相続登記の義務化とは?

相続登記の義務化とは、令和6年4月1日から開始される新制度であり、従来は任意であった不動産の相続に伴う所有権移転登記を義務化するというものです。
一見すると、国民の負担が一方的に大きくなっただけのように感じてしまいます。
ただ、本来であれば登記は常に最新の状態であることが望ましいのは明らかです。
それに、登記義務を懈怠したまま放置していると後々に面倒なことになってしまいます。
そこで、今回は法務省の発出した資料を徹底的に要点抽出し、相続登記の義務化に至った背景・相続登記の概要・関連する新制度までを一気に解説します。

相続登記の義務化に至った背景

土地等の不動産を取得した場合、原則として登記が必要です。
ですが、権利部の登記は義務ではないため、放置していても罰則はありませんでした。(この点、表題部の登記は現行法においても義務があるため注意しましょう)
そのため、未登記で放置する事例が多々ありました。
しかし、国が長年にわたり未登記を許していたため、近年とある問題が発生しています。
それが所有者不明土地問題です。

所有者不明土地問題とは

まず、所有者不明土地とは、以下の2種類の土地を指します。

  1. 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
  2. 所有が判明しているが、所在不明で連絡が付かない土地

所有者不明土地は非常に多くの問題を抱えています。

例えば、所有者の探索に多大な時間と費用が発生します。何代にもわたり戸籍や住民票を収集しなければならず、現地訪問の負担も大きいです。
また、共有者が多数・一部所有不明者の場合は土地の利用の合意形成が困難となります。
これは、当時の民法は共有物の著しい変更には共有者全員の同意が必要だったからです。ここでいう著しい変更とは売却も含まれます。
つまり、共有者のうち一人でも所在不明者がいれば原則として土地を売却することが叶いませんでした。
これでは不要地の有効活用も難しくなってしまいます。結果として土地全体の荒廃を加速させることになります。
このように、所有者不明土地問題は連鎖反応的に様々な問題を発生させます。
なお、国交省の調査によれば、令和2年度には所有者不明土地は地籍調査をした土地の24%にものぼり、経済的損失は計り知れないものとなっています。

所有者不明土地は、人口減少・高齢化の進展とそれに伴う相続件数の増加、土地利用ニーズの低下と所有意識の希薄化を背景に増加してきた。国の直轄事業における用地取得業務においては、所有者がわからないためにあい路案件となっている件数の占める割合が、平成 18 年度には 12.2%であったものが令和元年度には17.2%となるなど、約 1.5 倍に増加している。また、地籍調査を実施した地区における登記簿上の所有者の所在が不明な土地の割合は、平成 29 年度には約 22%であったものが3年後の令和2年度にも約 24%であるなど、一定数存在していることがうかがえる。

国土審議会土地政策分科会企画部会 所有者不明土地法の見直しに向けた方向性のとりまとめ(R3.12)001447182.pdf (mlit.go.jp)

さらに、遺産分割をしないまま相続が繰り返されると共有者はネズミ算式に倍増します。
すなわち、高齢化の進展に伴い今後ますます深刻化が懸念される問題なのです。

【補足】現在の民法では共有者が所在不明でも土地を売却等する手段がある

現在の民法は共有者に所在不明者がいた場合でも売買をする方法が新設されました。
方法は複雑ですが、以下の手順で所在不明共有者の持分を一方の共有者が取得できます。

  1. 所在不明共有者を捜索する
  2. 捜索の結果、その所在が不明であることを証明する
  3. 裁判所に所在不明所有者の持分を請求する裁判を提起する

こうして所在不明者から持分を取得した後は売却が可能になります。
【根拠法令:民法第262条の2第1項 - Wikibooks

また、売却以外に長期賃貸借契約も同様の手順ですることが可能になりました。
【根拠法令:民法第251条第2項 - Wikibooks

相続登記の義務化の概要

上記のような問題を解決するため、令和6年4月1日から不動産登記法が改正され、相続登記の義務化が始まります。
これにより、正当な理由の無い申告漏れがあった場合は10万円以下の過料が科されます。
この正当な理由として認められるのは以下の場合です。

  1. 数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
  2. 遺言の有効性等が争われている場合
  3. 重病等である場合
  4. DV被害者等である場合
  5. 経済的に困窮している場合

このうち、4項のDV被害者等である場合は今一つピンとこない方もいると思います。
これは、登記をすると登記簿に所有者の氏名住所が記載され、かつ、誰でも閲覧可能な状態に置かれるための被害者への保護措置です。
DV被害者等で住所を隠したい人にとって、登記をすること自体がリスクになりえます。
その配慮としてこのような措置がされていると考察されています。
また、DV以外にもストーカーや児童虐待等の被害者である場合も同様に保護されます。

相続登記の期限

また、登記の期限は相続人が相続により土地を取得したことを知った日から3年以内です。
これは、相続が発生したことを知らなかったり、そもそも自分が相続人であることを知らない場合があるため、「知った日から3年以内」となっています。
相続開始直後は行政手続が煩雑なため、3年以内という猶予期間はかなり良心的です。
かといって放置すると別の相続が開始してしまったりと面倒な事態が発生しかねません。油断することなく専門家に相談することを推奨します。

相続登記の義務化の注意点

義務者の範囲

この相続登記の義務者は、相続人だけではなく特定承継遺言・遺贈により不動産を取得した者も含まれます。
特定承継遺言とは、特定の遺産を相続人の誰に相続させるかを指定する遺言のことです。
遺贈とは、遺言によって特定の財産を贈与することです。こちらは対象が相続人に限定されません。
これらによって財産を取得した人は、法律上ほぼ相続人と同義であると考えられているため相続登記義務が発生します。

遺産分割後の登記義務

また、遺産分割が事後的に成立した場合、その都度新たに登記義務が発生します。
例えば、相続開始から3年以内に相続人申告登記をした後に、遺産分割したとします。
この場合、遺産分割の成立時を基準として新たに3年以内に登記をしなければいけません。

施行日(令和6年4月1日)以前に相続が発生していた場合も適用対象となってしまう

法律というものは基本的には遡及効は認められません。
施行された日以降からしか効力を発揮しないものです。
しかし、相続登記義務化はその例外と言えます。
なんと、施行日以前に相続が発生していた場合も相続登記義務の対象となります。
ただし、これはあまりにも相続人にとって酷です。そのため、登記義務の履行期間は「施行日以降」または「相続開始を知った日」のいずれか遅い日からカウントされます。
例えば、令和5年3月31日に相続が発生し、相続人が相続を知った日が令和6年5月1日だったとします。この場合は令和6年5月1日を起算日として採用します。

相続登記の義務化に伴う新制度

このように、相続登記が義務化されることは前述のとおりです。
しかし、ただ義務化しても不動産登記の難解さが緩和されなければ国民負担が増えるだけです。
そのため、法改正により以下のような緩和措置が講じられることになりました。

所有不動産記録証明制度の新設

現行法の問題点

現行の不動産登記法には複雑な問題があります。
それは、不動産の登記簿は土地や建物ごとに1件ずつ作成されているため、個人が所有する不動産の総数が分からないという点です。
不動産の登記簿を見たことが無い人は「え?どういうこと?」と感じると思うので掘り下げて解説します。

不動産登記簿の一例
不動産登記簿


上記の写真で言えば、上半分を「表題部」といいます。不動産の状態(所在地や地積等)が記録されます。
さて、地積528㎡に下線が引かれ658㎡に修正されていますね。
これは当初の528㎡が誤りで昭和56年に国土調査をした結果、正確な地積が658㎡であったことを示しています。
なお、表題部の登記は土地家屋調査士(測量と製図のプロです)の独占業務です。
また、下半分を「権利部」といいます。
これは不動産の「売った・借りた・担保にした」等の権利変動の状態を示しています。
これを見れば、現在の所有者は2番で登記された者であることが分かります。
しかし、同時に3番で農地転用許可を条件とした売買がされていることも分かります。
この権利部の登記は司法書士(不動産と会社の登記のプロ)の独占業務です。

登記簿は土地の履歴書のようなもの

このように、簡単に説明すると登記簿は「その土地の履歴書」です。
Aという土地がある場合、原則として所有者、抵当権者等の履歴は全て記載されます。
「A土地は平成〇年に山田さんから鈴木さんに売却され、この際にM銀行の抵当権がつけられた」といった具合です。この記載法を物的編成主義といいます。
確かに、特定の不動産の発生から現在までの変遷を記録するには適格な記載法です。
しかし、これではA土地の履歴だけしか分かりません。
「じゃあ、鈴木さんは他にどのような不動産を持っているの?」という疑問には絶対に答えられません。
もし鈴木さんに相続が発生した場合、相続人は相続財産の確定に非常に苦難することになります。
今までは、固定資産税の明細書等を紐解いて所有する不動産を調べるしか方法はありませんでした。
しかし、書類が紛失している場合もあり得るため、見逃された土地については相続登記がされず放置されることもありました。

被相続人の所有する不動産のリスト化

このため、新制度として登記官が特定の被相続人が所有権の登記名義人である不動産の一覧リストを作成し、証明してくれる制度が創設されることになりました。
この一覧リストのことを所有不動産記録証明書といいます。
また、この制度は当面は被相続人が権利部に登記された所有権者の場合のみが対象ですが、将来的には表題部所有者も対象に含めることが検討されています。

所有不動産登記証明書を請求できる者

この証明書はプライバシーの塊のような情報なので、請求できるのは以下の者に限定されます。

  • 不動産の所有者自身
  • 相続人その他の一般承継人(不動産を買った人のこと)

相続人申告登記の新設

現行法では、遺産分割が無ければ全相続人が法定相続分の割合で不動産を共有した状態になります。
この共有状態のまま登記することもできます。
しかし、法定相続人の範囲等を確定するために被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本・除籍謄本等の膨大な書類が必要でした。
専門家である司法書士であれば容易でしょうが、誰もができることではありません。
そこで、法改正により相続人申告登記という登記方法が新設されることになりました。
これは、所有権の登記名義人について相続が開始した旨自らがその相続人である旨を、申請義務の履行期間(3年)以内に登記官に申し出ることにより、申請義務を履行したものとみなすという制度です。
申し出を受けた登記官は、審査のうえ、職権で付記登記を実施します。
職権登記なので無料で行ってくれます。ただし、共有持分は記載されません。
また、この申し出は相続人が複数人いる場合でも、その一人だけ単独で実施することができます。
さらに、必要書類は自身が相続人であることを示す戸籍謄本だけです。かなり経済的と言えるでしょう。

所有者死亡情報の符号の新設

現行法では、不動産所有者が死亡しても相続登記がされない限り所有者が死亡した事実は登記簿に記載されません。
このため、公共事業等の事業用地の選定をした後に当該土地が所有者不明土地であることが発覚し、所有者の特定に多大な時間と費用を労することがありました。
そこで、法改正により登記官が他の公的機関から取得した死亡情報に基づき、登記簿に死亡の事実を表示する制度が新設されることになりました。
なお、この制度は「所有者の死亡」を対象としていますので、所有者が法人である場合は対象外です。

最後に

今回は不動産の相続登記の義務化について解説しました。
法務省の発出する資料は非常に難解で、専門知識の無い方では読解が難しいと言われています。
しかし、筆者のような浅学菲才の者でも根気よく読み込めば必ず理解できます。
今回の記事は以下の法務省のHPに掲載された文書を要約したものです。興味がある方は参照してみて下さい。
【参考資料:令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント】

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が相続土地の義務化について学びたいと考えていた方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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