農地転用後の権利登記について

農地転用後の権利登記とは、3条または5条許可(届出)の後に必要になる手続きです。
3条または5条許可(届出)については必然的に権利の移転または設定が伴います。
権利を移転または設定した場合、法務局で登記が必要です。
この登記手続きは行政書士は請負うことは出来ません。
たとえ依頼人から1円の報酬も得ていなくてもダメなものはダメです。行政書士が登記書類の作成代行を行うことは禁止されています。
なので、申請者自身でやるか、司法書士に代理申請してもらうしか方法はありません。
(厳密に言えば弁護士も代理申請は可能なのですが、まず請負ってくれません。司法書士を斡旋される場合が大半だと思います。もし請負ってくれる弁護士がいたとしたら、同一法律事務所内に勤務司法書士がいる場合くらいでしょう。)
なお、登記手続きを自身でする場合は民法と不動産登記法の勉強が相当に必要です。
また、必要書類が多岐に亘るため収集に時間がかかります。
普段の仕事をしつつ登記も自分で完結するのは多大な苦痛を伴うと覚悟すべきです。
そのため、ほとんどの場合は司法書士に依頼したほうが良いという結果になります。
しかし、事前にある程度の概要を知っておくことは大切です。司法書士との業務調整がスムーズに行えます。
そこで、今回の記事では農地転用後の権利登記の概要と注意すべきことについて解説します。
なお、以下の事例については所有権移転のケースで司法書士に申請を委任する場合を前提に解説します。ご了承ください。

権利登記は双方申請が基本

まず、登記手続きは原則として単独申請ができません。
一部の例外を除き登記義務者(売主)と登記権利者(買主)の双方が申請人となります。
なので、司法書士に依頼する場合、委任状は売主と買主の双方が書かなければなりません。
この委任状は1枚で連名にしても複数人ごとに複数枚になっても構いません。
また、印鑑証明書も双方のものが必要です。
農地を売る場合、買主に事前にこの点を説明しておくべきでしょう。「そんなことは聞いていない!」と後々にトラブルになりかねません。
なお、民法上は契約にかかる費用は当事者双方の均等負担となりますが、商習慣上、売主が負担することが多いです。
【根拠法令:民法第558条
【関連記事:農地法の許可申請は一人ではできない:双方申請の原則 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

売主に相続が発生した場合

売買契約後に売主が死亡したケースです。
この場合でも売買契約自体は有効です。売主の相続人が登記義務者となって登記をします。
ただし、注意すべきこととして、相続人の全員が登記義務者となります。
これは、売主の登記をするという義務を全相続人が包括的に相続しているためです。
そのため、相続人全員が委任状を書く必要があり、印鑑証明書も全員分が必要です。
また、相続人と被相続人の続柄を証明するため戸籍謄本等も必要になります。
なお、通常は売買契約(条件付)締結⇒転用許可取得⇒売買の順で行われますが、どのフェーズで売主に相続が発生したとしても許可の可否に影響は及ぼしません。
ただし、許可取得前に相続が発生した場合は所有権移転登記の前提として相続登記を先にする必要があります。

買主に相続が発生した場合

売買契約後に買主が死亡したケースです。
こちらは少し複雑で、許可が自体が無効になる場合があります。
具体的には、売買契約(条件付)締結⇒転用許可取得⇒売買のフェーズのうち、転用許可取得前に買主に相続が発生した場合は許可は無効になります。死者に対する許可は無効だからです。
買主の相続人が農地を取得したい場合は再度許可申請をやり直す必要があります。
逆に言えば、許可取得後に相続が発生した場合、許可は有効です。所有権は相続人に継承されます。
この場合、被相続人に対する所有権移転登記を先にした後に相続登記をする必要があります。売主に相続があった場合と登記の順序が逆になります。

そもそも許可は必要ないが登記は必要になる場合

以下の場合は農地に所有権移転があったとしても許可は不要であると一般的に解釈されています。
しかし、所有権移転という事実は発生しているため、登記は必要になります。
また、許可が不要なだけで届出は必要です。

  1. 共有物の持分放棄
    ⇒協議による共有物分割は許可が必要です。
  2. 時効取得
  3. 法定解除
    ⇒合意解除は許可が必要です。同じ理由で、買戻し特約による買戻しも許可が必要です。
  4. 相続
  5. 合併・会社分割
  6. 法定相続後の遺産分割による持分移転
  7. 共同相続人間の相続分の譲渡
    ⇒相続人以外に譲渡する場合は許可が必要です。
  8. 包括遺贈
  9. 相続人に対する特定遺贈
    ⇒相続人以外への特定遺贈は許可が必要です。
  10. 財産分与の審判・調停
    ⇒協議による財産分与は許可が必要です。
  11. 特別縁故者への財産分与
  12. 土地収用
  13. 権利能力無き社団の代表者の委任の終了に伴う所有権移転

これだけ見ても、農地転用後の権利登記はやはり専門家に任せた方が良いということが分かりますね。

最後に

今回は農地転用後の権利登記の概要について解説しました。
いやはや、登記手続きは本当に難しいですね。自分で完璧にしようとするなら、最低でも民法と不動産登記法を1000時間くらいは勉強する必要があるように感じます。こんなに難しいことを毎日している司法書士の方々は本当に尊敬します。

今回は以上で終わります。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。

この記事が農地転用許可の取得を検討されている方の参考になれば幸いです。

また、この他にも有益な情報を逐次投稿しております。よろしければ他の記事もご覧ください。
投稿記事 - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com)

なお、業務に関するお問い合わせは、下記のお問い合わせ方法からいつでもどうぞ。
お問い合わせ - 熊谷行政書士法務事務所 広島県広島市 (lo-kuma.com

併せて読みたい記事

農地区分とは?

農地区分とは農地の目的によって5段階に分けられた区分のことです。全ての農地転用は農地がどの区分に該当するのかを確認するところから始まります。これは農地転用が可…

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です