相続土地国庫帰属制度とは?

相続土地国庫帰属制度とは、相続又は遺贈により取得した土地を手放し、国庫に帰属させることができる制度のことです。
これは、土地を相続したはいいが管理に悩まされている方にとっては希望となる制度と言えるでしょう。
しかし、制度を学びたいと思っていても、法務省の関連文書を読解するのはなかなか骨が折れます。
そこで今回は、法務省の文書を徹底的に要点抽出し要約しました。
この記事を読めば、ある程度は相続土地国庫帰属制度について理解できるかと思います。

相続土地国庫帰属制度の概要

制度ができた背景

近年、土地の所有者が所在不明である所有者不明土地問題が深刻な社会問題となっています。
所有者不明土地問題については前回の記事で既に解説しているので、今回は省略します。
気になる方は以下の記事を御参照ください。

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この所有者不明土地問題を解消するために、国は様々な施策を打ち出してきました。
民法改正、不動産の相続登記・住所変更登記の義務化、そして、この制度も施策の一つです。
つまり、所有者不明土地問題は解決にこれほどの法改正が必要な程の深刻な国難なのです。

制度の利用方法

この制度の利用方法は至って簡単です。
手続は以下の流れになります。

  1. 相続等で土地を取得した者が法務局に承認申請を提出する
    ※共有地の場合は共有者全員で申請しなければいけません
  2. 法務局が申請された土地に対して実地調査等をする
  3. 承認された場合、申請者が10年分の土地管理費を納付して手続き完了

以上のように実質的に申請書の提出と土地管理費の納付の2点だけで手続きは完了します。
また、相続からどれほど期間が経過していても利用可能です。

法定手数料

申請時に法定手数料14,000円を支払う必要があります。
支払方法は申請書に収入印紙を張り付ける方法で実施します。
また、一度支払った手数料はいかなる場合でも返納はされません。

注意すべきこと

管理や処分に過分な費用または労力を要する土地は利用できない

この制度を利用することができるのは、あくまでも土地(更地)だけです。
以下のような土地は原則として対象外となります。

  1. 既に建物が建っている土地
  2. 土壌汚染がある土地
  3. 危険な崖(勾配30°以上で高さ5m以上のもの)がある土地
  4. 担保権や使用収益権を設定している土地
  5. 通路や水路、ため池等の他人に使用される土地が含まれている土地
  6. 境界が明らかになっていない土地
  7. 所有権の帰属について争いのある土地
  8. 除去しなければ土地を管理することができない埋蔵物が地下にある土地
  9. 除去しなければ土地を管理することができない工作物や車両等がある土地
  10. 隣接する土地の所有者と管理について争いのある土地
  11. 鳥獣等による被害が発生するおそれのある土地
  12. 適切な伐採や造林がされていない森林
  13. 金銭債務の対象となっている土地

このように、当該制度の対象となる土地はかなり限定的です。
制度の対象になるかどうかの判別が難しい場合は専門家に相談してみましょう。

負担金を支払わなければならない

この制度を利用するためには、ある程度の負担金を支払わなければなりません。
これは、概ね標準的な土地管理費用の10年分を換算して請求されます。
「全然国民に優しくないじゃないか!」と憤怒された方もいらっしゃるでしょう。筆者も最初はそう感じました。
しかし、前提としてこの制度は買い手が付かないような不要な土地を想定しています。いわゆる”負”動産というものです。
買い手が付くような高価な土地ならば、自分で買い手を探して売却すればいいだけの話です。
それに、誰も買い取ってくれない不要な土地を保有していても毎年の固定資産税が取られるだけです。
長期的に考えれば多少の費用が掛かっても国庫に引き取ってもらった方が得となる場合だけこの制度を利用すべきでしょう。

さて、土地は地目や立地によって価値が大きく異なるものです。
そのため、負担金の算定法は以下のようになります。

算定法

  1. 宅地の場合
    面積に関わらず20万円
    ただし、市街化区域または用途地域の指定がある土地は面積に応じて個別判定(100㎡あたり約55万円程度)
  2. 田または畑
    面積に関わらず20万円
    ただし、市街化区域または用途地域の指定がある土地は面積に応じて個別判定(500㎡あたり約72万円程度)
  3. 森林
    面積に応じ個別判定(1500㎡あたり約27万円程度)
  4. その他
    面積に関わらず20万円

この面積に関する算定法は、面積が大きくなるほど1㎡あたりの金額は安くなります。
また、申請により隣接する複数の土地を1つの巨大な土地として換算することも可能です。
なお、以下のデータから概ねの負担金額を算定することができます。
気になる方は御参照ください。

相続人しか利用できない

この制度は誰でも利用できるわけではありません。
制度名からも分かる通り、相続または遺贈により対象の土地を取得した相続人しか利用できません。
ただし、たった1つだけ例外があります。
それは、相続以外の原因により共有持分を取得した共有者が相続人と共同申請する場合です。
上の一文だけで理解できる人間はまずいないと思うので、少し掘り下げて解説します。

まず、Y氏が所有する土地を、X氏(自然人)と法人Zが買い取ったとします。
この時のX氏と法人Zの共有持分はそれぞれ1/2としましょう。
次に、X氏が死亡し、子のA氏がX氏の保有する持分を相続しました。
この時の共有状態はA氏が持分1/2、法人Zが持分1/2です。
さて、この場合は順当にいえば相続で土地を取得したA氏しか当該制度を利用できない筈です。
しかし、それではあまりにも融通性を欠いてしまいます。
そのため、A氏と法人Zが共同で同時申請する場合のみ、法人Zも当該制度の対象者とみなされます。

代理申請できるのは司法書士と行政書士のどちらなのか?

結論から言えば、代理申請はどちらもできません。
これは、当該手続は原則として本人申請でなければならないと法務省が明言しているためです。

承認申請手続を行う者について

  • 国庫帰属制度における承認申請手続は、法定代理人(親権者、成年後見人等)による場合を除き、申請者が任意に選んだ第三者に申請手続の全てを依頼する手続の代理は認められません。そのため、法定代理人による場合を除いては、申請手続は申請者本人が行う必要があり、申請書には申請者本人の記名、押印が必要となります。
  • また、承認申請に対する法務大臣の通知(承認、不承認等)は、申請者本人に対して行われます。
法務省:相続土地国庫帰属制度における専門家の活用等について

ただし、これはあくまで窓口での申請は本人に限定されるという意味です。
申請する前の書類作成であれば弁護士、司法書士、行政書士が代行できます。
扱い的には帰化申請と同様ですね。
ただし、原則として申請は本人がしなければなりません。
厳密に言えば窓口まで司法書士や行政書士が随伴することはグレーゾーンです。(まあ、ダメとは言われないでしょうが…)

最後に

今回は相続土地国庫帰属制度について解説しました。
新しいこと、知らないことを学ぶのは本当に楽しいですね。筆者もこの記事を執筆するために勉強をするまでは、この制度は司法書士の独占業務だと思っていました。行政書士の新たな業務分野となりうるということを知り、ますます勉強をしなければならないと感じます。
【参考資料:令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が当該制度について学びたいと考えていた方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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