特定の目標や義務を達成するために、当事者が最大限の努力を払うことが期待される法的・契約上の原則のこと。違反しても刑事罰等は課せられないため、あくまで行政から国民へのお願いです。

空き家等の適切な管理

空き家等の所有者は、空き家が周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないようにするため、空き家等が倒壊して近隣に被害を与えることのないよう理解し、衛生上の問題や景観を悪化させないよう管理を行う必要があります。
具体的には、以下のような事項に配慮する必要があります。

建物が倒壊することのないよう適切な管理を行うこと

わが国では空き家の約3分の2が1981年6月1日よりも前に建築確認を得て建設された建物です。
すなわち、最新の耐震基準を満たしていない場合が大半です。
これらが老朽化等により倒壊して近隣へ迷惑をかけることのないよう、補修工事や耐震補強工事等に努めることが必要です。

衛生面や環境面で問題を生じないよう務めること

定期的に清掃や通風、通水を行い、樹木の伐採あるいはゴミ等を放置しないなど、衛生面や景観の維持に努める必要があります。

市町村による立入調査への応諾義務

市町村長は、必要がある場合には、必要な調査を行うことができます。また、職員等に立入調査をさせることができることが規定されています。
立入調査に際しては、所有者等に対し、調査の5日前までには通知をします。
【根拠法令:空家対策特別措置法9条3項
この立入調査を拒否した場合には20万円以下の※過料が課されます。
【根拠法令:空家対策特別措置法30条2項

※過料とは
行政上の秩序を維持するために、行政法規上の義務違反に対して少額の金銭を徴収するという罰則のこと。この罰則は行政法学では「行政上の秩序罰」として分類されています。刑罰ではありませんので、刑法や刑事訴訟法は適用されません。また、前科がつくこともありません。

空き家等の除却命令等に対する対応義務

空き家等の所有者が適切な管理を怠り、当該空き家等がそのまま放置されれば危険あるいは衛生上有害である等と判断されたもの(これを「特定空家等」といいます)について、市町村からの指導助言、勧告、措置命令等が出されます。
しかし、所有者がそれにも従わなかった場合には、最終的には行政代執行により当該空家等が除却され、その除却に要した費用は所有者等が負担しなければなりません。

法律上の特定空家等の定義

特定空家等とは、適切に管理されていない空き家等のうち以下の状態のものを指します。

  1. そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  2. 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
  3. 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
  4. その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

特定空家等に該当のおそれのある具体的な状態

上記の特定空家等の定義は抽象的なものです。
そのため、より具体的な内容として「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)に、参考となる基準が定められています。

そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態

    1. 建築物が倒壊するおそれがある
      基礎に不同沈下がある
      柱が傾斜している
      基礎が破損または変形している
      土台が腐朽または破損している等
    2. 屋根、外壁が脱落・飛散等するおそれがある
    3. 擁壁が老朽化し危険となるおそれがある
      擁壁表面に水がしみ出し、流出している

    そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態

    1. 建築物が破損しており吹き付け石綿等が飛散し暴露する可能性が高い
    2. 浄化槽等の破損等による汚物流出、臭気の発生等があり日常生活に支障を及ぼしている
    3. ごみ等の放置、不法投棄による臭気の発生、虫等の発生があり日常生活に支障を及ぼしている

    適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態

    1. 景観法に基づく景観地区の制限に著しく適合しない状態
    2. 地域で定められた景観保全にかかるルールに著しく適合しない状態
    3. 多数の窓ガラスが割れたまま放置されている
    4. 立木等が建築物の全面を覆う程度まで繁茂している
    5. 敷地内にごみ等が散乱、山積したまま放置されている

    その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

    1. 立木の枝等が近隣の道路等にはみ出し、歩行者の通行を妨げている
    2. 動物・虫類の発生等を原因として日常生活に支障を及ぼしている
    3. シロアリが大量に発生し、近隣の家屋に飛来し、地域住民の生活環境等に悪影響を及ぼすおそれがある
    4. 門扉が施錠されていない等、不特定の者が容易に侵入できる状態で放置されている
    5. 屋根の雪止めの破損など不適切な管理による落雪が発生し、通行を妨げている

    「特定空家等」は住居建物に限られない

    「空家等」とは「建築物又はこれに附属する工作物」であって使用がされていないことが常態であるものです。
    つまり、住居に限らず、店舗、事務所、倉庫、工場等すべての建築物が対象となります。
    これは特定空家等についても同様です。
    すなわち、前記のガイドラインが示しているのは、特定空家等の判断の参考基準です。
    つまり、ガイドラインに記載なき場合でも特定空家等に該当するケースがあります。

    所有者等の範囲

    所有者等は、所有者が高齢で施設に入所する場合や認知症により意思能力を喪失した場合、空き家の適切な管理や処分を委託された親族や、後見人となった者も含まれます。この範囲内には、法的責任や権限が生じる可能性があります。

    特定空家等に対する措置

    空家対策特別措置法では、 特定空家等に対して一定の措置をとることが定められています。
    その措置は以下の段階に区分されています。


    1. 市町村長による助言・指導
    2. 市町村長による勧告
    3. 市町村長による相当の猶予期限をつけた措置命令
    4. 市町村長による代執行

    助言指導後に市町村長から勧告を受けた場合の不利益

    特定空家等に該当すると判断された場合でも、いきなり勧告を受けることはありません。
    まずは市町村長から助言や指導が行われます。
    それにもかかわらず、改善されていないと判断された場合に勧告がなされます。

    勧告がなされると、当該特定空家等の敷地について、それが住宅用地として固定資産税や都市計画税の減額措置を受けている場合には、勧告を受けた年の翌年度から、その減額措置の適用対象から外れることになります。

    最後に

    今回は空家対策特別措置法の概要について解説しました。

    今回は以上で終わります。
    最後までご覧いただき、ありがとうございます。

    この記事が空き家問題について学びたい方の参考になれば幸いです。

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    投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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