農地の利用権についての詳細解説 - 熊谷行政書士法務事務所
農地の利用権とは、農地法3条許可を得ることなく農地の賃貸借等ができる制度です。
利用権は各市町村の「利用権設定等促進事業」により認められた制度です。
しかし、既に農地法3条の規定があるのにも関わらず、わざわざ利用権を使う意義はどこにあるのでしょうか?
今回は、3条許可と利用権の違いについて解説します。
目次
利用権が設けられた背景
農地法において、賃借人の権利を保護するために以下の規定を設けています。
- 引渡による対抗力の付与
通常は不動産に関する賃貸借の対抗要件は登記です。しかし、農地は引渡しを受けるだけで第三者に対抗ができます。
【根拠法令:農地法 第16条】 - 賃貸借契約の法定更新
農地の賃貸借は期間満了の1年前~半年前の間に相手方に解約の申し出を通知しなかった場合は、自動的に従前と同一の条件で契約が更新されます。さらに、この解約の申し出は許可権者(農業委員会等)の許可を得なければすることはできません。
【根拠法令:農地法 第17条及び18条】
上記2つの規定のうち、特に強力なものは法17条及び18条の法定更新制度です。
パッと見ただけではこの規定の理不尽とも思える重大さが分かりにくいかと思います。
分かりやすく説明すると、農地の賃貸借契約を一度結んでしまうと、もう二度と貸主に戻ってこなくなる可能性があるのです。
農地の賃貸借契約の解除方法
以下、段階的に解説しましょう。
①賃貸借契約の解約には許可権者の許可が必要である
②解約の申し出には法定の提出期間が定められている(早すぎても遅すぎてもダメ)
③期間内に解約の申し出をしなかった場合は問答無用で自動更新される
④許可を得ずにした解約手続きは当事者同士の同意があったとしても絶対的に無効である
このように、農地の賃貸借は借主が圧倒的に有利な立場に置かれています。
しかも、貸借権等の解除の許可の可否についても、圧倒的に借主に有利な条件で判断されます。
具体的には、賃借人が平均的な農業収入を得られる営農を行っており、かつ機械や労働力等の営農基盤が備わっている限り、よほどの事情が無ければ許可は認められません。
すなわち、農地の賃貸借契約は一度締結されると解除すること自体が非常に困難なのです。
なお、賃借権の解除に関する細部の条件については以下の記事で解説しております。気になる方は御参照ください。
このように、農地の借主は法律上で非常に手厚い保護を受けています。
このため、貸した農地が返ってこないことを懸案して農地の貸し渋りが起きてしまうことがありました。
この問題を解消するために設立された制度が利用権による賃貸借なのです。
農地の利用権の特性
利用権の特筆すべき点は、期間が満了すれば賃貸借契約は終了し、確実に貸主に農地が返納されることです。
すなわち、農地法第17条の法定更新制度が排除されているのです。
もちろん、当事者同士の合意によって契約を更新することも可能です。
これにより、農地の所有者は安心して賃貸借契約を結ぶことが出来るようになりました。
また、利用権を設定する場合の手順については以下の図をもって解説します。
【画像出典:広島県HP】
まず、農地を貸したい人と借りたい人のニーズを農業委員会が調査します。
次に、農業委員会が農地利用収集計画を作成し、公告します。この公告の完了をもって賃貸借の効力が発生します。
農地利用収集計画という難解な言葉が出てきましたが、これは貸主や借主が作成するものではないため、あまり深く考える必要はありません。
3条許可のハードルの高さについては既に他の記事で記述しています。そのため、ここでは重ねて解説しませんが、それに比べるといかに簡単かが良く分かると思います。
賃貸借だけではなく売買も可能
この利用権は賃貸借契約だけではなく、売買も可能です。
この場合、通常の3条許可による売買よりも税金が安くなるというメリットもあります。
通常の売買であれば登録免許税が不動産価格の1.5%かかります。しかし、利用権の場合は0.8%に抑えられます。
また、所有権移転登記も市町村の嘱託登記(行政が自動的やってくれる)になります。
司法書士に委任することなくスムーズに登記を進められることもメリットの一つです。
注意すべきこと
農地を利用権で取得または賃貸する場合、当然と言えば当然なのですが無条件で誰でもできるわけではありません。
最低限の条件として、譲受人借主が3条許可の許可要件を満たしていることが必要です。
営農適格者でない者に農地を与えてしまうと農地潰廃を起こす可能性があります。こればかりは仕方がない措置でしょう。
農業を始めたいと考えている方は、最低限の資金力と耕作能力を確保してからでなければ着手は難しいのです。
最後に
今回は農地の利用権設定について解説しました。
この制度を利用すれば、繁雑な手続を回避して農業を始めることができるかもしれません。
農業を始めてみたい方や農地を拡大したい人は是非検討してみましょう。
今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。
この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。
また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
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