農業経営の変革期における法人化のメリット・デメリット

近年、農業経営の在り方は変革の時を迎えようとしています。
今後は、少子高齢化の波により戸数の減少が懸念され、その傾向に拍車がかかることが予想されます。
また、激動ともいえる農業の変革期において、すでに新たな農業の経営体が登場しています。
農業に従事する人たちの働き方の幅は広がってきています。
今回は、農業経営変革と法人化のメリット、今後の動向について解説します。

大規模化する農業経営体

全国で今、大勢の農家が一斉にやめる大量離農が起きています。
高齢による体力の低下や機械の破損などを理由に離農する人たちが後を絶ちません。
子どもは市街地で暮らして別の仕事をしており、後継者とはなりにくいのです。

なお、ここでいう「農家」とは、経営耕地面積が10a以上か、農産物の販売金額が15万円以上の世帯のことを指します。
また、「農業経営体」とは、こうした小規模な自給的な農家を除いた経営を指します。

大量離農と規模拡大

大量離農が進む裏で、残る農家のもとに農地が集まり規模の拡大が急速に進んでいます。
農林水産省が5年ごとにまとめている※農林業センサスを見てみましょう。
農家や農業法人などを合わせた農業経営体数は、2006年に193万戸だったのが2019年には118万戸と14年間で4割も減っています。
それに反比例するように、組織経営体は規模の拡大が進展しています。
※農林業センサス:農林水産省が実施している調査のこと。我が国の農林業の生産構造、就業構造を明らかにするとともに、農山村の実態を総合的に把握するために、5年ごとに農林業を営んでいるすべての農家、林家や法人を対象に調査を実施しています。
【参考文献:農林業センサスの概要:農林水産省

農業構造動態調査

【参考資料:農業経営体数(全国)

販売金額も増加

平均的な経営耕地面積別の農業経営体数を、 地域別に見てみま しょう。
北海道では100ha未満の階層が軒並み減少傾向にあります。
対して、100ha以上は1,300から1,600と2割以上増えています。

農業経営変革と法人化のメリット


都府県では4ha未満が全て減少しています。
対して、4ha以上は軒並み増えています。

農業経営変革と法人化のメリット



規模が拡大すれば、当然ながら販売金額も増えます。
販売金額別の農業経営体数を見た場合、3,000万円未満は減っているものの、5,000万円以上は増加しています。

農業経営変革と法人化のメリット

農業経営変革と法人化のメリット



これまで日本の農家は経営規模が小さく、販売金額はごくわずかで儲からないというイメージがありました。
しかし、上記の数字を踏まえると、実際は異なることがわかります。
大量離農によって1つの農業経営体の販売金額は、自然と大きくなっていくのです。
販売金額や経営面積の規模別の推移を見ると、北海道でも都府県でも大規模化していることがわかります。
「日本の農業は規模が小さく、儲からない」というイメージは、これを見ると間違っていることがわかりますね。

増え続ける農業法人

農業法人の数は右肩上がりを続けています。
個人経営の農家が法人化することもあれば、異業種の企業が農業参入して法人を立ち上げることもあります。

増え続ける法人化の波

農業構造動態調査によると、農産物を生産する法人経営体は2019年で2万3,400あり、2018年に比べ3.1%増加しました。
法人以外も含む農業経営体は118万8,800で、前年比2.6%の減です。
【参考資料:令和4年農業構造動態調査(令和4年2月1日現在):農林水産省 (maff.go.jp)
2019年には農業の担い手である認定農業者のうち、法人の割合が1割を超えました。
農業法人は存在感を増しています。

税制面における法人化のメリット

法人が増えるのはやはりメリットがあるからです。
まず、家族経営を法人化すると、財務諸表の作成が義務化されます。
そのため経営管理が徹底されて、銀行や取引先への対外的な信用が高まります。
また、就業規則が定められたり社会保険や労働保険に加入したりすることで、従事者の福利厚生も充実します。
継承の選択肢が増えるのも重要です。
個人農家で身内に跡取りがいないと、廃業の可能性が高くなります。
しかし、法人なら従業員に経営を譲ることもできます。
優良経営なら会社を売るという選択肢もあります。
税制面でのメリットも見すごせません。
個人経営の場合、所得に一律に所得税が掛かり、最高で45%の累進課税が適用され、内部留保がしにくいといえます。
法人の役員報酬は損金に算入することができますし、加えて内部留保にかかる法人税は通常20% 少々です。
つまり、所得が高い経営体ほど法人化すると節税になるというわけです。

税制面における法人化のデメリット

一方で、デメリットもあります。
コストの面でいえば、各種社会保険などの福利厚生費が増加します。税理士の顧問料が増える可能性があります。
法人登記をする際に司法書士、定款作成に行政書士が携われば費用は増加します。
なお、地方自治体に納める法人住民税は、個人住民税と違って赤字でも納めなければなりません。
また、社員が定着するとは限りません。
優秀な人に限って独立してしまうということもあり得ます。

このように、法人化は問題を一挙に解決するようなものではありません。
まず、メリットとデメリットを把握すること。
そして経営で実現したいことと合うのかどうか、よく吟味する必要があります。

最後に

今回は農業経営変革と法人化のメリット等について解説しました。
農業を取り巻く環境は一層の変化を遂げていきます。
農業経営者は経営変革と法人化のメリット・デメリットについて常に検討することが求められるでしょう。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農業について学びたいと考えられている方の参考になれば幸いです。

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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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