農地法の許可申請は一人ではできない:双方申請の原則
農地法の許可申請は不動産登記と同じく、原則として申請者の双方が同時に申請しなければなりません。
宅建や司法書士の勉強をしたことがある方ならばイメージがしやすいかと思います。これを双方申請の原則と言います。
不動産登記の場合は共同申請という言い方がポピュラーですが、意味は同じです。
これは、農地法3条に列挙された権利は農地を売買・貸借またはそれ以外の権利を設定するものであるため、ほぼ全ての場合で最低でも2人以上の登場人物が出てくるからです。
今回は、農地法の双方申請の原則について解説します。
目次
農地法関連法令から読み解く双方申請の原則
農地法施行令では、以下のように定められています。
(農地又は採草放牧地の権利移動についての許可手続)
農地法施行令1条 農地法施行令 | e-Gov法令検索
農地法第3条第1項の許可を受けようとする者は、農林水産省令で定めるところにより、農林水産省令で定める事項を記載した申請書を農業委員会に提出しなければならない
これを受けて、農地法施行規則10条では以下のように定められています。
(農地又は採草放牧地の権利移動についての許可申請)
農地法施行規則10条 農地法施行規則 | e-Gov法令検索
農地法施行令第一条の規定により申請書を提出する場合には、当事者が連署するものとする。
当事者というのは、売買であれば売主と買主のことです。
このように、当事者が法3条の許可を受けようとする場合、双方の事者は、申請書に連署した上それを農業委員会に提出する必要があります。
なお、連署という用語は本来は手書きで筆記することを意味します。
しかし、現代ではパソコンが普及していますので、印字された書類でも受理されます。
ただし、審査の厳しい自治体では委任状等は手書きのものを求められる場合があります。事前に所轄役所に確認しましょう。
双方申請の原則に違反してしまった場合は?
この原則に反し、農地法3条の許可申請書が一方当事者の署名のみで提出された場合は、当該申請は形式的要件を欠く不適法なものとなります。
したがって、この場合、農業委員会としては行政手続法7条の規定に則り、申請者に対して申請内容の補正を求める行政指導を行うか、補正が困難である場合は、その取り下げを勧告することが相当となります。
(申請に対する審査、応答)
行政手続法7条 行政手続法 | e-Gov法令検索
行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。
申請者が、申請の補正または取り下げの指導に応じない場合は、申請を受け付けた上で却下処分がされます。
仮に農業委員会が判断を誤って、不適法な申請に対し許可処分 を出した場合、当該処分は、違法が認められる瑕疵ある処分となり、後日、取消しの対象となります。
単独申請が許容される場合
上記の原則に対して、農地法施行規則10条ただし書がその例外を定めています。
すなわち、以下の場合は、申請者は単独で許可の申請をすることが認められます。
単独申請が認められる場合
- 強制競売
- 担保権の実行としての競売
- 公売
- 遺贈その他の単独行為
- 判決の確定
- 裁判上の和解
- 請求の認諾
- 民事調停の成立
- 家事事件手続法の審判の確定調停成立
以下、特筆すべき事項について解説します。
強制競売の場合について
強制競売および担保権の実行としての競売は、いずれも民事執行法の定めるところによって行われます。
競売の手続は、※債務名義(例:確定判決等)を有し、かつ、執行文の付与を受けた債権者が裁判所に対して競売を申し立てることによって始まります。
対して、担保権の実行としての競売手続は担保権者(例:抵当権者)が、担保権の存在を証明する文書(例:抵当権の設定登記がされた不動産登記事項証明書等)を添えて裁判所に申し立てることによって始まります。
※債務名義とは
裁判所に強制執行を申し立てる資格を示す文書のことを指します。これは、債権の存在や範囲を公的に証明したものです。執行機関は債務名義に基づいて強制執行を行います。
執行競売の流れ
裁判所は、農地について強制競売または担保権の実行としての競売を行う場合、買受申出制限を行います。その結果、農地の買受申出をしようとする者は、農業委員会または都道府県知事等が発行する買受適格証明書を添付する必要があります。買受申出人は、買受適格証明書を添付して入札に参加します。
最高価買受申出人となった者は、農地法3条または5条の単独許可申請後、執行裁判所は、「売却決定期日」に売却の許可申請を行って許可書の交付を受け、それを執行裁判所に提出します。その売却許可決定が確定すると、最高価買受申出人から買受人となります。なお、公租(税金)公課(社会保険料)が滞納された場合、税務署等、この徴税機関は滞納処分によって滞納者の財産を差し押さえて売却しますが、このような売却を公売と呼びます。
遺贈その他の単独行為の場合について
単独行為とは当事者の一方の意思表示によって成立する法律行為です。
遺贈は単独行為であり、原則として、無償の所有権移転行為です。ただし、農地法3条許可を要するのは、包括遺贈および相続人に対する特定遺贈を除く遺贈です。具体的には、相続人以外の第三者または法人に対する遺贈がこれに当たります。
例えば、配偶者Cと長男Bの2人の家族を持つAが遺言を作成し、他人Dに対し、自分の所有する農地を遺贈した場合、許可を受ける必要があります。農地の遺贈義務を負うのは原則として相続人B・Cです。しかし、遺言執行者Eが指定されている場合は、Eのみが遺贈義務者となります。
では、遺贈の場合、誰が単独で農地法3条の許可申請をすべきでしょうか?
この場合、単独申請できる農地法上の資格者は、遺言執行者がいない場合は相続人C・Bとなります。遺言執行者がいる場合は遺言執行者Eおよび受遺者Dであると解されています。
判決の確定ほかの場合について
判決の確定ほかの場合は、いずれも裁判所における手続です。そのため、次のような場合が想定されます。
例えば、耕作目的で売主Aと買主Bが、A所有農地の売買契約を締結したが、Aが正当な理由がないのに農業委員会に対する農地法3条許可申請手続に協力しない場合、Bとしては、民事訴訟を提起した上で勝訴することによって権利を実現するほかはありません。
仮にBの勝訴判決が確定した場合、Bは単独で農地法3条の申請をすることができます。
ただし、Bが単独で農地法3条の許可申請することが認められたとしても、農業委員会で不許可処分を受けた場合は以降の手続に進むことはできません。
最後に
今回は農地法の双方申請の原則について解説しました。
農地法を理解するためには、まず民法の理解が必要だということが良く分かりますね。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地法について学びたい方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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