農地の貸主から賃料の値上げを要求されたら?
農地の貸主が賃料の値上げを要求してきた場合、借主はどう対象すべきでしょうか?
現代はあまり見られませんが、昔はこういった問題が頻繁に起きていたようです。
昔は今ほど不動産賃貸借の借主の立場が尊重されておりませんでした。
「嫌なら出ていけ」といったように理不尽な対応をする貸主もいたと聞きます。
現在では手厚く借主の権利は保護されていますので、昔ほどこのようなケースは起こらないかと思います。
しかし、賃料の交渉権は貸主と借主の双方が平等に行使できる権利です。
いつ、このような係争に巻き込まれるかは分かりません。
そこで今回は農地の賃料値上げへの対処法について解説します。
目次
賃料の増額・減額請求は貸主と借主の権利
そもそも一方的な増額請求が現代において合法なのかどうかというと、合法です。
農地法では、賃借権等が設定されている場合は賃料の増額請求権が認められています。
第20条 借賃等(…)の額が農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により又は近傍類似の農地の借賃等の額に比較して不相当となつたときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かつて借賃等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間借賃等の額を増加しない旨の特約があるときは、その定めに従う。
農地法 第20条1項
また、当該請求権は貸主からの減額請求のみでなく借主からの減額請求も認められます。
請求権の行使のための要件
賃料増額・減額請求権を行使するための要件は、賃料が農産物の価格差しくは生産の請負等の割にして不相当となったことです。
例えば、10年前と現在とを比較して、特定の作目の重量当たり価格が100倍になったような場合は増額請求が可能ということになります。
また、生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動などの諸般の事情も加味されます。
ただし、農地の固定資産税の増加は経済事情の変動には当たらないと判断されています。
【参考判例:最判平13.3.28】
請求権の行使の方法
賃料増額・減額請求権は、当事者の一方が賃料の増額・減額を請求すると発生します。
この際、特に相手方の同意は必要ありません。
これは学説上、賃料の増額・減額請求権の行使は※形成権と解釈されているためです。
※形成権:単独の意思表示のみによって法律効果を生じさせることのできる権利のこと。
ただし、賃料の増額または減額の効果が発生するためには前述の要件を満たしている必要があります。
例えば、賃料が適正な金額にも関わらず一方的に増額しても法的効果は生じません。
ただ、相手方が異議を唱えずその増額要求に応じれば賃料額増減の効果は発生します。
具体例
では、具体例を挙げて整理してみましょう。
農地の賃貸人Aと賃借人Bは、年間賃料10万円とする農地賃貸借契約を結んでいる。
しかし、Aは当該資料は近傍農地の賃料と比較して低すぎると判断し、Bに対し次年度から年間賃料を15万円とするよう一方的に通知した。
Bはこれを認めないため裁判が開始された。
さて、このケースで以下の問題について検討しましょう。
裁判係属中、BはAに対し賃料をいくら支払うべきか?
結論:従来通り10万円を支払えばよい。
これは、農地法上、裁判確定までは相当額を支払うことをもって足りると明記されているためです。
【根拠法令:農地法第20条第2項】
このため、Aが10万円を不服として受領拒否した場合でも必ず一方的に支払い続ける必要があります。
もし支払いを止めてしまった場合、賃料不払いを理由として賃貸借契約の解除をされるおそれがあります。
Aがどうしても受領を拒絶する場合は法務局に供託しましょう。
裁判の結果、適正な賃料は12万円と決まった場合、 BはAに対し賃料としていくら支払うべきか?
結論:不足分の2万円に利息10%を足した金額を請求時から遡って支払わなければならない。
これは、借主が裁判に負けてしまった場合の話です。
裁判は勝負です。負けた以上は相手の要求を呑む以外に選択肢はありません。
なお、残念ですが不足分だけではなく利息も含めて支払わなければなりません。
【根拠法令:農地法第20条第2項】
最後に
今回は農地の賃料値上げへの対処について解説しました。
穏便に済ませられれば問題無いのですが、係争に発展した場合は速やかに弁護士に相談しましょう。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地の賃料値上げ問題について学びたいと考えられていた方の参考になれば幸いです。
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投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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【参考文献:農地法講義三訂版(宮崎直己)頁101~103】