許可を受けずに農地の売買等をした場合はどうなる?

許可を受けずに農地の売買等はしてはいけません。
もし、許可を得ずに権利変動に関わる取引をしても、一切の権利変動は発生しません。
【根拠法令:農地法第3条6項| e-Gov法令検索
しかし、それではあまりにも契約当事者に救いが無さすぎると言わざる負えません。
そこで、許可を受けずに農地の売買等をしてしまった場合の対処法について解説します。

許可を受けずに農地売買して悩む農家

事後的に許可を取ることができる

許可なく売買や転用等をしてしまっても、事後的に許可を取得することが可能です。
実際のところ、農地を宅地に改変して既に住宅が建造されている状態ではこの方法が現実的でしょう。
ただし、この場合は始末書(名称は各自治体により異なります)を申請書類に含めることが必要です。

始末書の書き方

始末書にはこれといった定型はありません。
ですが、多くの場合は以下の項目を含めることが一般的です。

  1. 申請日
  2. 許可権者
  3. 申請者の氏名、住所(自署、押印)
  4. いつ頃から無断転用をしているか
  5. 無断転用に至った経緯
  6. 無断転用している農地の登記上の所在地(地番、地目)および面積
  7. 反省の意
  8. 今後は法令を遵守する旨
  9. 審議のお願い

ポイントとしては、申請者の氏名住所はPC打ちではなく自署であるべきです。
あくまでこの文書は許可権者に反省を示すことが目的です。最低限この部分は自署で執筆しましょう。

買主が有する固有の権利

また、売主が許可申請の取得に非協力的である場合もあります。
この場合、買主は裁判によって売主に許可申請の協力をすることを請求できます。
これを所有権移転許可申請協力請求権といいます。
農地の売買・転用許可は原則として共同申請です。このため、売主が協力義務を果たしていない場合はしかるべき処置を要求できるという訳です。

ただし、この請求権は時効により消滅してしまうという致命的な欠点があります。
なぜならば、この権利は所有権に基づく物権的請求権ではなく、単なる債権的請求権として扱われるからです。
そのため、売買契約から10年の経過により当然に時効消滅します。

許可申請協力請求権は、許可により初めて移転する農地所有権に基づく物権的請求権ではなく、また所有権に基づく登記請求権に随伴する権利でもなく、売買契約に基づく債権的請求権であり、民法167条1項の債権に当たると解すべきであつて、右請求権は売買契約成立の日から10年の経過により時効によつて消滅するといわなければならない。

昭和50年4月11日最高裁判決:裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

また、賃借権契約の場合も同様であり、賃借権設定許可申請協力請求権を借主は行使することが認められています。

農地賃借権を認めた貸主である上告人は右契約上当然に相手方に対しその使用権の効力を完全ならしめるため使用権設定の許可申請に協力する義務あるものといわなければならない。

昭和33年6月28日最高裁判決:裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

なお、この賃借権設定許可申請協力請求権については上記の一例しか判例が無いため断言はできませんが、昭和50年4月11日最高裁判決が類推適用され、同じく10年の消滅時効に掛かるものと推察されます。
農地を売買・賃貸する契約を締結した場合、速やかに許可申請を行うことが求められます。
また、売主が無許可で農地を譲渡し、相当期間経過後に消滅時効を理由に申請協力義務を拒否することは信義則違反のため許されないとされています。

家督相続をした長男が、家庭裁判所における調停により、母に対しその老後の生活保障と妹らの扶養及び婚姻費用等に充てる目的で農地を贈与して引渡を終わり、母が、20数年これを耕作し、妹らの扶養及び婚姻等の諸費用を負担したなど判示の事実関係のもとにおいて、母から農地法三条の許可申請に協力を求められた右長男がその許可申請協力請求権につき消滅時効を援用することは、権利の濫用にあたる。

昭和51年5月25日最高裁判決:裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

また、許可取得後も法務局で権利移転や地目変更の登記も必要であることを忘れてはいけません。

注意すべきこと

このように、事後的許可を取得することにより権利を取得することが可能です。
しかし、この事後的許可はどのような場合でも認められる訳ではないことに注意が必要です。
あまりにも悪質な転用等があった場合は、原状回復を求められることも当然にあり得ます。
事後的許可は最後の手段であり、本来は事前に許可を受けてから転用等をしなければならないことを念頭に置いておきましょう。

最後に

今回は許可を受けずに農地の売買等をしてしまった場合に対する対処について解説しました。
無断転用等は放置していると事態が悪化します。いざ自分が農地を売買しようとした時に障害となってしまうのです。
無断転用等をしてしまっていた場合については、農地法に詳しい行政書士等に相談することを推奨します。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせフォームからいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

【併せて読みたい記事】

農地の無断転用に関する罰則

農地の無断転用には罰則が科されます。それも、農地法の許可を受けずに転用したり虚偽の申請をして許可を受けた場合は3年以下の懲役または300万円以下の罰金という極…

農地の違反転用の定義とは?事例と行政の対応

農地の違反転用の定義、具体的な事例、その対処について解説します。農地の違反転用に気づいてしまった場合は速やかに役所に相談しましょう。

農振地域でも非農地証明はできるのか?【広島県】

広島県内の各自治体の非農地証明の取扱いについて解説しました。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です