農振地域除外申請が却下されたら抗告訴訟ができるか?

農振地域除外申請が却下された場合、抗告訴訟によって処分の無効を求めることは出来るのでしょうか?
農振地域とは、ドラマ北の国からに出てくるような大規模な集団農地のことを指します。
細部の農地区分については過去記事「農地区分とは?」を参照ください。
この農振地域に指定された農地は、原則として転用ができません。
出来たとしても非常に限定的かつ一時的なものに限られます。
そのため、住宅やソーラーパネルを設置するために転用することは限りなく不可能です。
しかし、農振地域のまま転用することは不可能ですが、農振地域の除外を申請することは出来ます。
これによって農振地域外となった場合は転用の可能性が見えてきます。(それでもここから先がまだまだ長いのですが…)
では、農振除外申請をして、却下されてしまった場合、抗告訴訟によって処分の無効を求めることは可能なのでしょうか?
今回はこの問題について解説します。

結論:不可能

まず結論を先に述べると不可能です。
以下、理由について解説します。

抗告訴訟とは?

まず、抗告訴訟とは何かについて解説する必要があります。
抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟を指します。
つまり、行政庁に「その処分は違法だ!やめろ!」という訴えですね。
具体的には以下の7種類です。

  1. 取消訴訟
  2. 無効等確認の訴え
  3. 不作為の違法確認の訴え
  4. 義務付けの訴え
  5. 差止めの訴え
  6. 当事者訴訟
  7. 無名抗告訴訟

厳密に分類するとここからさらに細かく細分化されますが、今回の本筋から外れるため省略します。

これらの訴訟は誰でも提起できるわけではありません。
訴訟要件として、処分性、原告適格、被告適格、訴えの利益、出訴期間、管轄があります。
分かりにくいと思いますので整理すると以下のようになります。
「期限内に、訴訟資格がある者が、当該処分に関して利益を回復するために、適切な相手を訴えなければならない」
この中でも特に重要なものが処分性です。

処分性とは?

処分性とは「果たして、これは行政処分と言えるのか?」ということです。そのまんまですね。
行政処分に該当するかどうかについての判定基準については以下の有名判例があります。

行政処分とは、公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務その他の法的地位を形成し又は変動することが法律又は条例によって認められているものをいうものである

最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決 053801_hanrei.pdf (courts.go.jp)

まず、前提として国等の公共団体が行う行為でなければなりません。
次に、国民の権利義務等に何らかの影響を与えるものであることが必要です。

では、農振除外申請の却下に処分性が認められるかどうかについては、以下の判例によって結論が出されています。

農用地区域から除外する旨の変更計画につき(…)それ自体としては国民の権利義務に対して直接影響を与えるものではなく,(…)農用地区域内においては,開発行為や農地法上の許可に関する処分を行うにつき,制約を受けることになるが,これらの制約は,(…)当該地域内の不特定多数の者に対する抽象的一般的なものにすぎず,これによって直ちに国民に対して具体的な義務を課したり,権利を侵害するものとはいえず,(…)抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない

名古屋地方裁判所平成15年2月28日 裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

文章が難解で少々読みにくいですね。
つまり、口語訳すると以下のようになります。
「確かに農振地域内の人は法律上の制約を受けるが、別にこれは貴方だけを虐めてるわけじゃない。地域内の人が等しく享受しなければならない制約(これが抽象的一般的という意味)です。それに、今回の事件は国が貴方の所有している土地を無理矢理に奪おうとしているわけではない。現在の状態からの変更を認めないだけなので、別に貴方に新たな不利益は生じないはず。だからこれは処分ではないです。」

何だか納得できるようなできないような内容ですが、とにかく司法の決定は上記の通りです。従う他はありません。
なお、名古屋地方裁判所平成15年2月28日の事件では原告は町に対して国家賠償請求訴訟も提起しましたが、こちらも棄却されています。

まとめ

纏めると以下のようになります。

結論:農振地域除外申請が却下されても抗告訴訟はできない。
理由:農振地域除外許可の却下は処分性が無く、そもそも行政処分ではないから。

なお、農地の貸借権を解除する際にも許可が必要なのですが、こちらの場合は不許可となった場合は抗告訴訟が可能です。
詳細は以下の記事をご参照ください。
農地の賃借権は設定と解除にも許可が必要です - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)
【参考資料:農地法許可事務の要点解説(宮崎直己)】

最後に

今回は農振地域除外申請が却下されたら抗告訴訟ができるかについて解説しました。
こうやって整理すると、農地というものは国家に厳正に管理されているものだということが分かりますね。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

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