民法改正の最新情報について

民法改正は法律を生業とする者にとっては必ず確認しなければならない鬼門の一つです。
民法は全ての法律の根幹となる法律です。
そのため、民法が改正されれば全ての法律も影響を受けざる負えません。
それほど重要な法律なので、民法は通常は滅多なことでは改正はされません。
しかし、近年は短い期間で民法の改正が相次いでいます。
世の中の進化の速度が速すぎて法律が現代に追い付いていないのですね。

今回は、民法改正のうち、所有者不明土地問題に関連するものを解説します。
なお、この記事の民法改正情報は令和5年12月現在のものです。ご了承ください。

目次

相隣関係の見直し

相隣関係とは、隣接する不動産の所有者間において、通行・流水・排水・境界などの問題に関して相互の土地利用を円滑にするために、各自の不動産の機能を制限し調整し合う関係のことを言います。 
規程が曖昧な部分が多かったため、長年、民法改正が望まれていた分野でした。

隣地使用権

従来の規定

従来の民法では、土地の所有者は、障壁又は建物を築造・修繕するため必要な範囲内で隣地の使用を請求することができると定められていました。
(旧民法209Ⅰ本文)
しかし、この条文では「使用を請求」するための具体的な方法が分かりません。
そのため、隣地の所有者が所在不明である場合は基本的にお手上げでした。
一応は※公示送達をするという手段もあります。しかし、裁判所を介するため、あまり現実的ではありません。
※所在不明者への伝達を裁判所の掲示板に2週間掲示すれば相手に到達したとみなす方法です。手続きが非常に難しく、また、どんな場合でも認められるものではありません。
また、障壁・建物の築造・修繕以外で隣地を使用できるかどうかが不明確です。

民法改正後の規定

隣地使用の目的

民ぽ改正により、隣地使用が認められる目的が以下のように明確化されました。

  1. 障壁、建物その他の工作物の築造、収去、修繕
  2. 境界標の調査・境界に関する測量
  3. 民法第233条3項による越境した枝の切取り
    【根拠法令:民法第209条1項】
使用場所の選定基準・隣地所有者等への通知

また、隣地所有者・使用者の利益への配慮ため、以下の条件も加えられました。

  1. 隣地使用の日時・場所・方法は、隣地所有者及び隣地使用者のために損害が最も少ないものを選ばなければならない
    民法第209条第2項
  2. 隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
    民法第209条第3項

上記の「通知が困難な時は使用の後に通知できる」という部分が重要です。
この通知が困難な場合とは、主に以下の場合が想定されています。

  1. 急迫の事情がある場合(建物の外壁が剥落する危険があるときなど)
  2. 隣地所有者が不特定又は所在不明である場合(現地や登記簿・住民票等の公的記録を調査しても所在が判明しないとき)

すなわち、隣地所有者が所在不明等の場合、所在が判明した後に遅滞なく通知すれば良いとされたのです。

そのため、公示送達により通知する必要もありません。
また、あらかじめ通知する場合は最低でも隣地使用の2週間前にはする必要があります。

ライフラインの設備の設置・使用権

従来の規定

従来の民法では、他人の土地や設備を使用しなければライフラインを構築できない土地(例:四方を他人の土地に囲まれた土地)の所有者は、他人の土地への設備の設置や他人の設備の使用をすることができると解されていました。
このライフラインとは、電気、ガス、水道、電話、インターネット等が含まれます。
ただし、これは条文上の明確な根拠はありません。
相隣関係の規定から、そう解釈せざる負えなかったのです。
つまり、相手が交渉に応じない場合や、所有者が所在不明である場合はお手上げでした。
また、事前の通知の要否や土地等の使用に伴う償金の支払義務などが不明確でした。

民法改正後の規定

設備設置権(他の土地にライフラインの設備を設置する権利)の明確化

民法改正により、他の土地を利用しなければライフラインを受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に当該設備を設置する権利を有することが定められました。
民法第213条の2第1項
また、 隣接していない土地についても、必要な範囲内で設備を設置することが可能です。
なお、 土地の分割・一部譲渡によって継続的給付を受けることができなくなった場合は、分割者又は譲渡者の所有地のみに設備設置ができます。
民法第213条の3

設備使用権(他人が所有するライフラインの設備を使用する権利)の明確化

他人が所有する設備を使用しなければライフラインを受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他人の所有する設備を使用する権利を有することがを定められました。
民法第213条の2第1項

場所・方法の限定

設備の設置・使用の場所・方法は、他の土地及び他人の設備のために損害が最も少ないものに限定されます。
民法第213条の2第2項
設備設置等の方法が複数ある場合、最も損害が少ない方法を選択しなければなりません。
また、 設備を設置する場合には、公道に通ずる私道や公道に至るための通行権の対象部分があれば、通常はその部分を選択することになります。

事前通知の規律の整備

他の土地に設備を設置し又は他人の設備を使用する土地の所有者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地・設備の所有者に通知しなければならないと定められました。
民法第213条の2第3項
ただし、この場合は相手方が所在不明等である場合にも例外なく通知が必要です。

.償金・費用負担の規律の整備

他の土地に設備を設置し以下の損害が生じた場合、償金負担義務が定められました。

  1. 設備設置工事のために一時的に他の土地を使用する際、土地の所有者等に生じた損害
    例:他の土地上の工作物や竹木を除去したために生じた損害
    償金は一括払いです。
    民法第213条の2第6項第209条第4項
  2. 設備の設置により土地が継続的に使用できなくなることによって他の土地に生じた損害
    例:給水管等の設備が地上に設置され、その場所の使用に制限されることに伴う損害
    償金は1年ごとの定期払が可能です。
    民法第213条の2第5項

なお、上記の損害とは1については実損害、2は設備設置部分の使用料相当額です。
そのため、設備を埋設して地上の利用を制限しない場合、損害が無いことがありえます。
設備の設置を承諾することに対する承諾料を求められても、応ずる義務はありません。
また、土地の分割又は一部譲渡に伴い、分割者又は譲渡者の所有地のみに設備の設置しなければならない場合には、2の償金は免除されます。

他人が所有する設備の使用権
賞金の支払義務

土地の所有者は、その設備の使用開始の際に損害が生じた場合に、償金を支払うこととされました。
例:設備の接続工事の際に一時的に設備を使用停止したことに伴って生じた損害
償金は一括払いです。
民法第213条の2第6項

修繕費用等の負担義務

土地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、設備の修繕・維持等の費用を負担することとなりました。
民法第213条の2第7項

越境した竹木の枝の切取り

従来の規定

従来は、土地の所有者は隣地の竹木の根が境界線を越えるときは切り取ることができました。
しかし、枝が境界線を越えるときはその竹木の所有者に枝を切除させる必要がありました。
(旧民法233)

このため、竹木の所有者が枝を切除しない場合、裁判で強制執行をするほかありません。
しかし、そんなことで一々裁判をすることは非現実的です。
また、竹木が共有物の場合、枝を切除しようとしても共有者全員の同意が必要でした。(変更行為に該当するため)
これもまた非常に面倒で非現実的ですね。

民法改正後の規定

土地所有者による枝の切取り

民法改正により、越境された土地の所有者は以下の場合には枝を自ら切除できるようになりました。

  1. 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したが、相当の期間内に切除しないとき
    この相当の期間とは2週間程度と考えられています。
  2. 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
  3. 急迫の事情があるとき
  4. 民法第233条3項
竹木の共有者各自による枝の切除

竹木が共有物である場合には、各共有者が越境した枝を切除できるようになりました。
なお、竹木の共有者の一人から承諾を得れば、越境された土地の所有者などの他人がその共有者に代わって枝を切り取ることもできます。
民法第233条2項

切除に掛かった費用

越境された土地所有者が自ら枝を切り取る場合の費用については、基本的に竹木の所有者に請求できると考えられています。

共有の見直し

従来の規定

各共有者は、持分に応じて共有物を使用することができます。
(民法249)
共有者相互の関係を調整するため、以下の規定が定められています。

  1. 共有物に変更を加える(農地→宅地など)には、共有者全員の同意が必要
  2. 管理に関する事項(使用する共有者の決定など)は、各共有者の持分の過半数が必要
  3. 保存行為(補修など)は、各共有者が単独ですることができる

一見すると何の問題もない規定のように感じます。
しかし、所有者不明土地問題が明らかになると以下のような問題が顕れました。

  1. 変更・管理に必要な同意を取り付けることが困難で、土地の利用に支障を来す
  2. 対処方法として共有関係の解消(共有物分割訴訟など)があるが、手続上の負担が重い

また、これらの問題は、相続された土地に限らず共有物一般に起こり得ます。

民法改正後の規定

共有物の利用拡大

共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化
軽微変更についての規律の整備

共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないものは、持分の過半数で決定できるようになりました。
民法第251条第1項252条1項

短期賃借権等の設定についての規律の整備

以下の期間を超えない短期の賃借権等の設定は、持分の過半数で決定できるようになりました。

  1. 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕
  2. 1に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕
  3. 建物の賃借権等 〔3年〕
  4. 動産の賃借権等 〔6か月〕

252条4項

共有物を使用する共有者がいる場合のルール

共有物を使用する共有者がある場合でも、持分の過半数で管理に関する事項を決定できるようになりました。
252条1項
このため、共有物を使用する共有者の同意なく、持分の過半数でそれ以外の共有者に使用させる旨を決定することも可能です。
ただし、配偶者居住権により居住する場合は除かれます。
とはいえ、他の共有者に受忍の限度を超えて不利益を生じさせるような管理方法を定めることはできません。
例:ABC共有の住宅にAが居住している。Aは他に住居が無く、BCは他に住居がある。この場合にBCが過半数の同意をもって当該住宅をBの事務所にすることを決定するような場合。

共有物を使用する共有者の義務

共有物の使用者は、他の共有者に対し自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います。
ただし、共有者間で無償とする等の合意がある場合は、その合意に従うことになります。
民法第249条第2項
また、共有者は、※善良な管理者の注意をもって共有物の使用をしなければならないと定められました。
※最大限の注意という意味です。
民法第249条第3項

賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理

賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定できるようになりました。
252条2項2号)。
ただし、変更行為はすることはできません。
また、賛否を明らかにしない共有者が持分を失うことになる行為もできません。(例:抵当権の設定等)
なお、賛否を明らかにしない共有者の持分が他の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が賛否を明らかにしない場合であっても、この規定は利用できます。

共有物の管理者

共有物の管理者について、以下のように定められました。

  1. 選任・解任は、共有物の管理のルールに従い、共有者の持分の過半数で決定
    共有者以外の者を管理者とすることもできます。
  2. 管理者は、管理に関する行為(軽微変更を含む)をすることができる。軽微でない変更を加えるには、共有者全員の同意を得なければならない。
    所在等不明共有者がいる場合には、裁判所の決定を得た上で、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得て、変更を加えることができます。
  3. 管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決定した場合、従わなければならない。
    違反すると共有者に対して効力を生じません。しかし、※善意の第三者には無効を対抗することができません。
    ※このような規定を知らない第三者には関係ないという意味です。
共有の規定と遺産共有持分

遺産共有状態にある共有物に共有に関する規定を適用するときは、法定相続分(相続分の指定があるケースは、指定相続分)により算定した持分を基準とすることが定められました。
民法第898条第2項

共有関係の解消促進

民法上、共有という状態は権利関係を複雑にするため望ましくないと考えられています。
このため、共有状態の解消のため以下のような規定が策定されました。

裁判による共有物分割

裁判による共有物分割の方法として、※賠償分割ができることが定められました。
※共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
民法第258条第2項
また、現物分割・賠償分割のいずれもできない場合または分割によって共有物の価格を著しく減少させるおそれがある場合に、競売分割を行うことが定められました。
これにより、検討順序が明確化されました。
民法第258条第3項
また、裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることが
できることが定められました。
民法第258条第4項

所在等不明共有者の不動産の持分の取得

共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を取得できることが定められました。
民法第262条の2
この場合、 所在等不明共有者は、持分を取得した共有者に対する時価相当額請求権を取得できます。
なお、遺産共有のケースでは相続開始から10年を経過しなければこの規定を利用できません。

所在等不明共有者の不動産の持分の譲渡

裁判所の決定によって、申立てをした共有者に所在等不明共有者の不動産の持分を譲渡する権限を付与できることが定められました。
民法262の3
この譲渡権限は、所在等不明共有者以外の共有者全員が持分の全部を譲渡することを停止条件とするものです。
そのため、不動産全体を特定の第三者に譲渡するケースでのみ可能です。
また、一部の共有者が持分の譲渡を拒む場合には、条件が成就せず、譲渡をすることはできません。
なお、所在等不明共有者の持分は、直接、譲渡の相手方に移転します。

財産管理制度の見直し

土地・建物の管理制度の創設

所有者不明土地・建物管理制度

従来の規定

従来の規定は、土地・建物の所有者が調査を尽くしても不明である場合には、土地・建物の管理・処分が困難でした。
また、公共事業の用地取得や空き家の管理など所有者の所在が不明な土地・建物の管理・処分が必要であるケースでは、所有者の属性等に応じて下記の財産管理制度が活用されていました。

  1. 不在者財産管理人
    自然人の財産の管理をすべき者がいない場合に、家庭裁判所により選任され、不在者の財産の管理を行います。
  2. 相続財産管理人
    自然人が死亡して相続人がいることが明らかでない場合、家庭裁判所により選任され、相続財産の管理・清算を行います。
  3. 清算人
    法人が解散し清算人となる者がない場合に、地方裁判所により選任され、法人の財産の清算を行います。

しかし、これらの財産管理制度は対象者の全財産を管理するの仕組みであり労力が過大でした。また、所有者を全く特定できない土地・建物については、利用することができないことも問題でした。

民法改正後の規定

特定の土地・建物のみに特化して管理を行う所有者不明土管理制度及び所有者不明建物管理制度が創設されました。
(新民法264の2~264の8)
これにより、管理命令の効力は、所有者不明土地(建物)のほか、土地(建物)にある所有者の動産、管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)、建物の場合はその敷地利用権(借地権等)に限られ、その他の財産には及ばないことになりました。
(新民法264の2Ⅱ、264の8Ⅱ)

発令条件

発令条件は以下の2通りです。

  1. 調査を尽くしても所有者又はその所在を知ることができないこと
  2. 管理状況等に照らし管理人による管理の必要性があること

なお、区分所有建物については所有者不明建物管理制度は適用されません。

所有者の調査方法

調査方法として認められる例は以下のものが挙げられます。

  • 登記名義人が自然人である場合
    登記簿、住民票上の住所、戸籍等を調査
  • 登記名義人が法人である場合
    法人登記簿上の主たる事務所の存否のほか、代表者の法人登記簿上・住民票上の住所等を調査
  • 所有者が法人でない社団である場合
    代表者及び構成員の住民票上の住所等を調査

このように、原則として公示送達のような強制力のある方法をとることは難しいようです。

管理人の権限と義務
  • 対象財産の管理処分権は管理人に専属し、所有者不明土地・建物等に関する訴訟(例:不法占拠者に対する明渡請求訴訟)においても、管理人が原告又は被告となります。
    民法264の4264の8第5項)
  • 管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て、対象財産の処分(売却、建物の取壊しなど)をすることも可能です。
    不明相続人の遺産共有持分について選任された管理人は、遺産分割をする権限はないが、遺産共有持分に係る権限の範囲内での管理行為や、持分の処分が可能です。
    民法264の3第3項264の8第5項)
  • 管理人は、所有者に対して善管注意義務を負います。
    また、数人の共有者の共有持分に係る管理人は、その対象となる共有者全員のために誠実公平義務を負います。
    民法264の5264の8第5項)
  • 管理人は、所有者不明土地等から、裁判所が定める額の費用の前払・報酬を受けることができます(費用・報酬は所有者の負担です)
    (民法264の7第1~2項)
  • 土地・建物の売却等により金銭が生じたときは、管理人は、供託をし、その旨を公告しなければなりません。
    非訟法90Ⅷ、XⅥ

管理不全土地・建物管理制度

従来の規定

従来の規定では、危険な管理不全土地・建物については、物権的請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権等の権利に基づき訴えを提起して強制執行をすることによって対応していました。
しかし、管理不全状態にある不動産の所有者に代わって管理を行う者を選任する仕組みは存在しませんでした。

民法改正後の規定

管理不全土地・建物について、裁判所が利害関係人の請求で管理人による管理を命ずることができる管理不全土地・建物管理制度が創設されました。
民法264の9264の14
利害関係の有無は、個別の事案に応じて裁判所が判断します。

発令要件

所有者による土地又は建物の管理が不適当であることによって、権利・法的利益が侵害され、又はそのおそれがあり、土地・建物の管理状況等に照らし、管理人による管理の必要性が認められる場合に発令されます。
なお、 所有者が発令に反対していても、法律上は発令可能です。

管理人による管理の対象となる財産

管理命令の効力は以下のものに及びます。

  1. 管理不全土地(建物)
  2. 土地(建物)にある所有者の動産
  3. 管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)
  4. 建物の場合はその敷地利用権(借地権等)

なお、 管理不全土地上に管理不全建物がある場合、土地・建物両方を管理命令の対象とするためには土地管理命令と建物管理命令の双方を申し立てる必要があります。

管理人の権限・義務等

管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得ることにより、これを超える行為をすることも可能です。
ただ、土地・建物の処分をするには、その所有者の同意も必要となります。
しかし、 動産の処分については所有者の同意は不要です。
民法264の10Ⅲ、264の14Ⅳ)

管理処分権は管理人に専属するものではありません。
管理不全土地・建物等に関する訴訟においても、所有者自身が原告又は被告となります。

管理人は、所有者に対して善管注意義務を負います。
また、管理命令が共有の土地・建物について発せられたときは、共有者全員のために誠実公平義務を負います。
民法264の11264の14Ⅳ)

管理人は、管理不全土地等から、裁判所が定める額の費用の前払・報酬を受けることができます。
(管理費用・報酬は、所有者の負担です)
民法264の13Ⅰ・Ⅱ、264の14Ⅳ)

金銭が生じたときは、管理人は、供託をし、その旨を公告しなければなりません。
非訟法90Ⅷ、XⅥ

財産管理制度の相互関係

土地の所有者の所在が不明である場合には、どの財産管理制度を利用するかは、申立人自身で適宜選択することができます。

既存の財産管理制度の見直し

相続人不存在の相続財産の清算手続の見直し

従来の規定

従来は、相続人が不明な場合、相続財産の清算手続には以下の手順が必要でした。

  1. 相続財産管理人の選任の公告
  2. 相続債権者等に対する請求の申出をすべき旨の公告
  3. 相続人捜索の公告

それぞれの公告手続は同時にすることができません。
そのため、権利関係の確定に最低でも10か月間を要しました。

民法改正後の規定

選任の公告と相続人捜索の公告を統合して一つの公告でできるようになりました。
また、これと並行して、相続債権者等に対する請求の申出をすべき旨の公告ができるようになりました。
民法952Ⅱ、957Ⅰ)
これにより、権利関係の確定に最低必要な期間は合計6か月へと短縮されました。
あわせて、その職務の内容に照らして、相続人のあることが明らかでない場合における「相続財産の管理人」の名称が「相続財産の清算人」に変更されました。

財産管理制度に関するその他の見直し

相続財産の保存のための相続財産管理制度の見直し
従来の規定

従来は、相続財産が相続人によって管理されないケースに対応するために、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任するなど、相続財産の保存に必要な処分をすることができる仕組みを相続の段階ごとに設ていました。
しかし、共同相続人による遺産共有状態であるケースや、相続人のあることが明らかでないケースについては、規定がなく、相続財産の保存に必要な処分ができないという問題がありました。

民法改正後の規定

相続が開始すれば、相続の段階にかかわらず、いつでも家庭裁判所は相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分をすることができるようになりました。
民法897の2

相続の放棄をした者の管理義務の明確化
従来の規定

相続放棄をした者は、相続財産の管理を継続しなければならないとされていました。
しかし、管理継続義務の発生要件や内容が明確ではありませんでした。
このため、相続の放棄をしたのに過剰な負担を強いられるケースもありました。

民法改正後の規定

相続の放棄の時に現に占有している相続財産につき、相続人(法定相続人全員が放棄した場合は、相続財産の清算人)に対して当該財産を引き渡すまでの間、その財産を保存しなければならないことが定められました。
民法940Ⅰ)

不在者の財産の管理の合理化
従来の規定

不在者財産管理人による管理・処分等により金銭が生じた場合に職務を終了できず、管理が長期化していました。

民法改正後の規定

不在者財産管理人による供託の規律が新設されました。
家事法146の2
供託をしたときは公告をする必要があります。
しかし、多少は面倒ですが、 適時に職務を終了させることが可能になりました。

相続制度(遺産分割)の見直し

遺産分割に関する見直し

具体的相続分による遺産分割の時的限界

従来の規定

相続が開始し、相続人が複数いると相続財産は、原則として全相続人により共有されます。
(旧民法898参照)。
しかし、遺産が共有関係にあると、各相続人の持分権が互いに制約し合う関係に立ちます。
このため、遺産の管理に支障を来すことになります。
また、遺産分割がされないまま相続が繰り返されて多数の相続人による共有関係になる場合もあります。
このような状態では、相続人の一部が所在不明になり、所有者不明土地が生ずる原因にもなります。

民法改正後の規定

相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)によることとなりました。
民法904の3
このように時間制限を設けることで、早期の遺産分割を促しています。

改正法の施行日前に相続が開始した場合の遺産分割の取扱い

改正法の施行日(R5.4.1)前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても、新法のルール適用されます。
ただし、経過措置により、少なくとも施行時から5年間の猶予期間を設けられます。
例えば、相続開始がH24.4.1だったとします。R5.4.1の段階で10年は経過していますが、5年間の猶予のためR10.4.2までは具体的相続分で遺産分割ができます。

遺産共有と通常共有が併存している場合の特則

従来の規定

従来は、遺産共有と通常共有が併存する共有関係を裁判で解消するには、通常共有持分と遺産共有持分との間の解消は共有物分割手続で、遺産共有持分間の解消は遺産分割手続で別個に実施する必要がありました。

民法改正後の規定

相続開始時から10年を経過したときは、遺産共有関係の解消も地方裁判所等の共有物分割訴訟において実施できるようになりました。
これは不動産に限らず、共有物一般が対象となります。
民法258の2Ⅱ、Ⅲ)
この場合、共有物分割をする際の遺産共有持分の解消は、具体的相続分ではなく法定相続分又は指定相続分が基準です。
ただし、被告である相続人が遺産共有の解消を共有物分割において実施することに異議申出をしたときはできません。

不明相続人の不動産の持分取得・譲渡

従来の規定

相続により不動産が遺産共有状態となり、相続人に所在等不明者がいる場合でも、所在等不明者との不動産の共有関係を解消するための持分の取得・譲渡ができませんでした。

民法改正後の規定

共有者(相続人を含む)は、相続開始時から10年を経過したときに限り、持分取得・譲渡制度により、所在等不明相続人との共
有関係を解消することができるようになりました。
方法は以下の2通りとなります。

  1. 共有者が裁判所の決定を得て、所在等不明相続人(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を、その価額に相当する額の金銭の供託をした上で、取得できる(民法262の2Ⅲ)
  2. 共有者が裁判所の決定を得て、所在等不明相続人以外の共有者全員により、所在等不明相続人の不動産の持分を含む不動産の全体を所在等不明相続人の持分の価額に相当する額の金銭の供託をした上で、譲渡できる(民法262の3Ⅱ)

なお、共有者が取得する所在等不明相続人の不動産の持分の割合、所在等不明相続人に対して支払うべき対価(供託金の額)は、具体的相続分ではなく、法定相続分又は指定相続分です。(民法898Ⅱ)
また、10年が経過する前でも、所有者不明土地・建物管理人は選任できます。

最後に

今回は民法改正の概要について解説しました。
なお、民法改正は多岐に亘るため、この記事の解説で抜けている部分があるかもしれませんが、ご容赦願います。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が法律系資格を学んでいる方や所有者不明土地問題について学びたいと考えていた方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームからいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です